週刊READING LIFE vol.205

キャリア21年目からのリスタート。生き残る美容師の秘訣とは何か?《週刊READING LIFE Vol.205 私だけのカリスマ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/2/20/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
カリスマと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、今通っている美容室の担当の美容師だ。
その美容室に通い始めて約1年になるが、とにかく私の髪質が劇的に変化している。髪につやが出て、なめらかになった。人生最高潮に髪質がいいと言っても過言ではないくらい、しっとりとしている。
 
美容室のオーナーでもある森村誠さんのアドバイスは的確だ。常に顧客の髪に向き合い、今その人にとって必要なヘアケアを提案できる力があるからだ。美容師になって21年目の2023年1月、移転をして新しく店舗を立ち上げたばかりの森村さんに、美容師のキャリアを振り返っていただきながら、入れ替わりの激しい美容業界で生き残った秘訣を伺ってみたい。
 

「感覚で友達の髪を切っていた」から始まった美容師キャリア


——簡単なプロフィールをお願いします。
 
森村:群馬県出身です。高校卒業後上京して、美容専門学校卒業後に企業の美容室に入って5〜6年勤務しました。その後何店かで勤務し、最初の店「hair make SHANTI 目白」をJR目白駅前に開店しました。独立してから開店までに10年かかっています。
開店してから11年目の今年、2023年1月17日に店名を「Hair Lounge SHANTi」へ変更して店舗を移転しました。最寄り駅は同じく目白ですが、店を1から作り上げたので、新規開店と同じくらいの気持ちです。
 


森村 誠 (Makoto Morimura) / 美容師 2012年、東京・目白に「hair make SHANTI 目白」開店。2023年1月、同じく目白に「Hair Lounge SHANTi」を新規移転して開店。

 
 
——美容師を志したきっかけについてお話しください。
 
森村:高校生の時に髪型やおしゃれに興味を持ち出して、初めて美容室に行きました。当時の美容室は女性メインで恥ずかしかったけど、カットやパーマをして髪型を変えたときにいい感じになって「美容師の仕事って、かっこいいな」と思ったのがきっかけです。髪の毛をいじることがすごく好きになって、当時から男子の友達の髪は感覚で切ってました。
 
実は5歳上の姉が美容師です。姉は東京で修業した後に地元に帰り、自宅兼美容室で開業しています。美容師を志したのは、身近な姉の影響もありましたね。
 
進路を決める当時は就職難だったこともあって、大学に行くより手に職をつけようと思っていました。とにかくスーツを着たくなかったんです。
 
美容学校を出たら東京の美容室で働いて、地元に帰って店を出そうと思っていましたが、実際東京で暮らしてみると、地元よりも東京の方がこだわって綺麗にしている人が多い。せっかく東京でやっているから、残ろうと思いました。今では身内で東京にいるのは僕だけで、長男だけど好きにさせてもらっています。
 
 

2つの店を開いてわかる様々な感情。周囲の存在をかみしめて


——最初のお店を開業するときに、目白を選んだ理由はありますか?
 
森村:最初の店は居抜きでした。目白通り沿いなので家賃は高かったけど、1からお店を作るのはリスクが高い。初期投資が少なく、資金を多く借り入れずに済むことがメリットだったのでそこに決めました。だから目白を選んだ理由は特にないんです。
 

 
——これまでの10年、店舗運営をしてきて、浮き沈みはありましたか。
 
森村:最初の数年間はがむしゃらにやって、だんだん売り上げも上がり、安定して余裕が出てきて結婚などもしました。でも余裕が出過ぎて、美容師の仕事への向き合い方が甘くなっていた時期があったのは確かです。
 
コロナ禍の少し前くらいから、スタッフの求人をかけても応募が来ないことに気がつきました。うちは美容師は5名が一番安定しているんですけど、先日1人故郷に帰って、もう1人も独立したので新しい美容師を募集しましたが、1年半経っても何にも動きませんでした。
 
これはいけないと思い、最近の美容学校事情を調べると、美容師のなり手が減っているんですね。
それとお店の立地も関係しているようで、例えば池袋や渋谷や吉祥寺にある美容室だと、場所がブランドなので働きたい人はいるけど、目白は都内でもローカルなので少し違います。
若い美容師さんたちはSNSで輝いている感じの美容室で働きたいでしょうし。求人には費用がかかるので、若い人たちが応募してくれる店づくりをしないといけません。
 
——経営が順調だった店舗を敢えて移転したのは、何か理由があったのですか。
 
森村:移転した理由は、新しいお店だったらスタッフが来てくれるかもしれないことと、メインの目白通りから1本入った立地なので家賃が抑えられること、出てきた物件が広かったことなどがありました。10年間やってきて、自分の思い通りの店を作りたいという気持ちもありましたね。幸い、新しいスタッフも決まりつつあります。
 

 
1席とか2席の小規模の美容室の方が家賃も安いし、僕1人でできるので売り上げが立つから間違いなく食いっぱぐれないんですけど、少しさみしいし、こじんまりしてると圧迫感もある。だから今の5席くらいの規模感でやっていきたかった。
 
お金と労力を使って新規移転をしましたが、精神的にキツい時期もありました。情緒が不安定になって「やめた方がいいんじゃないか」「でももう後には引けない」とか、様々な感情が起きました。
 
そんな時に、同じ群馬出身のお客さんが常に気にかけてくれるんですね。「頑張ってね」と声をかけて下さる、そういう形で助けられていました。店を作りながら思ったことは、お客さんがいて、スタッフがいて、みんながいて僕が生かされていること。感謝しかないです。
 
 

変化したい気持ちは否定しない。ヘアスタイルの再現性を追求する


——お客さんの髪を見る上で大事にしていることはなんですか?
 
