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週刊READING LIFE vol.205

「手軽に摂り入れられる発酵食のヒミツ、お届けします!」“麹愛”溢れる発酵食インストラクターが伝える発酵食の魅力《週刊READING LIFE Vol.205 私だけのカリスマ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/2/20/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

土鍋の蓋が開いた瞬間、「わあー!」と参加者の感嘆の声が響く。湯気とともに現れたのは、イワシ缶と舞茸の炊き込みご飯だ。味付けは、手作りの味噌とイワシ缶の煮汁にお酒だけというシンプルなものだが、一口頬張れば優しい旨味がじんわりと体に沁みてくる。
 
これは、福岡県久留米市の発酵食教室「麹と暮らしHARU」さんでの、味噌作りワークショップの一コマだ。味噌作りが終わった後に提供された発酵食ランチは、炊き込みご飯だけでなく、麹をふんだんに使った料理が色鮮やかに盛り付けられていて、その美しさに思わずため息が出てしまった。
 
「発酵食をもっと身近なものにしたい」と教室を主宰するのは、発酵食インストラクター・発酵食品ソムリエの寺﨑瑛子さんだ。現在では、味噌作りや味噌玉(出汁入りの丸めた味噌にお湯を注ぐだけで味噌汁ができるもの)作り、麹などの発酵調味料のワークショップを定期的に開催している。
 
昨年の4月から始めたというワークショップは、募集後すぐに満席になる盛況ぶりで、福岡だけでなく隣県からも参加者が詰めかける。イベントに出店して、寺崎さん手作りの麹を使った生甘酒や味噌玉を販売すれば、あっという間に行列ができて完売してしまうほどの人気なのだ。
 
結婚して以来20年以上専業主婦だったという寺﨑さんは、まさか自分が人前で発酵食を伝える活動を始めるとは夢にも思っていなかったという。そんな寺﨑さんの、発酵食を伝える「場づくり」に込めた想いを伺った。

 

(湯気までご馳走! 出来立てほやほやの炊き込みご飯)

(麹を使った彩り鮮やかな発酵食ランチ)

 
 

簡単にできる発酵食を、もっと身近に


--味噌作りのワークショップに参加して、あまりに簡単に味噌を仕込むことができて驚きました。発酵食づくりというと、なんだか敷居が高いように思っていましたが、案外簡単にできるなと思いました。
 
寺﨑:そうなんです。簡単でびっくりしますよね。皆さん発酵食は体に良いものだと思っているけれど、どうやって摂ったらいいかわからないという声が、想像以上に多いんです。でも実際にやってみると、あまりの簡単さに拍子抜けして、「これ、家でもできますね」と言われるんですよね。
 
味噌作りは思っている以上に簡単だし、調味料として麹を料理に使うと簡単に旨味が増すので、忙しい方にこそ使ってほしいと思っています。味噌作り、あまり時間かからないじゃないですか(笑)。塩麹やたまねぎ麹も、簡単に作ることができるんです。なので、実際に麹を使った料理を食べてもらいたくて、ワークショップの後に発酵食ランチを参加者にお出しするようになりました。
 
--発酵食ランチ、すごくおいしかったです。炊き込みご飯はもちろんのこと、サラダには麹を使ったドレッシング、麹で下味をつけたチキン、カブの甘麹漬け、味噌玉のお味噌汁、そしてお手製の生甘酒! 麴以外の調味料は必要最小限なのに、旨味がぐっと引き出されている感じがしました。
 
寺﨑:ありがとうございます。「こうやったら美味しいのよ」と口で言うより、食べてもらったほうが実感できると思って発酵食ランチを始めました。「百聞は一見に如かず」ではないですが、実際に体験してもらったほうが伝わりやすいと思ったんです。イメージが湧かないから、難しいと思っているようなところってありますよね。
 
--発酵食の良さを伝えるための工夫、ということですね。そういえば、寺﨑さんの味噌玉は、お菓子みたいな見た目がとても可愛らしくて惹かれるのですが、それも「味わってみたい」と思わせる工夫なのでしょうか?
 
