週刊READING LIFE vol.197

ラジオを古いメディアと言うなかれ《週刊READING LIFE Vol.197 この「音」が好き!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/12/12/公開
記事:飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は、けっこうラジオを聞く。
 
YouTubeやオンデマンド視聴の時代に何を! と思われる方もいるかも知れない。
でも、聞きたいものがあり、実際にメリットもあるのだから、仕方がない。私は、番組から、コミュニケーション力を学んでいるのだ。
 
ラジオの番組にも、いろいろなものがある。有名人が披瀝してくれる知識や、お勧めする音楽をひたすら聴く番組もあれば、推しのグループの人たちが、ゲームをしたりおしゃべりをしたりしているのを聞いているタイプの番組もある。投稿が中心の番組もあれば、もうすでにプログラムがしっかり決まっていて、テレビ番組のように、その内容を楽しむものだってある。
 
いずれにも面白い番組はあるが、いろいろ聞くなかで、私が、毎週特に楽しみに聞いているのは、Official髭男dismのベース・サックスの担当者がパーソナリティを務めている2時間番組だ。この番組は、2019年4月に開始後、2021年の日本民間放送連盟賞の番組部門(ラジオ)エンターテイメント番組の優秀賞も受賞しているから、知る人ぞ知る番組なのだと思う。
 
「あいや! どーもー。Official髭男dism、ベース・サックス担当の楢﨑誠(ならざきまこと)です!」がだいたい始まりの言葉なのだが、この「あいや! どーもー」を聞くと、最近は、何だか、いつもの声に、安心してしまう。
 
彼は、4人のメンバーの中でも、コミュニケーション力が高い「コミュ力モンスター」と言われているのだが、それが存分に生かされた感じの、ほんわかした番組だ。
 
何しろ、ミュージシャンがパーソナリティをしている、というのに、「音楽要素3割以下でお届けする……」と言っている。どちらかと言えば、確かに、おしゃべりが多かったり、プロが演奏した音楽が流されることは少ない番組になっている。それに、通常の番組が、推しのアーティストが楽しんでいるのを聞いたり、考えていることを一方的に聞いたりして楽しむ感じが強いのに比べて、楢﨑さんは、自分は、あまり表に出ない。いや、ハッピーバースデーの歌を絶叫していたりはするし、ほぼしゃべっているので、しっかり「彼」が押し出されてはいるのだが、投稿中心に番組がまわるので、気づかないで彼の世界に引き込まれている感じだ。
 
彼の番組は、最初の10分ぐらいは、世の中の変わったニュースを取り上げて感想を述べたり、近況を報告したりしているのだが、その後、リスナーからの投稿を読み上げては、それについてのレスポンスをし始める。リスナーは、その日のテーマに合わせたり、その他、楢﨑さんに言いたいことを投稿してくる。
 
例えば、先日は「トホホな体験」をリスナーに教えてもらって、その投稿で思い出したり、思いついたことを話したりしていたが、そのうちに、他のリスナーがそれらにまた反応して、「私も同じような経験が!」と別の似たような投稿をしてきたりするので、どんどん話が広がっていく。リスナーと楢﨑さんの1対1のやりとりだけではなくて、もはや、リスナーとの談話会と化している。だいたい投稿している人たちは、いつも決まった人たちだが、投稿の内容で番組の中身が変わっていくので、「関わったみんなが番組を作っているんだな」という気持ちになる。ただ、内容的に卑猥すぎたり、公序良俗に反するコメントなどには、「今度やったら出禁ね!」みたいなことも言うので、ちゃんと楢﨑さんが、投稿の方向性は握っている。どれだけ幅広いファンが聞いているか(下は2歳ぐらいから上もきっと70歳なども)をちゃんと認識して、気遣っている感じだ。
 
そして、何度も聞いていると、実は、襖をはさんで隣どうしの兄と妹で同じ番組を聞いていたことが発覚するとか、実はお父さんお母さんも聞いていて投稿内容(恋愛相談)がバレたとか、好きな相手も聞いていて、ラジオで公開で好きだということが伝わったとか、様々なことが起こる。コンサートで知り合った仲間で演奏してみた音源とか、海外にいるファンからの投稿も送られてくる。ファン層がとても広くて、ファンが家族連れでコンサートに行ったりもするOfficial髭男dismだからこその、老若男女、国をも超えたラジオ上での交流が起きていて、聞いていて楽しい。
 
