週刊READING LIFE vol.192

中学生時代の友達0な私に、コナン君がくれたのは一生の友だちだった《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/07/公開
記事:陣(Jin)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は中学生の頃いじめられていた。 
 
生まれてから小学校6年生まで田舎で暮らしていた。友達といえば、近くに住んでいる子、出席番号が近い子、友達の友達……。友達は自然とできていたので、どうやって友達を作ったのかを覚えていない。ところが中学校に上がるタイミングで引っ越しをしたため、知り合いが全くいないという環境に変わった。
 
1から友達づくりをしなければならなかったが、友達の作り方がわからない。
色々と試行錯誤してみたものの、どれもうまくいかず、なかなか友達はできなかった。
 
部活は陸上部に入部したのだが、しばらくするとリーダー格の人を中心に短距離のメンバー数人からいじめられるようになった。
 
理由は私が先輩に媚を売っていたからだそうだ。
 
入部当初先輩から「わからないことは先輩に聞け、分からない者同士で話してもわからないままだ」と言われたので、それをバカ正直に守り、わからないことはすぐ先輩に質問していた。
そんな姿を見たいじめの主犯は、私が先輩に媚を売っているように見えたのだそう。
 
それでいじめたのだと。
 
かくいう私はかなり鈍感だったため、実はいじめられていると気づかなかったのだが、思い返してみると、1年生の3学期にもなって、部活内で一度も誰かと遊びにいったことはなく、部活の道具もろくに触らせてもらえなかった。
 
部活から帰るときはいつも後ろの方で、誰かの会話を聞き、誰の会話にも入れなかった。
 
多分そんな私の姿も、彼女たちからすれば亡霊のように気味悪く見えていたのかもしれない。
 
そんな部の状態に先輩が気付いて、一年生の仲を取り持ってくれはしたものの、人の心はそんなに急には変わらないと思った。
私もいじめられていたという事実を知ってしまった以上、嫌だと思っている人と急に仲良くしろと言われても無理な話だった。
中には気を使ってニックネームで呼んできたり、登下校を毎日一緒にしてくれる人もいた。でも、正直今まであんなに知らん顔をしていたのに、急に漫画のように美しく振る舞える部員が、ありがたくも信じきれずにいた。「またいじめてくるのではないか?」と。
 
2年生に上がったくらいの頃、部活のメンバーで食事に行こうと3ヶ月毎に1回ほど誘われたこともあった。だが、両親から「行ってはいけない」と言われ、毎回断ってしまっていた。
 
「一度行くと断れなくなるから」と……。
 
もしかしたらその付き合いの悪さもあったのかもしれない。私をいじめていた主犯格の人達とはその後部外はもちろん、部内でも必要以上に関わることはなかった。
 
そして私をいじめていた人たちは3年生になると部長や副部長になっていった。
 
そんな3年間を過ごし高校生になった。高校時代は、女子校だったのだが、数名友達ができた。クラスの友達とは今でも何人かと連絡がとれる。学力が同じくらいの人とは仲良くなれるのだなぁと感じた。
 
だが、部活のみんなとはほとんど連絡が取れていない。長い時間、一緒にいたのだが……。
原因だったのは多分、みんなの好きなものと、私の好きなものが違っていたため、なかなか会話が合わなかったのだろうと思う。話を合わせようと、みんなが好きな漫画を読んだり、あまり興味のない映画を一緒に見に行ったりした。好きになろうと努力したのだが、良さがわからなかった。
逆に、私自身の好きなものは周りに受け入れてもらえていない事に気づき、あまり表に出さないようにした。
 
大学は部活にいることが多かったのだが、今でも連絡がとれるのは不思議なことに同じ学科の人達だ。
 
学科の友達とはほとんど遊びに行ったことがなかったのだが、今でも「結婚したよ~」とか、「子ども産まれたよ~」とか、連絡をくれる友だちが多い。結婚式に呼んでくれた子もいた。
 
これは多分、クラスのみんなが優しいというのに尽きるのだと思う。
 
私の好きも受け入れてくれて、私も友達の好きを受け入れられていた。
 
そして社会人。私は接客業をしていたのだが、学生時代にコミュニケーションを上手に取れていない私は、人と喋ることが苦手だった。お客様と話す分には、自分の持っている知識を話すことでどうにかなっていたのだが、同じ店のスタッフと何を話していいかわからず、業務以外のことはほとんど話せなかった。
 
そんなこともあり、私は同じ店舗の人とあまりソリが合わず、いじめらしきものも受けていた。昼食は店舗のバックヤードで食事を摂っていたのだが、電話がかかってきて席を外している間に昼食の味噌汁の中に”毛”が入っていたことが何度もあった。
 
