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週刊READING LIFE vol.200

麦が紡ぐもの《週刊READING LIFE Vol.200》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/1/9/公開
記事:小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
静岡県伊豆市にある修善寺温泉。
伊豆半島では最も歴史のある温泉と言われ、日本百名湯にも選ばれている。
温泉街の中心には修善寺川(通称:桂川)が流れ、川の周りには飲食店や温泉宿が立ち並ぶ。
地名の由来となっている修禅寺も近くにあることから観光客も多い。
温泉街付近には源氏に由来する建物が多く、鎌倉幕府2代将軍、源頼家の墓、頼家の冥福を祈り、母北条政子が建てた指月殿などがある。
そんな歴史ある場所で、麦わら細工の職人として日々活動されている辻享子さん。
江戸時代から伝わり現代に残る技術、“大森編み”という独特の菱形の編み方で1本の麦から数々の作品を生み出している。
だが、この“大森編み”を編むことができる職人はもう片手ほどの人数のみ。
そんな技を継承し、日々作品を生み出す辻さんの想いを聴かせてもらった。
 
辻さんが今どんなことをされているのか簡単にお話して頂けますか?
 
“大森編み“という編み方で、麦わら細工を作っています。
麦わら細工の職人をしていた両親の元に生まれてきまして。
父が21年前に亡くなり、母だけだったところに私も一緒にやることになりました。
母からは
「伝統工芸とかそういう類では食べていけないから、やめとけ」
とは言われたのですが、私がどうしてもやりたいっていうところで、無理やり入り込み今に至るって感じですね。
 
お母様から反対されても麦わら細工をやろうと思ったきっかけは?
 
きっかけはなんだろうな。
ただ、学校で『将来の夢を描く』と言う課題が出た時は、いつも『麦わら細工の職人』と書いていました。
子供の頃から漠然と、この仕事をやりたいと思っていたのかもしれません。
小学校の頃から夏休みとか土日とかもそうですけど、お客さんで賑わって
「工房の手が足りないから、手伝って」
と言う具合に頼りにしてもらえた時はすごく嬉しくて。
小学校、中学年くらいからはお客さんに編み方を教えたりとかしていました。
ただしっかりやっていこうと決めたのは2年ぐらい前ですかね。割と直近の。
母の具合が少し悪くなったというのもあったんですが。
実は母には内緒でSNSを使って麦わら細工の発信はしていたんです。
その中で海外の麦わら細工のアーティストさんとかが、
「これは日本にしかない編み方だから大切にしなきゃダメだよ」
と仰ってくれて。
これはやっぱりなんとかして残さなければと改めて思い、腹をくくりました。
とにかく次の職人さんを育てるためには、この職業で食べていけるぐらいに私がならないと絶対、次は残らないだろうなと。
仕事を辞めて、麦わら細工一本でっていうところに落ち着いて今に至っています。
 
お母様と今は職人二人でやられているとのことですが、衝突してしまうことはありました?
 
価格の設定でしょうか。
父も母もその消費税だとか日本の経済状態に合わせて金額をあげるとかっていうこともしてこなかったので、本当に昭和の初期のぐらいの頃の金額のままずっとやってきていたので。そこをまず改革するのがちょっと大変な作業でしたね。
同じ伝統工芸でも、漆細工とか寄木細工とかは割と高価なイメージがあると思うんです。
麦わら細工は皆さん聞いたこともないし、
「麦でしょ? 所詮麦でしょう?」
という具合で麦に対してのイメージが低いっていうのかな?
だから工芸品でどれだけ手がこんでいたとしても、
「麦でそんなにするの?」
ということで母も価格に関しては心苦しいというか、勇気がなくて。
ただ畑で1から麦を作って、下ごしらえをして。
1つの作品を作るのにどれだけ時間がかかってできているか。
それを換算せず、今まで本当に少ない金額で販売をしてたんです。
そのあたりの母の意識を変えていく。
いや、いいんだよ。
お母さんはその価格に見合うすごいものを作ってるんだよっていうのを分かってもらうのが大変でした。
今でもありますけど。
ただこれでは続かないよって。
 
そうだったんですね。
畑から麦を作ってとのことなのですが、麦は辻さんが作られているのですか?
 
