週刊READING LIFE vol.193

魔法使いからの招待状《週刊READING LIFE Vol.193 夜の街並み》

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/14/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
続編を、また一緒に観に来よう!
冬の夜、周りに何もない郊外のシネコンの駐車場はとても寒かった。でも、そんなことが気にならないほど、映画館を出た私たち夫婦は興奮していた。
 
結婚して初めての冬、私には楽しみにしていたことがあった。それはかねてから原作のファンだった『ハリー・ポッターと賢者の石』が映画となって上映されるというのだ。あの魔法の世界が、映画ではどのように描かれるのか期待と不安が入り混じる。想像通りの映像が繰り広げられるのか、それとも違和感を覚えるのか。本がヒットした映画、「あるある」かもしれない。どうか、私の頭に描いたものに近い映画となっていますように。そんなことを祈った。
 
原作を読んでいない夫に、ネタバレにならない程度にざっくりと内容を説明する。初めは「ファンタジーなんて」と、あまり乗り気でなかった夫も私の熱に負けたのか、少し興味をもってくれたようだった。公開してしばらくは、休日は大入り満員だろう。でも、できるだけ早く観に行きたい。すると、夫が平日のレイトショーを見に行ってもいいのではないかと言い出した。確かに、休日の日中だと観客が多すぎるけれど、仕事が終わって次の日が休みの夜に観に行けば、気分的にも何だかテンションが上がる。すっかり乗り気になった私は、当日できるだけ早く仕事を終わらせて家に戻った。
 
私たちが目指した映画館は、車で30分ほどかかる郊外の複合商業施設に隣接していた。当時、近隣ではそこしかシネコンがなく、駐車場に車が数百台収容可能ということもあって、レイトショーを観るなら、ゆっくり車を停められるほうがいいということで選んだ。その商業施設には昼間に一度行ったことがあるけれど、夜に行くのは初めてだ。
 
12月の寒空の下、夫の運転する車が走り始めた。車内が暖まるまで、首をすくめて冷気でぼんやりと曇った窓の外を眺める。夜の外出は、昼間とは違った特別感がある。見慣れた景色が、いつもとは違って見える。夜の街並みが、光の線となって後ろに流れていく。ワクワクする気持ちのせいか、車内でも夫との会話が弾む。
 
車は明るい住宅地を抜け、両側はだだっぴろい田んぼだらけになった。向こうの方に点滅している信号を目指し、一本道を進んでいく。再び住宅地に入ると、何となく見覚えのあるお寺が目に入った。その角を曲がり、しばらく進むと信号が赤になった。道の脇には営業時間を過ぎた個人商店がシャッターを下ろしている。
 
「夜に来ると感じが違うけど、こっちの道で合ってるよね?」
「うん。さっきお寺の前を通ったし、前に来たとき、この商店が開いていたのは覚えているから大丈夫」
今みたいに、カーナビやスマホで場所を確認する術など持っていない。おぼろげな記憶を繋ぎ合わせて答え合わせだ。さらに信号を曲がり、この辺で唯一のコンビニの前を通過する。どうやらもうすぐ着きそうだ。
 
交差点をもう一度曲がると、道の先に巨大な複合商業施設が見えてきた。広大な敷地の周りにはほかに目立つ建物がないせいか、不夜城のごとく光を放っている。ホッとした私たちは、今から観る映画への期待に、さらに胸を膨らませていた。
 
レイトショーだというのに、思ったよりも客が入っていた。大人気の作品だ。やはり休日に来ていたら、チケットが取れなかったかもしれない。この時間を選んだことが正解だったと、内心ほくそ笑む。さあ、あとは存分に楽しむだけだ。
 
映画は期待通り、いやそれ以上だった。本の世界観を存分に描き出し、私が想像していた魔法生物は、よりリアルだった。夫もすっかりファンになり、次回作も必ず観に来ると言い出した。再び冷え凍った車に戻り、家路に向かう。感動した私たちは、映画の内容や感想をあれこれと話し続けた。時刻は午前0時を過ぎている。駐車場を出るときには連なっていた車の列は散り散りになり、今や道を走っているのは私たちの車だけだ。
 
「すっかり遅くなったね。明日、仕事が休みで良かったね」
「またレイトショー観に来ようよ。夜に観るのも楽しいよね」
満足感でいっぱいの私たちの会話は弾む。信号で車が停止した。さっきとは逆サイドに個人商店があるから、自宅の方向に向かっていることには間違いない。来るときには明るかった家々の窓もすっかり暗くなっていた。お寺の前を曲がり、田んぼの真ん中を走る一本道に向かう交差点を更に右折する。
 
「ねえ、ここさっき通らなかった?」
ふと、気になったことを口にした。そう言えば、なかなか一本道にたどり着かない。それどころか、信号で止まった私たちの車の横には、あの個人商店が再び現れたのだ。
「え? 何でまた戻ってるの?」
「道、間違えたんだよ。もう一回ちゃんと思い出そう」
慌てた私たちは、おしゃべりをやめて慎重に道を辿っていく。
お寺の前を曲がり、交差点を右折すれば、田んぼの一本道に通じているはずなのだ。
 
なのに、私たちはまた個人商店の横に来ていた。
人っ子一人いない暗い道の上で、私たち夫婦は途方に暮れた。これじゃ、いつまで経っても自宅に帰りつくことができない。狐につままれたような気がした。何度やっても元の場所に戻るなんて、終わりのないメビウスの輪をぐるぐると回っているようなものだ。ひょっとして、ここはトワイライトゾーンなのか? 顔を見合わせた私たちは、力なく笑った。いくら魔法使いの不思議な世界を観てきたからって、影響を受け過ぎじゃないだろうか。
 
土地勘のない私たちは、それから30分ほどさまよった。曲がる方角が間違っていたのではないか? そう思って、わざと思っていたのとは逆の方向へ曲がってみたりもした。試行錯誤を繰り返しぐったりしてきた頃、突然何かの拍子で田んぼの一本道に戻ることができた。それは、私たちにとって奇跡に思えた。砂漠でオアシスを見つけたような喜びとでも言おうか。早く行かなければまた道を失ってしまうとでも思ったのか、夫はスピードを上げて一本道へと進んでいった。
 
「ふふっ、ふふっ」
疲れすぎたのか、二人とも変な笑いを漏らしていた。妙に口が乾いていた。けれど、これでようやく帰ることができる。田んぼを越え、再び明かりを落とした住宅地へと入っていく。ここまで来れば、夜の街並みであっても見慣れた景色だ。ホームに戻ってきた安心感で体の力が抜けた。
 
強烈な眠気に襲われた私たちは、家に着くなりぐっすりと眠り込んでしまった。そして翌日、自分たちに起こった不思議な現象を振り返った。客観的に考えれば、どこかで曲がる方向を間違えただけなのかもしれない。けれど、何度も同じ場所に戻るという経験は、目に見えない何かが働いているような何とも言いようのない怖さがあった。魔法使いの世界を観に行った私たちは、夜という幕の中で奇妙な世界への入口を仕掛けられたのかもしれない。いつも見ている昼間の世界の裏側には、ひょっとして別の世界が隠れているのかも。そんなことを、ちょっと本気で考えさせられた。20年以上経った今でも覚えている、ある夜の出来事である。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)

福岡県在住。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、推し活、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-11-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.193

関連記事