寺﨑:味噌玉を作り始めたきっかけは、実は一人暮らしの娘のためだったんです。一人分のお味噌汁ってなかなか作らないんですよね。そこで、味噌玉にして送ってあげようと、出汁や家にあった乾物などを入れて、それを一個ずつラップに包んで送ったんです。ちょうどそのとき味噌作りのワークショップをやっていたので、味噌玉づくりもやってみたら面白いのではないかと思ったのが始まりでした。
 
--ただの味噌玉とは違う感じですよね。味噌玉の具がカラフルで楽しくて、すごく目を惹きます。
 
寺﨑:せっかくならば、トッピングの野菜を自宅で乾燥させて、いろんな種類を作ってみようと思ったんです。フードドライヤーを持っていましたので、それで乾燥することが可能な野菜をいろいろと試してみました。人参は生で食べられますけど、一回湯通しをしたほうがオレンジの発色がきれいなんです。レンコンなどの根菜も茹でてから、フードドライヤーにかけます。トマトなんかは、オーブンで焼いてドライトマトにするとおいしくなりますよね。トッピングをいろいろ作る段階が、ちょっと手間がかかりますけど。
 

(ワークショップで参加者が作った味噌玉)

 
--「せっかくならば」という域を超えている気がします。体にも優しい料理をおいしく作ろうとする、寺﨑さんの並々ならぬ愛情を感じますね。昔から、食に対するこだわりはあったのですか?
 
寺﨑:私の母が味噌やぬか漬けをずっと作っていましたから、幼い頃から自然と発酵食を食べていたんです。結婚して、いつも身近にあったものが食べられないと恋しくなって、自分でも作ってみようと思い立ちました。それで、味噌を作られていた近所の方に教えてもらったやり方と、母の作り方を混ぜた感じで自家製味噌を作るようになりました。
 
毎年秋と冬になると、うちに友達が集まって一緒に味噌作りをするんです。一人でやるよりも、みんなでワイワイしながら作ったほうが楽しいし、次第に年間行事のように毎年味噌を仕込むことになったんですね。麹と大豆、塩の三つだけで簡単にできますから。いろんな塩や麹、大豆を試してみて、友達の意見も聞きながら味噌の味を改良し続けてきました。
 
発酵食を昔から食べてきているので、こうやったらおいしくなるとか、腐ってしまうとかいうのは経験的にはわかっていました。ただ感覚としては掴んでいるんですけど、きちんとした知識としては身についていなかったので、しっかり勉強したいと思ったのがここ10年くらいです。どうして麹を入れたらお肉が柔らかくなるのか、おいしくなるのか。どうしてそうなるかを知りたいと思って、独学で勉強したり講座に通ったりして資格を取得するなど学びを深めていきました。
 
 

発酵食を通じて、一番伝えたかったこととは?


--やはり、やるとなったら研究熱心な寺﨑さんの本領発揮ですね。勉強してみて、何か新たに感じたことはありますか?
 
寺﨑:腸内環境を整える「腸活」が最近注目されていますよね。一番の驚きは、幼児期の腸内環境が、大人になっても健康状態を左右する可能性があると知ったことでした。
 
腸内フローラという言葉をご存じでしょうか? 腸内細菌は1000種類ほどありますが、それが腸の中に100兆個存在して、種類別に腸の中に住んでいるんですね。それがお花畑のように見えるから、腸内フローラと言うのです。
 
--色んな腸内細菌のお花畑ということですね?
 
寺﨑:はい。赤ちゃんは無菌状態でお腹の中にいて、産道を通る時にお母さんの体内に住み着いている腸内細菌をもらって生まれてくるんですね。お母さんから赤ちゃんへの「初めてのプレセント」といったところでしょうか。そして外に出ていろんなものを触ったり、食べ物の種類が増えたりしていくことで、様々な菌が体の中に入っていき腸内フローラが出来上がっていきます。
 
その勢力図が、だいたい3歳から5歳までに出来上がると言われています。それが変わることなく生涯付き合っていくことになると考えられているのです。
 
--すでに、大人は腸内環境が固定されていると。では、大人になったら、腸内環境を変えることは間に合わないということですか?
 
寺﨑:腸内フローラのパターンというのは千差万別で、その人に合ったものができますので、自分自身の腸内フローラのバランスを保つことが健康の秘訣となってきます。確かに大人になると環境は変更しにくいけれども、その人に合ったバランスを整えて健康に暮らすための腸活というのは必要だと思っています。そのためには、善玉菌を増やす発酵食がお役に立てるのではと考えています。
 
大人は、自分で考えて食べるものを取捨選択できますよね。けれど子どもの場合、そうはいきません。5歳くらいまでにその子が一生付き合うことになる腸内フローラの勢力図が決まってきますが、逆を言えば、そのくらいまでは腸内環境の軌道修正が可能なのです。
 
特にこれから子供を産む方や、幼児期の子どもさんを持つお父さん、お母さんにこの大切なことを伝えたいと強く思うようになって、自分が学ぶだけでアウトプットをしたことのない私が発酵食のワークショップを始めることにしました。
 
 