はい。
麦蒔きして芽が出て、収穫までずっとやっています。
時期的には11月の終わりぐらいに麦を蒔きます。
今ちょうど11月28日に植えた麦が8センチぐらいに育ってきました。
それから伸びていって収穫が5月末から6月中旬ぐらいまで、梅雨入り前ぐらいまでに刈り取るという流れです。
機械で刈ってしまうと麦に傷が付いて作品に使えないので、全部手刈りで刈って、それを束にしたのを2,3日干します。
竹みたいに麦も節があるんです。
その節ごとに一本を3分割ぐらいに切って、切り揃えて束にしています。
収穫してから6月いっぱいぐらいはずっとハサミで切ってます。
無心で作業をしています。
この時期は工房に鶯が結構来てくれるんです。
鶯の声を聞きながら、ひたすらハサミでチョキチョキと切っています。
触ってみて今年の麦ちょっとダメだなとか、いい感じでできてるなとか、短いのが多いなとか、そういうのは選別しながら作業しています。
 
麦を育てていくうえで大変なことってあるんですか?
 
麦はそこまで気を使わなくてもわりと育ってくれます。
3月ぐらいに追肥といって生育状態を見て、肥料を追加したりとかしなかったりとか。
あとは雨が降る日が多いと、麦にシミが出てしまう。
だから雨続きと梅雨入りが早まったりすると困るなっていうところがありますね。
特に収穫前ぐらいになってくると麦って黄色く色づいてくるんですよ。
緑色だったのが。
その黄色く色づいてきたぐらいから雨が増えると、使い物にならなくなってしまう。
あとは伸びているのが倒れて、地面に付いたりするとそこがまた汚れちゃったりとかするので、その辺ですかね。
 
そうして手間暇かけて育てた麦を収穫して、選別して作品に仕上がっていくのですね。
作品はどんな風に作っているのか、あと意識していることがあれば聞かせて頂けますか?
 
一日の作業として、私たちは朝から晩までやっています。
時間があれば麦を触っています。
朝は家のことをやったりして10時半ぐらいに工房に行って、そこから作品づくりをしたり、お客さんがくれば対応したり体験したりとかってやりながら、後は切りのいいところまで作品作っています。
一回辞めて後でご飯食べてからまた一回やろうかなとか、そんな感じです。
材料も工房と、自宅と両方に持ってきてあって、思いついた時にパッとできるようにしてあります。
作品を作るときはやっぱり麦自体に傷を付けないように。
そうするとやっぱり仕上がりが綺麗なんです。
極力傷の無い所を使うとか、傷を付けないように麦を延ばすとか、いろんなことがあるんですけど、そこは少し神経を使いますね。
麦は乾燥して取ってあるのですが、作る時は10分ぐらい水に漬けて柔らかくしてから編んでいます。
編んでいる途中で乾燥してくると麦が乾いて折れてしまうので水分を気にしながら作業をしています。
使ってる麦は大麦っていう種類なんです。
大麦は麦の中でも割と柔らかい麦なので編むにはすごく適しています。
今流行ってるヒンメリ。フィンランドの方の伝統。
あのあたりはあのライ麦の産地なんです。
そのライ麦からヒンメリはできているんですけど硬いんです。
だから中に糸を通しても切れにくい。
対して大麦は、柔らかいから糸を通している途中で切れちゃうんです。
麦によってこう細工に適している麦、適してない麦とかはありますね。
 
なるほど、じゃあ麦からすべてオール修善寺産というわけですね。
これからどんなことをしていきたいですか?
 
