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週刊READING LIFE vol.184

あなたは自分の「欲望」をコントロールできますか?《週刊READING LIFE Vol.184 「諦め」の技術》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/09/05/公開
記事:佐藤謙介(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 
「あなたはラーメンを年間どのくらい食べますか?」
 
とある調査によると、日本人が一年間に食べるラーメンの量はカップラーメンと外食を合わせると30杯近く食べているらしい。つまり月に直すと2~3杯ということになる。
 
もちろん年齢が若いほど摂食頻度は高くなる。
私もそうだったが、学生の頃はお金がなかったので、昼飯はカップラーメンを汁代わりにしておにぎりやパンを食べて腹を満たしていた。またバイト帰りには友達とラーメンをよく食べて帰っていたので、そのころは月に20杯は食べていたのではないかと思う。
 
社会人になっても飲み会のあとは「締めのラーメン」と言っては一緒にラーメンを食べていた。深夜に食べるラーメンには罪悪感が伴うが、若かったこともありそんなことはたいして気にも留めていなかった。
 
そのおかげで新卒で入社してから1年間で体重は10kgも増加していた。もちろんラーメンだけのせいではなく、仕事でのストレスを酒やタバコ、そして食べることで解消していたので、太ることもある意味仕方のないことだった。
 
また以前住んでいた日吉には「武蔵家」という有名なラーメン店があった。
「武蔵家」は横浜家系と言われ、店の名前の最後に「家」とつくことからそう呼ばれている。
家系ラーメンは1970年代に横浜市から発祥したと言われ、それからいくつもの系列に分かれてはいるが、醤油豚骨のスープをベースにしており、その濃厚な味が多くのファンを引き付けている。
私は武蔵家には週に1回以上は通っていたので、武蔵家だけで月に4~5杯は食べていた。他にも日吉には「らすた」という老舗ラーメン店もあり、ラーメン好きだった自分にとっては、たまらない日々を過ごすことができた。
 
ところがそんなラーメンを私はいま殆ど口にすることが無くなってしまった。
おそらく1年間にラーメンを食べるのはせいぜい2回くらいではないだろうか。いまこの記事を書いているときも直近でラーメン屋に行ったのはいつだっけと思い出すことができないほど、最近では食べなくなってしまったのである。
 
これは決してラーメンが嫌いになったわけではない。
むしろ横浜家系の豚骨醤油のスープに太いちぢれ麺などは、思い出すだけで口の中に唾が出てくるほど、あの濃厚な味を鮮明に覚えている。
 
しかし今は町中を歩いていてラーメン屋があったとしても立ち入ることはまずない。
なぜこんなことになったのかというと、それはラーメンを食べる以上に重要なことができたからである。
 
私は10年前からトレイルランニングという山を走る競技を始め、実際にレースに出るようになってから、自分の体重をコントロールするために、普段から食事に気を使うようになった。そのため、ラーメンなどの脂質や炭水化物が多い食事はできるだけ控えるようになったのである。
 
たまにこの話しを友人にすると「人生かなり損してるね」と言われることがある。
確かに自分の人生を仮に80年として、現在45歳の私が1年間に2杯しかラーメンを食べないとしたら、私が食べられるラーメンの量は残り70杯ということになる。
 
これは一般的な成人男性なら2年間で食せる量だ。
私の「生涯ラーメン数」は既に70杯からカウントダウンが始まっているのである。確かにそう考えると、私は好きなものを食べることを我慢したまま死を迎えるのかもしれない。そう思うと確かに人生損しているという友人の言葉も分からないでもない。
 
しかし、私にはそれ以上に重要なことができてしまったのである。
 
実際ラーメンをそれほど食べなくなって数年が経ったいま、普段そこまでラーメンを欲しているかというとそんなことはない。たまに食べるラーメンはそれまで食べていなかった反動もあり、衝撃的に美味しいと感じることができる。
 
私は自分が目標としているトレイルランニングのレースを完走した後などは、自分が大好きなラーメン屋に行って、腹いっぱい食べることにしているので、ある意味ラーメンは自分にとって最大の「ご褒美」という位置づけに変わったということだ。
 
実は私はトレイルランニングを初めて生活習慣がかなり変わってしまった。
基本的に毎朝走ることを日課にしているため朝どれだけ気持ちよく目覚められるかにこだわるようになった。そのためまず夜更かしすることはほぼなくなった。昔であれば仕事で残業をして深夜0時を回ってから家に帰ることなんてほぼ毎日だった。それどころか夜中に海外の連ドラを見続け、気付けば2時、3時になっているなんてこともよくあった。
しかし今では夜更かしなんてほぼしないし、仕事でどんなに遅くなっても22時には家に帰って、23時前に寝て、翌朝5時には起きて走りに出かけている。
 
だから夜に飲みに行くこともほぼなくなった。
飲みに誘われたとしてもまず頭に思い浮かぶのは、月間走行距離のことである。
今月300km走ろうと目標を立てていれば、毎日約10kmを走らなければならない。それがもし飲みに行って翌朝起きることができなければその分をどこかで補わなければならないのだ。
もちろんそのくらいの距離なら土日にいつもよりも多めに走ればリカバーできるのだが、もしかしたらその余計に走ったことがきっかけで足にダメージを与えてしまい怪我してしまうこともあり得る。その怪我が原因で数か月満足に練習できなくなることだってある。そう考えると、たった1日とはいえ自分のルーティンを変えることにはリスクを感じるのである。
 
