娘の二十歳の誕生日に思うこと《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/11/07/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
娘が二十歳になった。大人の仲間入りだ。遠方で大学生をしている娘に、朝から長々としたLINEを送る。産まれた直後に胸に抱えた重さに、喜びと責任を感じたこと。甘えん坊だった娘が、今では重い荷物を率先して持ってくれるような頼もしさを身につけてくれたこと。そんなことを、思うままに書いていたらもの凄い長文になってしまった。いわゆるおばさん構文に、少々反省する。でも、節目の二十歳の朝は感慨深いものがあった。
来年、娘は大学3年生になる。春からは就職活動にも力を入れねばならなくなるだろう。親の庇護から離れて、いよいよ本格的な自立に向かう。もう成人となったからには、私たち親があれこれと口を出すわけにもいかないけれど、少し人生の先を歩く先輩としては困ったことがあれば頼ってほしいと思うのも本音だ。
ふと、自分が二十歳の頃を思い出した。やりたいことに夢中になっていた高校生活の後に一浪して大学生になった私は、特に将来なりたいものなどなくサークルやバイトに精を出す毎日だった。高校生とは違って、大学生って随分自由だと思ったものだ。夜遅くまでバイトをしたり友達と飲んでいたりしても、もう親からうるさく言われることもない。二十歳を過ぎれば自分の責任で、自由に行動できる。大人って、楽しい! そう思っていた。本当は学費を親に払ってもらうすねかじりだったのに、大学生というだけで大人への階段を一気に駆け上がった気がしていた。
大学の図書館で友人たちと話をしている時だった。彼女たちの真剣さに、ハッとさせられたことがあった。私の友人たちは教職課程を受講している人が多く、単位を多くとらなければならなかった。そのため、授業の合間でも図書館でよく勉強していた。教職課程を取らず彼女たちよりも時間のある私は、その周りで留学や海外旅行の雑誌を読み耽って、いつか海外で過ごす自分を夢想し悦に入っていた。そのための努力をしていたかといえば嘘になる。完全な夢物語だった。だから友人たちが学校の先生になる夢を叶えようと必死で勉強して現実的に将来を考えている姿に、焦りを感じ始めた。かといって、自分にはこれといったものがない。目の前に迫った就職活動に、私は完全に腰が引けていた。
加えて私たちが就職活動を始めた頃は、就職氷河期と呼ばれる就職難に突入していた。入学当初に見たときは掲示板いっぱいにあった求人票もびっくりするくらい減っていて、世の中の厳しさを思い知らされたような気がした。サークルの優秀な先輩ですら、大丈夫と思っていた企業の内定を勝ち取ることが難しいと聞き私は慌ててしまった。とにかく、どこか入れるところに就職しよう。それまでのんびり過ごしてきた私のお尻に、ようやく火がついた。思えば、本当に世間知らずだったのだと思う。今では当たり前のインターンシップ制度もなく、理想と現実が噛みあわなかった。自分がどんな仕事をしたいのかもぼんやりしている。とにかく内定を早く貰いたかったので、実家が自営業をしていた関係で馴染みのある接客業に狙いを定めた。
四年生の夏休み前に、ある商社から内定をもらうことができた。私は心の底からホッとした。これで一人前になれると思った。卒業後、私は新人社員として働き始めた。初めて目にすることや知らない話を聞くことが新鮮でもあったが、社会人としての厳しさも味わった。気ままだった学生生活とは違い、成果を求められる生活だ。好きな接客業ということもあって、それなりに楽しさややりがいを感じていた。けれど、何かが違った。違和感が膨れ上がった私は、転職を決心した。
次に働いたのは語学スクールだった。大学時代に専攻していた英語を使える仕事をしてみようと思ったのだ。新たな職場は刺激が多く、自分を成長させられるのではないかと思った。しかし超夜型の不規則な生活が祟ったのか、私はすっかりやせ細ってしまった。そんな状態が不安になった私は、仕事を辞めて実家に戻ることにした。
実家の仕事を手伝いながら、今度は家業を継ごうかと考え始めた。折しも不景気の波が押し寄せ、その考えは両親に心配された。それで、今度は安定していると言われる仕事に転職した。20代半ばにして3度目の転職だ。もう20年以上も前のことだ。今のように転職が当たり前の時代ではなかったから、さすがに私も腰を据えて働こうと思った。
それからの20年、私なりにがむしゃらに働いてきた。結婚して娘が生まれ、家庭と仕事の両立に悩みながらも、長い間何とか続けることができた。回り道だらけの人生だったけれど、様々な経験をしたことは確実に私の財産になったと思う。そう思いながらも、振り返るとどこか自分の人生は、ツルツルしたテーブルの表面をあてもなく上滑りしているような感覚を拭えずにいた。
何かが、違う。でも何が違うのか分からない。考えてみると、場当たり的に「すべきこと」や「ねばならないこと」を優先しすぎて、「これがいい」とか、「こうしたい」と自分で決めることが減ってしまっていた。世の中の常識と言われるものや多数派の声に合わせることが楽、若しくは正しいと思い込み過ぎて、自分の心の声を聞いてあげることをしてこなかった。だから、確実に自分の心に引っかかるフックがなさすぎて、流されるままに生きていたことに気がついた。
それを気づかせてくれたのは、始めてそろそろ2年半になるライティングだった。よく言われることだが、書くことは自分と対話することでもある。自分の心の動きを丁寧に掬っていかなければ、どうしてその時そう思ったのか、なんでそんな行動をしたのかが掴めない。一つの事柄を因数分解のように解きほぐし、ようやく自分の感じたことに到達して納得ができる。「何となく」なんてことはなく、必ずその行動や感情の裏には「何か」があるのだ。時には、思い出して切なくなることや泣きたくなることもある。けれど、正面から見つめてみなければ、自分の感情を紐解くことができないのだ。
そんなことを繰り返していると、ふと自分の感情が愛おしくなってきた。「好きなものは好き」だし、「嫌なものは嫌」なのだ。そう素直に感じたことが、私の正解だ。もちろん、他人に伝えるときには考慮しなければならないだろう。けれど、自分が感じたことを他人がどう思うかとか、罪悪感を覚えたりして、自分自身を生きにくい状態にする必要はないのだ。
大人になると、学生時代と違って嫌なこと、やりたくないことも我慢しなければならないときも多々ある。だからこそ、自分の心の中だけは楽しいことやうれしいことで満たしていたい。だって心の中は自由だ。自分だけの楽しみを、誰にも邪魔することはできない。朝起きて大変な仕事のことを思い出しても、心が満たされていれば乗り越えられることもあるだろう。だから、どれだけ楽しいことを増やせるかで、人生の活性度がまるで変わってくる。
自分のやりたいことを誰にも干渉されずに決めることができるのが、大人の醍醐味だ。自由にのびのびと、「あの人って、楽しそうだね」と言われる大人を私も目指している最中だ。自由と責任を両手に持って、自分で決める。決断力ももう少し欲しいところではある。
人生を先に生きる先輩として、そして母として、娘には「楽しそうだね」と言ってもらいたい。いくつになろうと、何かを始めるのにいつからでも遅くないし、何の仕事をしようとイキイキと働いている。そんな大人になれたら素敵だ。大人になることが大変なだけではなく、歳を経るごとに味わい深さを増すものだと思ってくれればいい。
娘の二十歳の日に、そんなことを思った。
□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
福岡県在住。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、推し活、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。
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