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週刊READING LIFE vol.197

ウイスキー「トクトクトク音」総選挙2022の結果発表《週刊READING LIFE Vol.197 この「音」が好き!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/12/12/公開
記事:久田一彰(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ウイスキーの楽しみ方は、人それぞれだ。
 
グラスに注いだウイスキーを目で見て、その琥珀色を光にかざしながらグラス越しに楽しむ。くるくると回しながら空気を含ませて、鼻を近づけて香りを楽しむ。また、丸い氷をグラスに置いておき、氷が溶けて「カラン」とグラスが鳴るのを聞く楽しみ方。ひとくち含んだ時の舌で楽しむ味わい。飲んでみたいウイスキーを手に入れるため、酒屋をめぐってみて、手に入れた時の喜び。手に入れたウイスキーをSNSの愛好家グループページに投稿して、こういう風に楽しんでいますと報告して、共感を得る楽しみ方。どんな楽しみ方をしても、ウイスキーはその人に応えてくれるのだ。
 
そこで今回私は、あるひとつの楽しみ方を皆様にお伝えしたい。それが、耳で楽しむウイスキーだ。つまり、ウイスキーを開栓して注ぐときの「トクトクトク音」を楽しむことだ。
 
私には夜な夜な密かに集めている「トクトクトク音」がある。今年に入り19本のウイスキーを開栓して飲んだ。飲み干したわけではないので、まだ瓶の中にウイスキーは残っているが。その際、携帯アプリの「stand.fm」に録音して、後でゆっくりと聞き返すことをしている。収録自体はどれも1分に満たないものであるが、開けてから注ぐまでの間には音のドラマがある。
 
その中でも、特にお気に入りの3本の「トクトクトク音」をここで紹介する。いわゆる総選挙の結果発表みたいなものだ。今回の結果を出すにあたって、19本全てをもう一度聞き返した。なにしろ収録中はすでにウイスキーを飲んでいる最中でもあり、冷静な音を聞けていない可能性があるからだ。
 
まずは、収録した順番に聞き返して、特にいいものピックアップした。
 
注目のポイントは、開けた時に「コルク栓」でフタがしてあることだ。これは開けた時に「ポンッ」とつづみを叩いたような音が気持ちいい。ウイスキー職人が丹精込めて造り、ゆりかごのような樽の中で何年も眠ったウイスキーが瓶詰めされ、私たち飲み手にその歌声を初めてきかせてくれるあいさつのようなものでもある。
 
次に注ぐ時の音。瓶の形状によっては全く「トクトクトク音」にならずに、ただジャーっと勢いよく流れる音だけのものもあった。音の高さも一律に低い音だけ、高い音だけや、一旦低い音がしてから、高い音になるヨーヨーのような動きをする変化球な音も聞かせてくれた。もしかしたら、注ぎ方の問題なのかもしれないが、これはある意味オリンピックのような勝負の世界でもあるので、録音された一発撮りの音を基準に決めた。
 
この2つを決定のポイントとして、いいなと思ったウイスキーをピックアップしていくと、まずは19本の内7本に絞られた。次にその7本を収録の順番に聞いていくが、どの音も捨てがたく、いい「トクトクトク音」をしている。しかし、それでは総選挙にならないので、非情な審査員になりながら順位を決める。
 
ここでこだわったポイントは、コルクを抜いた時の「ポンッ」という音に注目した。小さい音で抜けるもの、素直にスッと抜け音があまり出ないコルク、簡単に引っこ抜かれてたまるか、というコルクの主張があり「ギチギチギチ」した音、音の高低に注目した。
 
それと同時に、「トクトクトク音」にも基準をつけた。音の高低や、テレビのCMに出てくるような音を出してくれているか、聞いて気持ちよくなれる音だ。
 
このポイントを元にすると、最終的に7本から3本まで絞れた。さあ、ここからが本当の勝負の始まりだ。それぞれ「ポンッ」も「トクトクトク音」も激戦をくぐり抜けているので申し分がない。
 
そこで今度は、収録された音を収録順ではなく、日付の新しいもの順で聞いてみることにした。すると、前回までとは違って、新しい発見をすることができた。それを加味して順位をつけていった。
 
ここに、ウイスキー「トクトクトク音」総選挙2022の結果が出そろったので、発表していこう。まずは3位の発表だ。
 
3位は「グレングラントアルボラリス」だ。
スコッチのシングルモルトウイスキーで、アルボラリスとは、ラテン語で「木漏れ日」を意味する。箱も分もオレンジ色で統一され、おしゃれなイタリアン服をまとった雰囲気を漂わせている。
 
