週刊READING LIFE vol.201

年末年始の過酷すぎる帰省《週刊READING LIFE Vol.201 年末年始のルーティン》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/1/23/公開
記事:山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2023年現在日本の駅の総数は9337駅である。私が生きている間に日本のすべての駅を踏破したい。「ステーションメモリーズ(以下駅メモ)」というデジタルスタンプラリーのアプリによると現時点で4906駅踏破しているが、ここからさらに踏破するには、これまで訪れることのなかった地域に足を運ばなくてはならないだろう。

 

 

 

私の年末年始休暇は大体12月29日に始まり、1月5日から始業となる。ほぼ1週間の長期休暇は決まって千葉の実家に帰って両親とのんびり過ごすのが通例だ。
 
勤務地の静岡から千葉に帰宅するのだが、まともなルートでは帰省していない。普通は新幹線か東海道線上野東京ラインで帰宅するのだが、毎回この時期は、小田原から小田急線に乗り換えて新宿に向かったり、大船からあえて京浜東北線に乗り換えて東京に向かったりといつもと異なるルートで帰省する。
 
この間の年末はいつもより最も過酷な帰省をしてみた。

 

 

 

私の住む静岡県には216駅あるが、そのうち10駅だけがどうしても踏破することができなかった。
 
静岡県を熱海から浜松までつなぐ東海道線の他にも、伊豆半島の海を眺めて走る伊豆急行やSLで山の中を走る大井川鉄道など魅力的な電車もいくつかあり、これらを全部乗っても205駅となり静岡県の駅をコンプリートとはならない。ここまでは2015年に駅メモをはじめてから2年ぐらいで踏破することができたのだが、残りの10駅だけがどうしても踏破することができなかった。
 
今度こそは残りの10駅を踏破してスッキリと2023年を迎えたいところだったが、それが思いのほか大変だった。

 

 

 

業務が終わった12月29日の夜、私は東海道線で豊橋に向かった。目的地は千葉だが、完全に逆方向である。夜も遅いことだし豊橋で一泊する。
 
翌12月30日、早朝6時に豊橋のビジネスホテルを出発し、豊橋駅からJR飯田線というローカル鉄道に乗った。ここからが本番だ。
 
飯田線というのは、豊橋駅から終点の長野県塩尻駅まで愛知県と長野県の県境を90駅ほどひたすら進んでいくのである。天竜川の上流の佐久間ダム付近の10駅が静岡県内となるため、この駅を踏破すれば静岡県がコンプリートとなる。
 
豊橋からは長篠の戦いの舞台の新城市を通過しながら2時間ほど電車に乗ると愛知県から静岡県に入ることができる。私が乗っていた電車は途中の「中部天竜」駅が終点となり、乗り継ぎまで2時間待たされることになった。この時点で朝の9時を迎えた。
 
この辺りの駅は本当に秘境駅ばかりでほとんど人が乗っていない。天竜川上流には佐久間ダムと中部電力の発電所があるぐらいで本当に何もない。こんなところでただ2時間も待っているのはつらすぎるので、近くを散歩しながら歩いて次の駅に向かうことにした。
 
それにしても腹が減ってきた。しかしコンビニも飲食店も何にもない。途中に発電所があるので人はいるのだろうけどどうやって生活しているのだろうか?
 
何もないところを1時間ほど歩いていると何とか生協が見つかったので、簡単なお弁当で腹ごしらえをしてから、ようやく乗り継ぐことができた。
 
こうして念願だった残りの静岡県の10駅を踏破してコンプリートを果たし、長野県へ入った。中部天竜の次の駅である「佐久間」駅から出発してからずっと新たに乗る乗客は一人もおらず、秘境駅だらけの山の中をひたすら一人で電車に乗っていた。豊橋から5時間かけてようやく半分の「天竜峡」までたどり着いた。
 
7時に豊橋を出てからちょうど12時ここまで50駅の「新駅」をとることができたところで、中間地点の天竜峡で軽い食事をとって乗り継ぎを待つことにした。

 

 

 

天竜峡というのはネットで軽く検索をかけた限りでは、長野県の山間にある風光明媚な土地であり、天龍峡温泉として知られている。また、天竜川の上流を舟下りなどで景色を楽しむことができる観光地でもある。
 
なるほど、確かに空気もきれいだし山から見る天竜川も確かに美しい。川に沿って散歩するだけでも気持ちが良いだろう。
 
しかし、先ほどの中部天竜駅のように2時間も乗り継ぎで待たされることはない、せいぜい40分ぐらいだったので簡単に食事をしてからお土産物屋を見ているぐらいで時間はつぶせる。いくら風光明媚な場所でも90駅もある飯田線の半分であり、長野県の山の中で足止めを食らったら実家には帰れない。あとどのぐらい進めばよいのだろうか?
 
昼食を済ませてから飯田線に乗って終点の塩尻駅まで進めることにした。それにしても山の中ばかり走っているので、本当に景色が変わらない。ほとんどの駅が秘境駅ではないか。それにしても始点の天竜峡駅から誰も電車に乗っていないではないか。ここから40駅も先の塩尻駅まで乗る人間は私しかいないのではないだろうか?
 