そう考えると、彼がパーソナリティとして行っているのは、自分が前に出ることではなくて、やっぱり、リスナーとの交流の場を、みんなが気持ちよく過ごせるように調整して、盛り上げる役なのだと思う。番組としては、けっこう珍しいのかな、と思うが、この司会進行の仕方も参考になる。

 

 

 

それに、楢﨑さんのコメントの仕方もいい。よく笑って、お酒が好きで、料理を作って人にふるまうのが好きで、音楽にも人生にも真面目な楢﨑さんのキャラクターだからこそ、というところもあるかも知れないが、受け答えが、とてもさわやかだ。
例えば、「トホホ体験」投稿に、しんみりと「ほんとにトホホだったね」なんて言われたり、簡単にスルーされてしまったら、相手は余計凹むと思うが、彼は、豪快に笑って「かわいそうだったねー。ちょっとせつなくなるねー」のように反応して、その経験に関する自分のエピソードを付け加えたりすることもある。この時の豪快な笑いは、嫌みではなく、すっきりとした、嫌な気持ちを吹き飛ばしてしまうような笑いだ。いじってもらった後は「忘れよっ!」と思って、前に進めるのではないかと思う。他の人には真似は出来ないのかも知れないが、対応としては感じがいい。
 
等身大の、ちょっとお兄さんの立場からの恋愛相談も楽しみだったりする。中学生や高校生の時は、「こんな男の子の態度って、どんな意味があるのか? 私を好きなのか? それとも……?」みたいな疑問を抱くことがあると思うのだが、この答えを聞ける相手は、そうそういない。一人で悩んでそのままになるか、女友達に相談して考えてみるか、だろう。でも楢﨑さんは、彼の人生の中での経験から考えたことを言ってくれる。自分で分からない時は、ブースの外にいる男性陣にも聞いてみてくれる。彼らの経験の中で、のことにしても、男の子はこんなふうに考えているかも知れない、みたいなことが聞けたりするのは、何の情報もないなかで、とても貴重だと思う。彼は、普通に大学時代を過ごし、警察官だったこともある人なので、親目線から見ても、ゆだねてもいい気がする。私にも、こんな相談相手がいたら良かったよな、と思う。
 
そして、私が一番好きなところは、彼が、絶対に、人をくさしたりしないところだ。番組中には、「サウンド・トラベラー」という、リスナーが集めた音源だったり、演奏を紹介するコーナーもあるのだが、もしかすると、「のど自慢」だと鐘1つ、みたいな音源が来たとしても、いいところをちゃんと褒めてあげるし、リスナーが投稿してきた意図を汲んであげる。声色に、無理して褒めている、みたいな感じもない。本気で楽しんでいる。投稿の上手下手に多少の差はあるのだと思うけれど、聞いている感じ、出て来るコメントに大きな差はない。音楽を楽しむ気持ちを分かち合ってくれて、一つ一つを本当に真面目に聞いてくれて、場合によっては、「こうしたらもっと良くなるよ」みたいなことも言ってくれる。練習途中のリスナーには、いい発表の場にもなるし、自信もつくと思う。
 
私は、教師としては、「どうやったら苦手意識を持ってしまった教科に少しでも関心を持ってもらえるかな。どうやったら褒めて伸ばせるかな」と悩むことがあるのだが、彼の対応は、とても参考になる。ラジオを聞いているうちに、「これはすごいな。真似して実践したらいけるかな」と思って、実はもう、生徒の発表の時の対応で、彼の対応を思い出しながら接してみたことが何度かある。
 
もし、今はまだ鐘一つ的な発言だったとしても、生徒は頑張って発言をした。だから、とにかくは、自信を持って、自分にも出来たと思ってほしい。まずは、いいと思うことを見つけて褒めてあげると、生徒はニッコリと小さくうなずいて、背筋がシャンとする。生徒の性格なども見ながら、いつ、どこまでアドバイスをするか、というのがまた悩ましいのだが、
その後、聞いてみると、他の人が褒められていた点を聞いていて、自分の発表に足りなかったことを、自分で見つけていたりもするので、まずは、とにかく前向きな気持ちにさせるのも大切なのかも知れないな、と思う。指導の仕方には、いろいろな方法があるので、いつも悩ましいが、生徒のいいところを褒める時、この番組を思い出しながら、褒めるようにしている。
 