箱から出すと、ボトルの一番上にはキャップがしてある。それを剥がしながら瓶をぐるぐると回す。テーブルと瓶の底が擦れる音と、キャップが「パキッ」と音がして取れる。コルクを少しずつ取ると、元気な「ポンッ」という音を聞かせてくれた。音も高すぎず低すぎず、ちょうどいい音の高さだ。注がれると、最初はゆっくりとしたやや低めの「トクトクトク音」から始まり、徐々に音が高くなり注ぐテンポも速くなっていく。テレビのCMで使いたくなるようなお手本の「トクトクトク音」を聞かせてくれた。
 
さて、次は2位の発表をしよう。2位は「タリスカー10年」だ。
 
同じくシングルモルトスコッチウイスキーで、スカイ島にウイスキー蒸溜所がある。『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で知られるイギリスの文豪、​​ロバート・ルイス・スチーブンソンが、「酒の王者」と呼んだウイスキーだ。
 
キャップも手際よく開けられ、王者にふさわしく、先ほどの「グレングラントアルボラリス」よりも勢いがいい。コルクの渇き具合もちょうどいいのか、「ポンッ」に威厳もあるように聞けた。「トクトクトク音」も王者の決断のごとく、最初から最後まで迷いがなく聞かせてくれた。
 
そして、栄えあるウイスキー「トクトクトク音」総選挙2022の1位は、「ボウモア12年」だ。これも同じくシングルモルトスコッチウイスキーで、スコットランドのアイラ島、スコッチの聖地ともいわれる、「海のウイスキー」や「アイラモルトの女王」と称されている。
 
わずか35秒ほどの収録時間だが、大いにドラマがあり感動させてもらった。手にとってキャップを外すまでのスムーズさまでは良かったが、ここで意外なことが起きた。なんと、コルクがなかなか抜けないのだ。真っ直ぐ抜けず、少しずつ回す。あまり力任せて抜いてしまうとコルクが折れてしまうこともあるので、慎重に回しながら引っ張る。
 
「ギチギチギチ」という音がし、そう簡単に抜けてたまるかというコルクの主張が聞こえた。しかし、録音している以上、あまり長い時間はかけられないという気持ちもあり、早く抜けてくれという思いも交錯した。これは私とコルクの綱引きのようなものだ。思い切って力を入れて回し、「ギチギチギチ」という音はさらに大きくなった。
 
最後のひと回しをすると、「ポンッ」という音がした。コルクと綱引きをした結果、私が勝ったのだ。コルクの乾いた部分と湿った部分が音になって出たような、ちょうどいい秋晴れの空に響き渡る空気砲のような感じが心地よかった。あとは安心して注ぐだけ。「トクトクトク音」も心なしか、私の気持ちを代弁してくれるような、安心して落ち着いたリズムで注がれていった。これは紛れもなく1位の音だ。
 
こうしてウイスキー「トクトクトク音」総選挙2022は幕を閉じた。
 
夜な夜なの録音が実を結んだ瞬間でもあった。思い返すと、妻や息子が寝静まり、食洗機や洗濯機が回る音が入ってはいけないと思ったので、どうしても23時以降から午前0時にかけての録音になる。まさしくシンガーやバンドさながらの録音状況だ。
 
録音を始めてからも、驚きと発見があった。
 
飲みたいと思って張り切って開けたウイスキーにコルク栓がなかったり、レアポケモンみたくようやく手に入れたウイスキーが、思ったほど「トクトクトク音」がしなくて思わず笑いそうになって録音したり。すでに酔いが回って、勢いよくウイスキーが注がれて、ビシャビシャにこぼれてしまったりもした。
 
ああ、今年はなんて楽しい「トクトクトク音」が録音できたんだろう。いや、まだ年末までには数日あるから、これから新しい「トクトクトク音」に出合えるかもしれない。来年ももっと多くの「トクトクトク音」に出合いたい。
 
あなたもウイスキーを手に入れたなら、この「トクトクトク音」に耳を傾けると、新たな発見があって、さらにウイスキーが好きになること間違いない。ぜひ、あなただけの「トクトクトク音」を楽しんで欲しい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
久田一彰(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県生まれ。会社員。
父親の影響でブランデーやウイスキーに興味を持ち始める。20代の後半から終わりにかけて、夜な夜な秋葉原のコンセプトバーでブランデーやコニャック、ウイスキーを飲み明かした経験を持つ。
現在、天狼院書店『Web READING LIFE』内にて連載記事、『ウイスキー沼への第一歩〜ウイスキー蒸留所を訪ねて〜琥珀色がいざなう大人の社会科見学』を執筆中。

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2022-12-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.197

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