塩尻という駅は大雑把に言えば諏訪湖の近くだ。日本地図を見てみるとわかるが、諏訪湖は長野県の真ん中あたりにある。それに対して天竜峡や飯田市は長野県の南側にあるので、如何に長野県が大きいのかが想像できるのかもしれない。
 
電車に乗りながらふと考えたことがある。リニアモーターカー構想が発表されてから少なくとも5年は経過していると思う。これができたら東京と名古屋を40分で結んでしまい、さらに大阪まで伸ばしたら67分で結んでしまうという。改めて考えると恐ろしい。静岡県民にとって東京や名古屋はともかくとして大阪はやっぱり遠い。東京から大阪というのもおいそれと訪れることはないだろう。それを1時間余りで結んでしまうなんて考えられない。
 
そして、リニアのことを考えたらさらに別の疑問も思い浮かべた。東京と名古屋そして大阪をつないでしまうとして、どこを通過するのだろうか。
 
何となく気になってスマホで検索してみた。
 
リニアの開通はなんだかんだ言いながら夢のプロジェクトだが、見事に静岡県は無視してくれているようで、東京から名古屋の間の停車駅は、橋本(相模原市)、甲府、飯田(長野県)、中津川(岐阜)を通過して名古屋に到着するという。
 
甲府は何となく予想がついていたが、長野県のどこを通過するのかが皆目見当がつかなかった。なんと飯田駅がリニアモーターカーの通過駅となるという。
 
ということは、今山の中をひたすら走っている秘境駅だらけの飯田線をリニアモーターカーが交差するってことか?そうすると長野県南部の山の中にある場所が再開発でも行われるというのか!!
 
想像するだけで楽しくなるのだが、電車の窓からの景色を見る限りではにわかに信じることができなかった。
 
そんなことを考えながら電車に乗っているうちに終点の塩尻駅に到着した。ここまでで朝7時に豊橋を出発してから8時間が経過していた。

 

 

 

塩尻からは「JR中央本線」を使って東京に向かう。諏訪湖をかすめてから山梨県に入り、甲府、大月へと山梨県を横断してから、高尾山、八王子を通過して東京に向かう。ちなみに西に向かえば岐阜県を通過した後に名古屋にたどり着くことができるわけだ。
 
東京から名古屋を結ぶと言えば多くの人の感覚では静岡県を通過する東海線を思い浮かべるのだが、実は東京→八王子→山梨県→長野県→岐阜県→名古屋のようなルートもある。リニアモーターカーというのは東海道新幹線に沿った静岡県よりのルートではなく、中央本線に沿った形でのルートになるわけだ。
 
諏訪湖をかすめるころには、夕方16時を回っており日も暮れ始めた。諏訪湖そのものは車で訪れたことはあるのだが、電車を使って訪れるのは初めての経験だ。静岡から車で行けば3時間もあればたどり着けると思われるのだが、豊橋から10時間もかかってしまっている。静岡からなら別のルートを使えばもう少し早いのだろうけど、それにしても時間がかかりすぎている。
 
これまで、10時間近く見慣れぬ山の中をひたすら電車で移動したことを思えば、諏訪湖や山梨県を通過している間は幾分にぎやかだ。何しろ飯田線の時のように電車に乗っているのが私一人という状態ではなく、それなりに乗客もいてにぎわっている。
 
10時間も乗った後に甲府を通過して八王子につく頃には3時間を経過し夜も更けている。この時点で19時を回った。とはいえ、八王子まで行ったらもう東京まで2時間もあれば、実家に到着できるはずだ。あともう少しだ。
 
とはいえ、普通に静岡から東海道線を使って千葉に帰省する時でも3時間もあれば余裕で到着できる。時間の感覚は確実におかしくなっているけど、知っている土地で残り2時間であればまだまだ頑張れそうだ。
 
12月30日の21時にようやく千葉にたどり着いた。途中でかなりつまみ食いはしたもののようやく母ちゃんの夕飯にありつける。
 
前日の豊橋入りも含めると20時間ぐらい電車に乗っていたというのか
 
翌日の12月31日そのまま自宅でゆっくりと年越しそばを食べ、ぶつぶつ言いながらも紅白を見ながら静かに年を越すことになる。

 

 

 

職場のカレンダーは12月29日から1月4日までの1週間が冬休みであり、ほぼ毎年のように実家に帰って家族と過ごすことが恒例となっている。
 
ゴールデンウィークや夏休みは実家に帰らずに職場近くのアパートで過ごすこともあり、一人で旅に出てしまうこともあるのだが、年末年始だけは何となく両親と過ごすことが恒例となっている。
 
年末になると仕事や遊び天狼院の課題でも年内のうちにやり残したことを片付けるようにして、年末を実家で過ごすというのがルーティンでもあり、今年も気持ちよく年を越すことができたといえよう。
 
年末年始というのは幸いにも休みがたくさんあり次の日のことを全く気にすることがない、もの凄く貴重な1週間でもある。
 
今回はずっとやり残していた静岡県の最後の10駅を取ることでとんでもない回り道をしながら帰省することができた。
 
いつもは新幹線でさっさと帰宅することもあれば、わざわざ八王子に行ってから京王線で帰宅したこともあり、考えられるルートで静岡から千葉に帰省していた。
 
中には、年末に名古屋で遊んでから朝一番で中央本線で岐阜県、長野県、山梨県を経由して東京に向かいながら帰省することもある。
 
飯田線に乗ることで100駅近くの「新駅」を取ることで非常に満足して帰宅することができたのだが、もう二度とやりたくない。
 
今年の冬は新幹線でさっさと帰省してのんびり実家で親孝行するようにしよう
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年8月の誕生日にライティングゼミ夏季集中講座で天狼院デビューとなりここから天狼院沼にハマって、ハードワークの技術、時間術ゼミNEO、無限ラーニングZ他多くの講座を受講することになる。
2022年1月よりライターズ倶楽部参戦するもあまりのレベルの高さに騒然とし、ライティングゼミNEOでライティングを鍛えなおす。同年10月よりライターズ倶楽部復帰
2023年末は断腸の思いでライティング年間パスポートを購入し、引き続きライターズ倶楽部に所属する。本年はメディアグランプリ優勝を目指して記事を書き続ける。

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2023-01-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.201

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