楢﨑さんのコミュニケーション能力は、本当にすごい。番組のほぼすべてが、リスナーの投稿から生まれていながら、やっぱり結局は、彼らしさがあちこちから滲み出て、いい感じの番組に仕上がっているのだと思う。他の日本中の番組も聞いてみたりしているが、やっぱり、コミュニケーション力が素晴らしくて、「みんながつながっている」感がとても感じられる、この番組は楽しみだ。

 

 

 

ラジオは、放送開始から、だいたい100年経つメディアらしい。世界最初のラジオ放送局の開局は、1920年のアメリカだと言われており、日本ではその5年後の1925年から放送が始まったのだそうだ。最初は、1923年の関東大震災後、新聞などが届かなくなっても情報が得られるように、という、一方向メディアとして導入されたようだが、今は、テレビより古くからあるメディアなのに、根強く残っていきそうな予感がする。
 
それは、ラジオが、双方向の形態をとりやすいメディアだからだ。やり方によっては、楢﨑さんの番組のように、「みんながつながっている感」も出る。
 
今は、YouTubeなどの生配信もあって、顔も見ながら、コミュニケーションを取れる時代にもなったが、人気の配信だと、読む暇もなく視聴者のコメントが流れていってしまうので、あんまりじっくりつながった、という感じがしないし、Zoomなどで対面したらしたで、「キャー。私ファンなんです。グッズもこんなに持ってます!」のような会話で終わってしまったりし、何かのテーマで、みんなが飛び込みでじっくりエピソードを出し合う、などという展開には、ほとんどならない。それに、落ち着いて投稿を取り上げてくれる時には、テレビのように、匿名の誰かの意見として番組に反映されるのみだったりする。よって、一緒に番組作ってます! みたいな感覚にも、そんなにならない。
YouTubeでも、YouTuberの人柄は分かるけれども、初対面どうしで、面と向かっては相談しにくいこともあるのだし、1対1で顔出ししたら、やっぱり当たり障りのないことを話して終わりそうだ。
 
その点、ラジオは、たくさん話しているパーソナリティの性格や考え方が如実に反映される番組になるのは、YouTube配信などと同じだが、顔が見えない分、けっこう恥ずかしい話や深い話も出来て、結果、よりその方の人格がよく分かるような気がする。そして、こんな慰め方もあるのか、そんな考え方もあるのか、などという学びが得やすいかなと思う。
 
普通、仲のいい同年代の友人以外で、他の方たちの恋の悩みなど、内面的な話を聞いて、それへの誰かの返答をじっくり聞く機会があるだろうか。喫茶店で隣の話が聞くとはなく聞こえてきた時や、透明人間にでもならないと難しいと思う。そして、ラジオネームしか分からない相手が、「私もそうだ」なんて言ってくれることがあるだろうか。リスナーの生の声は、電話でつながった時しか分からないにしても、パーソナリティが、声色を変えたりしながら、生で声に出して読んでくれたり、コメントを返してくれると、ただの文字を読むよりも、温かみを感じる。自分は一人で悩んでいるわけではないし、親身に投稿に付き合ってくれる人もいるしで、より元気づけられるような気がする。
 
ラジオは、双方向メディアとして、まだまだ使いみちがあると思う。
 
私がラジオを聞くのは、情報を得るためでもあるが、楢﨑さんを中心とした、いろいろなパーソナリティの方の、リスナーへの対応を聞くのが面白いからだ。コミュニケーション力を磨くのに感心がある方には、時々ラジオをじっくり聞いてみるのもいいもんだよ、と、声を大にしてお勧めしたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年11月に、散歩をきっかけに天狼院を知り、ライティング・ライブを受講。その後、文章が上手になりたいというモチベーションだけを頼りに、目下勉強中。普段は教師。

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2022-12-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.197

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