森村:初めてきたお客さんだったら、まずはその人を知ることです。
いつも行っている美容室と同じ施術だったら何の変化もないですよね。「またこの美容室に行きたい」と思ってもらえるように、行った後にいい変化が起きるように施術することを心がけています。
 
——施術をする時に、髪質とか、髪型など、特に考えていることはありますか?
 
森村:そもそも髪って、細い太い、量が多い少ない、生えぐせが強い弱いとか、いろいろあります。その上に骨格とか、頭の形が関係してくるから十人十色なんですね。
 
全部が直毛の人って日本人だと10%しかいなくて、ほとんどの人が髪に何らかのくせがあります。髪にはホルモンバランスや、加齢など、いろんなことが関係してきます。髪質ってその人自身でもあるので、そう簡単には変わらないです。
 
美容師がブローとかアイロンで仕上げたものを自分で毎日再現するのは難しいです。その人が家に帰って髪を洗った後に再現した時に楽である、手入れしやすい、決まる髪型であるのがベストだと思うんです。髪質というよりも、髪型の再現性にフォーカスするほうが現実的ですね。
 

 
——美容師さんが提案してくれて違う自分を発見できたら、いいですよね。
 
ただ、何でも提案すればいいという訳でもないです。
顔の見え方や、目の大きさも左右で違うし、いきなり変化をつけると人間って慣れないですよね。まずは自分の知らない部分を知ってもらうために「ここはこうですね」と知らせるけど、大きくは変えない。僕は長い視点で考えていて、来てくださったその時だけよければいいという感覚ではなく、通うたびによくなるようにと考えています。
 
僕の場合は常連のお客さんが多いけど、「いつもと同じでいいですか?」じゃなくて「何か変えたいところはありますか?」って、こちらから振ってあげるようにしています。
 
毎回全く同じヘアスタイルじゃなくて、たまに変えると気分がすごく変わることがありますよね。変化がなくて満足する人もいるけど、たまに変化が欲しい人もいる。変化を求めているお客さんには僕は極力添うようにしてます。「変化したい」という希望を否定してはいけないと思うんですね。
 
 

生き残りをかけて取り組むこと。他の美容室との差別化を図れ!


——リピーターを作るためのコツを詳しく教えてください。
 
森村:僕はよく毛流れや、つむじや、分け目の話をするんですけど、お客さんは「美容師さんからそんな説明をされたことがない」って言います。「この辺はいつも髪の収まりが悪い」って自分ではわかっているじゃないですか。お客さんが言う前にそれを察知して、その人の髪のことをこちらが理解しておく。「ここってこうですよね」と言うと「この人わかってるんだな」って思ってもらえます。
 
ただ単に「分け目どこですか? じゃあそこで切りましょう」だけじゃ何の特徴もない施術です。美容師って自分のマーキングをしたいんですよね。だって初めて来た美容室で、何か印象を残さないと次に来てもらえないでしょう? リピートしていただくためには、他の美容師と差をつけないといけないんです。言われたことだけやってたんじゃ指名につながらない、どういうふうに印象を残すかを常に考えています。
 
あとは基本かもしれませんけど、気遣いとか、気配りでしょうか。自分のお客さんの相手をしていても美容室全体のことも見ています。誰かが何かを訴えようとしているときにすぐ気がつくことを心がけています。
 
美容室って毎年何万軒とできて何万軒と潰れていきます。そこで残っていくためには差別化しかない。生き抜くためには同じことをやっていてはいけないのです。
 

 
——スタッフさんにも、同じことをしてくださいとお願いするんですか?
 
森村:僕から基本的には言いません。その人の個性とかスタイルもあるので。
新しく入った人の接客や仕事ぶりを見て改善が必要なら、注意ではなく「こうしたらいいんじゃない?」とアドバイスすることはありますが、もし受け入れられなくても、その人に指名や固定客がついてくれた方がいいので、必要なことは助言します。
 
美容室をやる上で自分はプレイヤーだけど、人と一緒に店をやっていく以上は自分がやっていくことプラスアルファのチームワークも大事ですからね。
 
——森村さんにとって美容師はどんな仕事ですか。ご自身では天職だと思っていますか。
 
森村:美容師は、人対人のかなり繊細な職業です。向き不向きもあるし、器用不器用も結構大事。でも努力でなんとかなることもあると思います。
 

 
美容学校に200人入ったとして、2年経って卒業時に国家試験を受け、190人くらいは資格を取れて就職はする。でも1年以内にその半分くらいが辞める。そこから10年経って続けているのはその1割です。そういう世界です。自分にとって、合うか合わないか、早めに区切りをつけちゃう人も多い。
 
そういう意味では自分は人と接するのが好きなことと、ある程度器用だったから人よりも向いていたのかなと思います。だから今でも続けていられる。美容師の仕事は好きですし、今も移転を迎えてまた燃えてきています。
 
店も作ったし、家も建てたし、もう人生でこれ以上大きい買い物はないでしょう。新店舗は1から作っていて前のお店とは愛着も全然違います。リスタートですね。仕事にも気合が入ってきています。これからも「選ばれる美容室づくり」を常に考えていきたいです。
 
 
<編集後記>
無我夢中で走ってきた美容師の道のりを振り返って、いつの間にか実績を積み上げていた森村さんのお話を伺うと、美容室が生き残る秘訣は極めてシンプルなことがよくわかります。顧客の髪にとことん向き合うこと、そして信頼を築くこと、そしてそれがひいては他との差別化に繋がるということは、他の事例にも十分参考になるお話でした。
 
 
 
 
(撮影・文 河瀬佳代子)

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)

2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul 、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/  連載中。

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2023-02-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.205

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