大人になってもいじめってあるんだな。そう思った。
 
正直居づらくなっていた。
 
丁度その頃、わたしが働いていた店舗のエリアでは、1ヶ月に一回、同じエリアの店舗の希望者で遊ぼうというイベントが始まった。
 
店舗でのこともあり、少しでも気晴らしをしようと参加していた何度目かのある日。
 
カラオケ屋に行き、みんなでカラオケを歌うことになった。
 
みんなは今話題のアーティストの歌をどんどん歌っていく。
 
中学校から大学時代まで、親からの抑圧が厳しかったせいもあり、夜遊びらしい夜遊びをあまりしたことがなく、みんなが知っているであろう歌が殆ど歌えない。
 
学生時代に奇跡的に行けたカラオケ屋で、旬の歌を歌う人を見て、どうやってみんなの知っている歌を仕入れて覚えているんだろうと常々不思議に思っていた。
 
歌える歌、と、言えば、ずっと見ている名探偵コナンのオープニングテーマやエンディングテーマ、劇場版の主題歌だ。
 
これらの歌は、社会人になって一人でカラオケに行った時によく歌っていて、採点したときもそこそこいい点を出していた。
 
幸いコナンに出てくる歌は、B’zさんや倉木麻衣さんなどみんなが知っているであろうアーティストの方々が歌ってくれていたのと、アニメの世界観は入っているが、歌詞の中にアニメのキャラクター名などが入っているものはほどんどなかったので、みんなの前で歌っても、そんなに恥ずかしくなかった。
 
コナンの選曲の方に感謝した。
 
そして今回私が選んだ歌。
 
それを歌っているとみんなが驚いた。
 
「え? この曲って、歌詞ついてんの?」
 
そう。私が歌った曲は映画で事件が解決した直後によく流れる曲なのだ。あまり知られていないようで、みんな私の歌を聞いてくれていた。
 
私はこの曲にすべてを懸けた。今の自分の境遇をこの歌のように変えたい! あわよくば、太陽のような人が現れないだろうか? そんな気持ちを込めて……。
 
すると、この場を取り仕切っていた人が突然、「今年のコナンの映画見に行く人ー!」と聞いてくれた。
 
数名が手を挙げる。コナン好きって、こんなにいたのか……。
 
そう思っているとふと、ある人が目に入った。
 
「あの人、知ってる!」
 
以前私の指導を数時間だけしてくださった方なのだが、優しくも的確で、そして面白い人だった。
 
「良い方だなぁ……」
 
第一印象はそんな感じだった。
 
私はなかなか人の顔と名前を覚えられないのだが、この人だけは、この方だけはちゃんと覚えていた。
 
その人も手を上げてくれている。
 
これは、チャンスかもしれない……。いや、本能が、こう叫んでいる。
 
”声をかけなさい。さもなくば、一生後悔しますよ”
 
と。
 
解散した後、その人に声をかけた。
 
「あの、一緒に映画見に行きませんか?」
 
正直心臓バクバクだった。だって、ほとんど面識のない人に自分から声をかけに行くことも今までしたことがなかったし、ましてやいきなり遊びに行こうなんぞ、なんてたいそれたことをしているんだと、自分でも驚いていた。
 
相手の返事を待つ。
 
暗がりで良かった。相手の顔を直視していても、恥ずかしくない。逆に自分の顔も見られてないという安心感から、まっすぐ相手の顔を見られていた。
 
相手が話し出す。ドキドキする……
 
暗かったから正しくは認識していないのだが、相手は少し驚いたような顔をしていたと思う。
 
断られるかも……
 
そう思った。
 
だが、面識があったおかげもあり、その場でOKしてもらえた。
 
めちゃくちゃ嬉しかった。その日のうちにいつ観るかの計画も立て、連絡先を交換することができた。
 
「友達って、こういう風に作るのかな……?」
 
それからというもの、コナンの映画は毎年一緒に見に行くようになったり、コナンのイベントがあれば日程を決めて休みを合わせて参加するようになった。
 
ついにはコナンのイベントで県外に二人で行き、宿泊もした。
 
今まで友達と、そんなことをしたことはなかった。しようとも思わなかった。人に気を使う生活が辛くて、一人で行ったほうが楽だ。そう思うようになっていたから。
でも、友だちと何処かへ行く楽しさを知ることができた。
 
「大人ってサイコー!」
 
そう思った。
 
コナンは謎解きゲームともよくコラボしていて、その流れからコナン関連のイベント以外にも、謎解きゲームに参加することも増えてきていた。
 
コナン好きは謎解き好きな人が多い。
 
そんなわけで、この日もまた一緒に謎解きゲームに参加していた。
 
謎解きにもよるのだが、いくつかの班に分かれて、それぞれの班で謎を解く回と、参加者全員で協力して脱出するという回がある。
 
今回は全員で力を合わせるタイプのものだったのだが、そこに参加していた人たちが本当に凄かった。
 
参加者は全員で5名だったのだが、頭の回転も早く、コミュニケーションもしっかりとれ、初めて会うメンバーとは思えないほどの連携プレーを見せていた。
 
惜しいところまで行ったものの、脱出することはできなかったのだが、このときも、私の心には、あの時カラオケ屋で感じたものが湧き上がっていた。
 
そして聞こえる天の声
 
”声をかけなさい。さもなくば……”
 
と天の声を聴いているうちに解散してしまった。
 
とても後悔した。何故あの時声をかけていなかったのか、なぜ? なぜ?
 
