週刊READING LIFE vol.187

これって、伊勢神宮の神様の思し召し?《週刊READING LIFE Vol.187 最近のほっこりエピソード》


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2022/09/26/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「えッ、まさか、そんな、とんでもないです」
 
私は思いっ切り首を振った。
だって、見ず知らずの方に、そんなこと……。
 
私は今日、早朝から家を出て、伊勢神宮のお参りに来ていた。
わが家からは、ありがたいことに2時間半くらいで来れるのだ。
外宮から内宮の順番にお参りをして、最後に行きたかった別宮の伊雑宮(いざわのみや)へお参りをするため、駅に行こうとしていた。
 
ところが、内宮からおかげ横丁へと続く道を抜け、あまりにも暑かったので新しく出来ていたカフェでタクシーを呼ぼうと思ったのだ。
 
淹れたての香り立つアイスコーヒーが身体に染みた。
それから、急いでタクシー会社に電話をしたものの、なかなかつながらなかった。
焦っていると、お店の方も心配して大通りに出てはタクシーを探してくれたのだが見つからず、途方に暮れてしまった。
 
すると、カフェの方がその直前に車で訪れていた代表の方に事情を話し、その方が駅まで送りますと言ってくれたのだ。
そんな、とんでもない、厚かましい話。
ただ、アイスコーヒーを一杯飲んだだけの客なのに。
 
それでも、予定していた電車を逃すと、1時間電車がないことはわかっていたので、お言葉に甘えることにしたのだ。
こんなに優しくしてもらっていいんだろうか。
見ず知らずの人の車で送ってもらうなんて。
恐縮する私に、その代表の方は伊勢神宮の話をしてくれたり、私が行こうとしている伊雑宮のことも説明してくれた。
話を耳で聞きながら、心の中では有難い気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 
一日のうちで、二度もこんなに心が温かくなることに出会えるなんて。
そう、本当にウソみたいで夢みたいだけど。
 
 
「ああ、まだこんなにも暗いんだ」
 
日頃、お日様が昇り切ってから起きるような生活を送っている私にとって、早朝5時の空はとても新鮮だった。
まだ薄暗い中だと、通りなれた道も違って見える。
人と誰ともすれ違わない、いつもと違う風景の中、私はゆっくりと駅へと向かって歩き始めた。
歩いてしばらく経つと、うっすらと東の空に赤い色が生まれ出した。
調べてみると、この日の日の出は5時30分頃らしい。
ちょうど、夜明けをまたがって行動を開始した長い一日の始まりだった。
 
私は、いつもは自転車に乗って行動をしている。
駅から電車に乗る時も、スーパーマーケットに買い物に行くときも。
ところが、この日の5日ほど前にちょっとした手術をしたので、自転車には乗れなかった。
ということで、普段なら自転車で5分の駅までの道を歩くことになった。
歩いてしばらく経つと、ジョギングをする男性とすれ違った。
こんな朝早くから、しっかり運動をしている人もいるんだ。
継続しているとしたら、とても健康的だし、スゴイなと思った。
 
さらに歩いてゆくと、犬の散歩をしている人達に出会う。
その中に、少し大きな犬を連れた女性がいた。
ちょうど橋の上のところで、犬が草花や地面の匂いをかぎながら、ウロウロしているところだった。
その女性は、100%連れている犬の行動を優先し、じっとその様子を見ながら立ち止まっていた。
犬が行きたい方向へ、自分もついて行っている。
どれくらいの時間、そうやっているんだろうか。
でも、その女性は一向に犬を急かすこともなく、ただ犬の思いのままに任せていた。
 
そんな光景を見ていると、わが家のトイプードルの散歩の様子を思い出した。
わが家での犬の散歩と言えば、完全に私の都合に合わせたものだった。
急いでいるときは、小走りで散歩を済ませ、草むらへ行こうとしたら引っ張って手繰り寄せていた。
犬の思いよりも私の思いが優先だった。
 
そんなことを思うと、目の前にいるこの女性の犬の散歩はなんて優しいんだろうかと思わず見入ってしまったのだ。
そんな様子に気づいた女性は、私の方を見て軽く会釈をしてくれたのだ。
全く知らない者同士。
しかも、犬の散歩でよくある、他の飼い主さんに声をかけてあいさつをしたでもないのに。
でも、その女性の会釈がこれまでに受けたどんな会釈よりも優しくて素敵だったのだ。
なぜか私はドキッとしてしまった。
それと同時に、身体の中から言葉で表現するのが難しいけれど、何か温かいものが湧いてくるのを感じた。
その温かなものを味わっていたので、女性に返す会釈が遅れてしまった。
なんなんだ、このやりとりは。
なんなんだ、この優しい空気は。
えっと、まだ朝の5時半前だぞ。
今日という一日は、この大きな犬とその飼い主さんとの偶然の出会いによって、とてつもなく嬉しい一日の始まりを迎えたのだ。
名前も全く知らない女性。
きっと、これまでにも会ったことはないだろう。
けれども、夜明けを迎えた時間、たまたま道で出会っただけなのに、そんな私に対して会釈をしてくれるなんて、どれだけ素敵なんだろう。
 
人との関わりでは、言葉や行動が大きな影響を与えることは十分にわかっている。
仕事や友人との間でのやり取りだけでなく、家族との間でもそこには気を遣いながら生きてきたつもりだ。
でも、それは良く考え、さらには自分が良く思われたい、イヤな印象を与えたくないというような、どちらかというと自分が中心の行動だったように思う。
 
けれども、今朝出会った女性の会釈は、どういうものだったのだろう。
ただ、見かけた人間に、そこに同じ時間を一瞬過ごした相手に、優しい思いやりの気持ちを惜しむことなく、自然に与えることが出来るなんて。
その、全く知らない女性がどのような人なのかがその小さな行動一つで伝わってくるのだ。
そう思うと、一生懸命頭で考えて言葉を選び、気遣いの態度を示して来たこれまでの私のやってきたことが、なんだか薄っぺらなもののようにも思えてきた。
ああ、人との関係って、そんなに窮屈なものではないのかもしれない。
自分の心のまま、思いのままに、それをどんなに小さな行動でも、相手に表現することでウソのない思いは伝わるんだな。
私は、これまでの人生では感じたことのなかったような、とても新鮮でとても大事な経験をこの日、この女性から教えてもらったようなそんな気持ちになった。
そして、間違いなくその日の私の気持ちは明るくエネルギーが満タンにしてもらえた。
今日はきっと良い一日になるに違いない。
そんな未来のことにも、なぜか確信が持てるような一日の始まりだった。
 
「ふふふ、今から6時間ほど前に私が予測したことは、本当になったわ」
 
一日の始まりに、見ず知らずの方から受け取った温かい気持ち。
それを身体中に満たしての伊勢神宮詣で。
それはまた、見ず知らずの方から親切にしてもらえるという奇跡をもたらせてくれたのだ。
人との関係において、どのような行動をとるかはその人次第だ。
ただ、今日の出来事を振り返ると、私は絶対に今日出会うことが出来たお二人のような、温かいエネルギーを相手に注げるような、そんな関係を築けるようになりたいと強く思った。
 
そんな教えをもたらせてくれたのは、ひょっとして伊勢神宮の神様の思し召しだったのかしら。
そうだとしたら、とてもありがたいお伊勢さん詣でだったわね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-09-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.187

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