週刊READING LIFE vol.188

職歴の多い若者たちと出会って気づいたこと《週刊READING LIFE Vol.188 「継続」のススメ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/10/03/公開
記事:塚本よしこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ものごとを継続することは一般的に素晴らしいことのように捉えられていると思う。
毎日走るという目標を立てて続けているAさんと、同じ目標を立てても3日でやめてしまったBさんがいる。
Aさんは自信も、自己肯定感も体力もついた。でもBさんは、続かない自分に落ち込んだかもしれないし、達成感を感じることはなかっただろう。
 
文章を書くことに対してもそうだ。
文章を書く力をつけたいと毎日ブログを書いたAさんと、同じように目標を掲げたけれど1日書いただけでやめてしまったBさん。
Aさんは文章を書く力が上がり、ブログを読んでくれる人も増えたかもしれない。しかし、Bさんは続かない自分を残念に思ったり、書く力は以前と変わっていない可能性が高い。
 
勉強でもなんでもコツコツやることに意義があると教えられてきたし、多分それはその通りだ。英単語を50覚えようとしたら、1日で覚えるより、毎日継続して勉強した方が定着もいいだろう。イチローだって、毎日お父さんとバッティングセンターに通っていたのが力になったというのは誰もが知っている話だ。
 
仕事に対しても、勤続25年なんて聞くと、素直に凄いな、と思う。
私の周りでは、物事は続けることは素晴らしいことで、1つのことが続かないことは、「三日坊主」「根気がない」なんて言われて、あまり推奨されることではなかった。
 
30代前半、私はキャリアコーディネーターという仕事をしていた。
簡単に言うと、求職者と面談し、その方に合うお仕事を紹介する仕事だ。「若者を未経験から正社員に」それがコンセプトの事業だった。
就職したけど辞めてしまった人、そもそも新卒で就職しなかった人、できなかった人、資格試験を諦めて就職したい人……と色んな人と出会った。
とりわけ仕事を3年未満で辞めてしまった若者に出会うことが多かった。
 
求職者がやってくると、まず履歴書の簡易版のようなシートに経歴を書いてもらう。それから、マンツーマンで面談し、求職者が望むような求人があれば紹介し、なければ他の職種を提案したりした。
女性は事務職を希望される方が多かった。しかし、正社員の事務職の求人はほとんどなかった。その頃増えた派遣社員や契約社員で事務職は賄われることが多くなっていた。それに、事務職は営業職などに比べれば離職率も低かったのだろう。
 
私達には1か月に何人、求職者と企業をマッチングさせましょうという目標があった。
私はある時期は順調に成績を出せていたが、ある頃から前と同じようには成績を上げられなくなっていた。スランプに陥っていたのだ。
すると、その状況を打破するために、教育係というか指導係として先輩がついてくれることになった。5つくらい上の女性先輩が私の求職者との面談に同席することとなったのだ。
 
そして少し経った、ある日のことだった。
「何で今のカスタマー帰したの?」
20代の女性求職者と面談を終えた後だった。
席に戻る途中、後ろから歩いてくる先輩の気が大きく迫ってくるのを感じた。明らかに怒っている。先輩の言葉は冷静で、きつく叱られたわけではない。しかし
「なんなの、今のは?」
「ちょっと待ちなさい! どういうこと?」
そんな風に言われている感じがした。
 
その女性の履歴カードを見ると、既に3社の職歴があった。そして、ほとんど求人のない事務職を希望していた。事務の経験もなかった。
今までよく出会ってきた
「営業は無理です、事務がいいです」
「事務ならできるかも……」
という典型的な女の子のように思ってしまった。
 
そして、求人がないので違う職種を提案すると、
「それはいいです」
と言われることがほとんどだった。
そうなると、
「またもし、希望されるような求人が出たらご連絡します」
と言って、さようならしてしまうことが多くなっていた。
 
今回もいつものパターンの気がして、面談を早々に切り上げ、話をまとめて帰してしまったのだ。「うちからの紹介で就職するのは難しいな……」ずっとそんなことを考えながら面談していた。
 