謎を解き終わった後にいつも二人でその日の謎について語り合う場所があるのだが、そこで今日のメンバーに声をかけなかったことをとても後悔していると友人に伝えた。
 
友人は困ったような顔をしていたが、自分でも何故あの人達にこんなに固執しているのかわからなかった。
 
「あ~~~!」と頭を抱えてふと顔をあげると、なんと! 30分前に一緒に謎を解いたうち2人が眼の前を歩いているではないか!
 
ガバッと椅子から立ち上がり、
 
「ちょっとすみません! 声かけてきます!」
 
と伝えて慌てて二人を追いかける。
 
「あの! すみません! また一緒に謎を解きませんか?」
 
今度は相手が二人だ。
 
片方が嫌がれば、終わりだ。
 
求めていた人が突然目の前に現れて興奮していたため何を喋ったかあまり覚えていないのだが、さっきの謎解きでの二人の活躍を語っていたと思う。
 
本当に素晴らしかった。あの動き、あの発言のおかげであそこまでたどり着けた。ぜひまた一緒に謎を解いてほしい。
 
そんなことを喋ったと思う。
 
実は謎を解く前に、アイスブレイク的なものがいつもあるのだが、そこでの感触もすごく良かったのだ。
 
今回は自分の好きな名前で参加できるとのことだったので、透で出してみた。(ライターネームの陣じゃないのかよ! という声が聞こえてきましたが、今回は置いておきましょう。ちなみに陣は松田陣平さんの陣からもらってます。)
 
コナン好きの人でないと気付かないだろうな。そう思っていると、
 
「もしかして透って安室さんですか?」と聞いてくれたのだ!
 
私は嬉しくなり、
「そうなんです! ご存知なんですね!」
と言うと映画を見に行ったことがあるなどとコナンについて話してくれた。
 
声をかけられた二人はちょっと驚いた顔をしていた。
 
声をかけたのが近くのファッションビル内だったので、時間帯が夜にも関わらず、煌々と光がさしていて、二人の顔がよく見える。おそらく、緊張と興奮で頬が紅潮している私の顔もよく見えていたと思う。
 
二人相手に声をかけるなんて初めてだ。というか、そんな風に声をかけたのはこれが2度目だ。
 
自分の行動力に半ば驚きながら相手の返事を待つ。
 
”コナン好きに悪い人はいない。きっと大丈夫だ”
そう思いながら、願うような気持ちで二人の顔を見る。
 
すると、
「いいですよ! また行きましょう!」
 
と言ってくれた。
 
ふたりともよく謎解きには参加しているらしく、そのうちの一人と連絡先を交換し、あまりの嬉しさにスキップして席で待っている友人のもとに報告に行った。
 
それからというもの、2~3ヶ月に1回は謎解きイベントに参加するようになった。
 
今でも一緒に参加している。
 
だが、その二人が今年は卒業を迎えることになった。
 
そう、私は学生さんに声をかけていたのだ。
 
この事実を後で知ってぎょっとした。おそらく5歳以上の年の差がある。それでも、仲良く謎解きができている。
 
大人になれてよかったと思う。いじめられていた時、「死」がかすめたこともあったけど、大人になって、自分のお金を自分の好きな様に使うことができたり、一人暮らしをしたことで親からの抑圧が減り、時間も自由に使え、行動できる範囲が広がった。会える人が増えた。そして勇気を持って声をかける事ができたのは、今までの苦い経験一つ一つがそうさせてくれたのだと思う。
 
生きていてよかったと思った。
 
そして今では胸を張ってコナン好きだと言えるし、自分の好きを表に出すことができるようになった。これは友人の「グッズは使ってなんぼだよ! 身近において使ってあげるのがグッズの幸せだよ!」というような言葉に感化され、よりオープンになった。
最近では職場の子どもが、「コナンのイベントあるよ!」と教えてくれるレベルにまでなっている。
 
……やり過ぎか?
 
何はともあれ、大人って、最高だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
陣(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県生まれ。名探偵コナン歴は25年になる。コナン検定1級保持者
現在はYoutubeのコナンのゆっくり解説の台本を執筆している。
名探偵コナンで出てくるセリフで何度も命をつないでいる。
ライターとして活動する傍ら子どもと関わる仕事を10年以上している

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2022-11-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.192

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