やっぱり後継者を、後継者を育てないと。
この一つの編み方に関しては本当に日本から消えてしまう。
かなりぎりぎりの状態です。
後継者だけに限らず、やりたい人を増やしたいとか、広めたいという気持ちはあるのですが、“大森編み”って難しいのでなかなか簡単にできなくて。
何度かワークショップをやったことがあるんですけど、なかなか形にならないので、皆さん達成感が得られにくい。
一日やそこらでできたら私たち職人はいらないと思うんですが。
だからそこを長期スパンで、何度も練習していただけるような気合のある方が出てきてくれるといいなあっていうのは思っています。
麦わら細工っていうと、兵庫県の城崎温泉さんが有名で。
あそこは地域でやられているので、発信力も強いです。
地域おこし協力隊の方も含めて今20人ぐらいいると聞きました。
 
今、麦わら細工で検索する人がまずいないと思うので
「うーん、麦わら細工ってなんだろう」
って検索してくれる人が増えてくれるといいな、というのはありますね。
“大森編み“の麦わら細工は東海道五十三次の品川~川崎間の町で、お土産として当時売られていた民芸品の一つなんです。
これを伝承している人がとにかくいらっしゃらなくて。
大田区郷土博物館で当時の昔のものを展示してあって保存会の方が数名、なんとか残さなければいうことで取り組まれています。
母が何度か教えに行って、練習して、今形になられている方が数名いらっしゃるぐらいです。
葛飾北斎は当時麦わら細工に興味を持って、下絵を書いてあるものを残しているんです。
歌川広重も麦わら細工の江戸浮世絵が三枚ぐらい残しているんですね。
だからやっぱり残したい。
 
どんな人に手に取ってもらいたいですか?
 
最後まで大切にしてくれる人のところに行ってくれると嬉しいなと思います。
最近は私が色々発信していく中で、イベント等の声をかけて頂いて出店することもあります。
出店者さんによっては売れ行きのない時に心配して、あえて買ってくれる人もいます。
私はとしては別に売上がその時になきゃないで別にいいんです。
とりあえず買っとくよという感じで買われて、そのままどこかに眠ってしまうよりも、綺麗に飾ってもらって、お正月とかにこれ飾ろうかなとか。
それで生活を豊かに楽しんでくれるような方の所に行ってくれる方が嬉しいです。
最近は父の世代の頃のお客さん達が、最後の旅行になるかもしれないって言って思い出にと工房に来られる方が増えました。
お孫さんたちを連れてきてくれるおじいちゃんおばあちゃんとか。
「あぁ、なんかこの辺にあった気がする」
「工房変わってないね」
って言いながら来てくださって。
最近はそれが楽しみの一つになっています。
この瞬間、本当に辞めないでよかったって思います。
 
最後に何か話したいことはありますか?
 
ぜひ本物の麦わら細工を見てほしいと思います。
写真じゃなくて、ぜひとも本物を手にとって欲しい。
修善寺じゃなくてもいい。
近くにあるところで構わないので、麦わら細工というものを手に取ってみてもらいたいです。
持ってる人がいたら、ぜひこれが伝統工芸の麦わら細工なんだよって自慢してもらいたいですね。
 
 
 
始まりは一本の麦。
その麦は江戸時代から令和の現代に至るまで、“大森編み”の麦細工という1つの伝統を繋いできた。
麦細工には一編み一編みごとに職人たちの想いが詰まっている。
そんな職人が生み出した想いがこもった麦わら細工は、今日もどこかで新たな物語を紡いでいる。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

大阪生まれ大阪育ち。
2022年4月人生を変えるライティングゼミ受講。
2022年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
病院で臨床検査技師として働く傍ら、CBLコーチングスクールでコーチングを学び、コーチとして独立。日々クライアントに寄り添う。
7つの習慣セルフコーチング認定コーチ。
スノーボードとB‘zをこよなく愛する一児の母でもある。

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2023-01-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.200

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