このように私は飲みに誘われると瞬時にそんなことを考えてしまうのである。
そして多くの場合は走ることを選択するので、飲みは断ることの方が多い。
 
30代の前半までは毎日のように会社の仲間と飲みに行っていた自分からは正直想像することができない。
「あいつを飲みに誘うと、こんなことを考えて俺と走ることを天秤にかけているのか?」「随分付き合いの悪い奴になったな」と思われそうだが、事実そうなのだから仕方がない。
 
これだけ書くと確かにかなり嫌な奴に見えるが、自分の人生にとっては飲みに行くよりも、走ることの方が優先順位が高いのは事実なのである。
 
念のため言っておくと、全部の飲み会を断っているわけではない。
飲みに行くことが周りの人のためになっていると判断できるときは、走ることよりも周りのことを優先して飲みに行っている。あくまで飲みに行くことが自分の快楽になっている場合に限って、その快楽の優劣を決めているという話しである。
 
ちなみにこの朝走るという行為をするために、私は大好きだったコーヒーも飲まなくなった。
正確にはカフェインをとらないようにしているということなのだが、自然とコーヒーやお茶類を飲まなくなり、炭酸水やカフェインが入っていない麦茶やデカフェのコーヒーを飲むようになった。
 
このように私は、自分が趣味で行っているトレイルランニングのために、大好きだったラーメンやお酒、コーヒー、煙草、飲み会などをほぼ全て断っているのである。
 
ただ、これは私の場合はトレイルランニングという趣味を優先させたときに、そうなったという話しだが、実際世の中でプロと呼ばれる人たちのほとんどが、自分の欲望を切り捨てた生活をしている。
 
例えばアイドルグループのAKB48は「恋愛禁止」というルールがあると聞いたことがある。
アイドルにとっては恋愛などのスキャンダルは下手をすると芸能生活を台無しにする可能性があるものなので、事務所が禁止しているというのはうなずける。また実際にAKBのトップにいる数人は、自分がこの業界で成功するために自ら「恋愛禁止」を誓っている人もいると言っていた。これも自分が本当にやりたいことと比べた時に恋愛より仕事を優先させたということだろう。
 
またK1という格闘技でチャンピオンになった魔娑斗さんも現役時代のインタビューで「チャンピオンになろうと思ったら、普通の同年代がやっていることは全部捨てなければいけない」と語っていた。魔娑斗さんと言えば、若いころは暴走族に入りかなりやんちゃをしていた人である。おそらそのころは自分の欲望のみで生きていて、女性、煙草、お酒、喧嘩、そういったことに明け暮れていたはずだ。それが「K1でチャンピオンになる」と目標を決めた瞬間から、同年代の人たちが当たり前に行っていることを全て捨てて、格闘技一本に絞ったのである。
 
また魔娑斗さんは他のインタビューで「若い選手を見てコイツは伸びると感じた子は、間違いなく大事なモノを捨てて格闘技に命を懸けている」と言っていたから、何かを手に入れるためには、何かを犠牲にしなければいけないということが成功の条件だと考えているのだろう。
 
他にも世の中で成功している人たちはすべからく何かを捨てている。
 
日本電産の永守会長はハードワークで有名な人である。
永守会長は1年365日の中で元旦以外は全て仕事をしていると言っていた。それは若いころからそうで、会社を起業する前のサラリーマン時代から、仲間と飲みに行くことは殆どなかったそうである。
「なぜそんなことができたんですか?」という質問に永守会長は「もちろんそれは夢があったからです。その夢を実現させるほうが飲みに行くよりも遥かに価値があることでしょう。もちろん私を付き合いが悪いと言ってくる人もいました。でも私は心の中で『10年後を見てろ。俺は絶対に君らとは違う人生を歩んでいる』と思ってましたよ」とインタビューに答えていた。
 
このように成功者の中には自分の中にある優先順位に従って、余計な欲望は切り捨てている人は数多くいる。
 
私はこれは一種の「諦め」だと思っている。
「諦め」というとマイナスのイメージがある言葉かもしれないが、「諦め」とは実際には「覚悟」と近い言葉なのだ。自分が目指した目標のためには、これまでのように自分の好きなことを全てやっていたのでは達成することができないのだ。どんなに自分が好きなモノであろうが、それ以上に重要度の高い目標のためなら、それを「諦める覚悟」が必要があるのである。
 
そして切り捨てたものは本当に捨てるのではなく、目標を達成したときの「ご褒美」にすればいいのである。
 
これは行動心理学でいう「報酬系」と呼ばれるもので、人は自分が努力して目標を成し遂げた後に「報酬」をもらうことで、それまでの行動がさらに強化されるという心理が働くようになっている。
つまり、すべてのものが簡単に手に入る状態ではなく、自分の目標のために好きなものを切り捨て、その代わり達成したときに「報酬」としてそれを手に入れることができるようにすることで、人は目標に向かう行動を強化することができるのである。
 
私も目標のレースが近づくにつれて、より厳しく節制をすることがある。
正直、早く終わってくれと思うことも少なくない。しかし、これを乗り越えて目標レースをゴールしたあとに食べるラーメンはこの上なく幸せをもたらせてくれることを良く知っている。その美味しさを味わってしまうと、目標達成の途中で食べてしまうラーメンに罪悪感だけでなく、「もっと美味しく食べることができたのに、もったいない……」と感じてしまうのである。
 
もし皆さんも何か達成したいことがあるのであれば、自分が好きなことを一つか二つ「諦める覚悟」をしてみて欲しい。そしてそれを目標達成の「ご褒美(報酬)」にすることで、自分のポジティブな行動を強化することができるはずだ。
 
ぜひ皆さんもお試しいただきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2022-08-31 | Posted in 週刊READING LIFE vol.184

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