事務職の求人を待っている方は何人もおり、その女性にチャンスが回ってくるのは、相当先になる。しかも、未経験であっても秘書検定でも経理でも、何か勉強していることがあれば意欲を買われるが、「事務ならできるかな……」というモチベーションでは推薦するのも難しかった。
 
しかし、先輩はそんな私の判断を全く認めていない。
「今の子の何が分かったの?」
「何を聞いたの?」
「……」
脳天を打たれたような衝撃があった。
今の子の何も分っていない……。何も理解していない。
職歴も既に多く、事務の経験もないので難しいだろうと決めつけてしまった。
 
その頃、「スペック」という言葉を社内でよく聞くことがあった。
経理職を希望しているのであれば、経理の資格があればスペックは高くなる。
事務職を希望していれば、経験があったり、有名大卒であったり、気立てが良かったり、秘書検定などを持っているとスペックが高いのだ。
かつて結婚相手に求めるものに3高(収入が高い、学歴が高い、背が高い)というのがあった。まさにあの3高というのはスペックが高い男性というわけだ。スペックはその人の持つ武器の多さや強さを表していた。
そして、いつの間にかそんな目で人を測るようになっていたのだ。
スペックを考えた時に、彼女を社内にある求人でお手伝いするのはかなり難しいと判断した。相手に期待をさせてもいけないと思った。
 
しかし、先輩の顔に笑みはない。今までにない真剣な顔で、私を見ている。
「履歴シートに書いてあることは、履歴シートを見れば分かるよね?」
「そこに書いてあることを聞いてどうするの?」
私は何も言えなかった。まさにその通りだった。
恥ずかしいような情けないような、申し訳ないような気持が入りまじり、穴があったら入りたいと心から思った。
 
「履歴シートに書かれていないことを聞くんだよ」
顔はぼわっと赤くなるが、下半身は血の気がさーっと引いていく感じがした。
 
彼女の経歴をさらっと聞いて、また何かあれば……と帰してしまった。
彼女を知ろう! 理解しよう! という心持ちが足りなかった。
何か力になれないか? そんな気持ちがあれば、違う質問もできたはずだ。
「〇〇で働いていたのですね?」
そんなことは確かにシートを見れば一目瞭然だ。
そんな質問以外に、もっと彼女の隠れた宝を探すような姿勢や問いが足りなかった。もしくは彼女の繰り返しているパターンがあれば、一緒に見つけることができたかもしれない。それはもしここで就職をできなくても、彼女の助けになったはずだ。
 
学生時代取り組んだことはあったのか?
仕事を選ぶのはどういう基準か?
前職でどんなことを心掛けてやっていたのか?
将来はどんな風になりたいのか?
そんなことを聞くことなく、履歴書の内容の確認のような面談をしてしまっていた。
私の成績がふるわなくなったのは、まさにこの怠惰とスペックで人を見るような面談に陥っていたからだったのだ。
 
私自身が最初に就いた仕事を早々に辞めてしまい、再就職に苦労した。
新卒でもないので就職活動をどのようにしていいか分からない。同じころ就活をしている仲間もいない。既卒は経験者採用が多く、未経験だと応募できない求人も多かった。派遣に登録もしたが、できれば正社員になりたかった。次の仕事でもう一度頑張りたい! 履歴書を見ただけで、続かない若者だと決められたくなかった。
 
自分と同じような経験をしている人の力になりたい! そう思ってこの職を希望し、東京まで出てきたのだ。それなのに、隠れた強みを見つける前に、履歴シートをみて「職歴が多いな」「ちょっと厳しいかな」と判断していた。
自分がそんな風に思われるのは嫌だったにも関わらず。
情けない限りだ。
 
ある日、同僚が上司と話しているのが耳に入ってきた。担当している求職者について相談していた。
「でも、職歴が多いんですよ……」
すると、上司が
「え? 何で職歴が多いといかんの?」
そう言った。
私はびっくりした。
私が今までいた環境では、職歴の多い人は1つのことが続かない人と見られることが多かった。隣近所どこを見まわしても、同じ会社で定年まで働くお父さんたちしかいなかった。もし、仕事を転々としている人の話でも出れば、「コロコロ仕事変って……」と、よく言われないのだ。
 