自分らしく、発酵食の魅力を伝えていきたい


--強い想いで、発酵食を伝えようと決心されたんですね。経験と知識に裏打ちされた寺﨑さんのお話を実際にワークショップで伺っていると、もう何十年も伝え続けてこられた方だとばかり思っていました。「麹愛」に溢れていて、とても惹きつけられたんですよ。でも、実際に伝える活動を始められたのは、昨年の4月からと聞いて驚きました。
 
寺﨑:そうなんです。それまでは専業主婦で、自らの発信といえば、日記代わりに娘に作ったお弁当の写真をインスタグラムに上げるくらいでした。友人のアトリエで、味噌のワークショップをしないかというお誘いを受けたのが、きっかけだったんです。友達以外に味噌作りを教えることが初めてだったので、最初はすごく緊張しました。ワークショップ運営の「イロハ」がわからず、参加者を募ってくれたのもその友人で、本当にすっかりお世話になりました。
 
--それからが快進撃ですよね。ワークショップもすぐに満席なりますし。この間のイベントにお邪魔したときには、味噌玉が開始時間30分も経たないうちに完売でした。私も何とか購入できたのですが、列に並んでいる間、買えるどうかハラハラしていました。
 
寺﨑:ありがたいことに、ワークショップを何度も受講してくださる方もいますし、紹介の輪が広がって、知っていただく機会が増えている実感はあります。先日も地元の道の駅から、甘酒や味噌玉を店内で取り扱いたいという打診をいただきました。人気の道の駅なので、ご連絡をもらってすごくうれしかったです。
 
--甘酒や味噌玉は、出店されているところでしか買えないのですか?
 
寺﨑:実は最近オンライン販売を始めたところです。出来上がったものを販売するのはもちろんなのですが、できれば味噌玉キットみたいなものを出せたらいいなと思っています。ワークショップにはお子さん連れの参加者もいらっしゃるんですけど、結構お子さんが味噌玉づくりを喜んでくださるので、親子で一緒に作ってもらえたらうれしいですね。
 
--親子で、自宅で手軽に味噌玉づくり! 自分で作ったものは愛着が湧きますし、何だか食育にもよさそうです。
 
寺﨑:先日のワークショップに、赤ちゃんを抱っこひもで抱えたお母さんが、2歳の男の子を連れて参加していたんです。その男の子はコロナ禍の中で生まれていて、お母さんとしてはいろんなものに触れさせて育てたかったけれど、なかなかそれが難しい状況だったせいか、息子さんが砂場に行っても泥団子作りなどを避けるのが悩みだったそうなんです。
 
でも「思い切り味噌をこねていいよ」とお母さんに言われて、男の子がすごく楽しそうだったのが印象的でした。キラキラした瞳を見て、こんな場をもっと広げていきたいと思いましたね。だから、お子さん連れでの参加はもう大歓迎です!
 

(親子で一緒に楽しい味噌作り)

 
--まさかこの歳になって、自分で活動を始めるなんて思いもしなかったと言われていましたが、とてもイキイキとされている姿が、同年代の者として励みになります。
 
寺﨑:実際始めてみると、全然知らない方達と出会ってお話しすることで、自分が知らなかった世界がぐんぐん広がっています。この年齢からでもチャレンジができるのだと、再認識しました。
 
活動の内容は、私が今までやってきたことを伝えているに過ぎません。味噌を作って、冷蔵庫に常備している自家製の塩麹やたまねぎ麹を使って、それらを活かしたご飯を作っているだけなんです。なので、ワークショップも私の日常だったことを延長している感覚です。けれど、それを伝えることで嬉しい反応をたくさん頂けることが励みになって、ますます頑張ろうという気持ちになります。たくさんの方々に支えていただき、そして多くの素晴らしい出会いに、心から感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 
<編集後記>
穏やかな物腰の中にも真摯に発酵食に向き合ってきたことがうかがえる寺﨑さんのお話は、これからも多くの人に発酵食の魅力を気づかせてくれることでしょう。「発酵食弁当も提供したいと考えているので、この間、許可のお話を保健所に聞きに行きました」と、さらにバージョンアップしていく寺崎さんの今後の活動が楽しみでなりません。
 
 
<寺崎さんの活動は、こちらから!>
https://www.instagram.com/kouji_to_kurashi/
https://lit.link/koujitokurashiharu
 
 
(写真提供:麹と暮らしHARU)

□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)

福岡県在住。
2020年5月天狼院書店ライティング・ゼミ受講。同年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。2021年2月天狼院書店「READING LIFE編集部」公認ライター。「WEB READING LIFE」にて、「400年の歴史を持つ陶磁器の町で、ドイツ人の妻と熊本出身の夫が伝える波佐見焼物語」http://tenro-in.com/category/kyusyulocal01/ 連載。

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2023-02-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.205

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