しかし、上司は職歴が多いことを「何でいかんの?」と言っている。
その言葉にハッとした。
確かにその通りだ。そのこと自体は単なるフラットな事象だ。
 
辞めたのには人それぞれ何らかの理由があるだろう。
それを理解しない、知らないうえで、職歴が多いことに良いも悪いもない。
「なにも続かない」「難しい」と判断するには早すぎるのだ。
もしかしたら介護で続けられなかったのかもしれないし、より高みを目指した転職だったかもしれない。毎晩終電でこのままでは体を壊すと思ったのかもしれない。
ものごとは続けることが推奨されて、続かないことはよろしくない、そんな思いこみに捕らわれていたのは紛れもない私自身だった。
 
私は初めに就いた教員を辞めたことにより、辞めなければ分からなかったことにたくさん出会うことができた。
海外に語学留学することができたし、営業職に就いて、営業の大変さも身を持って知った。
田舎から出て東京で満員電車に乗って働く経験もできたし、その時に出会った仲間や経験は一生の宝のようになった。あのまま学校で働いていたらそんな経験はできなかった。
続けることがよく、続けないことはよろしくないことだと一概に決めることはできない。
どうして続けなかったのか? そこにはその人なりの理由がある、その人なりにその時考えた最善がある。
 
私たちは知らない内に、育った環境や教育から色眼鏡で目の前の世界を見てしまう。
そして、表面的なところだけを見て、ものごとの良し悪しを瞬時に決めている。
けれどそれは勝手な思い込みだったり、相手を理解していないだけのことも多い。
 
私はあの穴があったら入りたいと思った瞬間から、気持ちを入れ直し、求職者とまっさらな気持ちで向き合うようになった。履歴シートに書かれていることではなく、そこに書かれていないことを聞くように心がけた。すると心持が変わったからか? 徐々に以前のようにマッチングができるようになり、先輩の同席もなくなっていった。
 
「何が分かったの?」
あの時そう先輩に言ってもらって本当に良かったと思っている。
目の前の人を知ろう! そう思って話を進めると、以前とは違う深い面談ができるようになっていった。事務しか嫌だと思っていた女の子が、販売でも自分の思いは叶えられるかもしれないと変化していくこともあった。
 
「若い人たちの力になりたい」そんな思いで始めた仕事だった。
けれど、いつの間にか「成績をあげなきゃ」に変ってしまっていた。
初心忘るべからずと言うが、数年のうちにすっかり最初の思いを忘れてしまっていた。
 
それにしても、初心や目指すものを忘れずにいるにはどうしたらいいのだろうか?
指導して下さった先輩の机の上にはいつもリンカーンの置物があった。
リンカーンと言えば「人民の人民による人民のための政治」で有名なアメリカの第16第大統領だ。リンカーンについて調べてみると、
「そのことはできる、それをやる、と決断せよ。それからその方法をみつけるのだ」
など、今まで知らなかった名言がいくつも出てきた。
 
あの置物はどうして部署をどれだけ変わっても、ずっと先輩の机上にあったのだろう?
ふと不思議に思った。
可愛らしい動物でもなければ、アメリカの大統領なのだ。
今思えば、リンカーンの偉業や名言で先輩が感動したものがあったのではないか。そして、その志を忘れぬよう、いつも見える場所に置いていたのではないだろうか。
 
「〇さん、あのリンカーンの置物って……」
久しく会っていない先輩に連絡をしてみた。
「あ、今でもあるよ」
えっ、まだあるの?!
写真が送られてきてびっくりした。
そこには15年近く前と変わらぬ、遠くを仰ぎ見るようなリンカーンがいた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
塚本よしこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

奈良女子大学卒業。
一般企業をはじめ、小・中・高校・特別支援学校での勤務経験を持つ。
興味のあることは何でもやってみたい、一児の母。
2022年2月ライティング・ゼミに参加。
2022年7月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。

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2022-09-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.188

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