週刊READING LIFE vol.206

ペットボトルロケット〇本で人は飛ぶ《週刊READING LIFE Vol.206 面白い雑学》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/2/27/公開
記事:山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2003年7月2日、この日は私にとっての歴史の転換点であった。もうすぐ勤続20年を迎える今の職場での記念すべき初日である。三島の印刷工場に配属されてから配置転換を繰り返しながらも同じ場所で20年の時が過ぎようとしている。
新しい職場のスタートだけではなく、24歳まで親元で生活していた私にとって初めての一人暮らしのスタートである。就職のために地方の全く知らない土地での生活のスタートだった。
 
私のキャリアのスタートはチラシ・DMなどの商用印刷物の梱包作業であり、全然知らない同僚に手取り足取りで教えてもらいながらの作業は新鮮だった。しかし、大学を出たばかりの私は知らないうちに疲れが溜まっていた。
 
仕事が終わり社員寮に戻ってからは、コンビニで夕食を済ませ、すぐにでも寝てしまいそうなぐらいボーっとしながらテレビをつけていた。
 
布団で横になりながら寝ぼけていると、淡々としたナレーションを耳にした。
 
「両国国技館の地下に焼き鳥工場がある」

 

 

 

両国国技館はもちろん大相撲の舞台であり、数えきれないほどの名勝負を目にしている。中学生ぐらいの若貴ブームの時には、家族で両国国技館に足を運んだこともある。普通の観客席でも楽しめたはずだが、親父が奮発して升席をとってくれていた。おそらく、千秋楽か14日目で貴乃花が見事に優勝を勝ち取ったのを見た記憶もある。若貴ブームであり大相撲の人気は絶大でありこの日も多くの客が訪れていたのを覚えている。升席だとかなり豪華なお弁当やお土産をいただいていた。あの時の焼き鳥は絶品であり、それを目当てに領国近くを訪れる人もいるという。
 
そんな思い出深い国技館に焼き鳥工場がある?
 
そんな馬鹿な。唐突なナレーションに目が点になり一瞬で目が覚めた。布団で寝転がっていたけど、気が付けば布団を片付けテレビの前で正座していた。
 
テレビの向こう側のスタジオも妙なテンションに包まれていた。
 
「へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ、へぇ」
 
笑い声や驚きの声に交じりながらも何とも無機質な「へぇ」が絶え間なく鳴り響いている。
 
国技館の地下に焼き鳥工場があるということは信じられないが、不覚にもその言葉にロマンを感じる。家族で相撲を楽しんでいる間に知らないところで、焼き鳥工場が動いているのは十分すぎるぐらい面白い。
 
「実際に行ってみた」
 
確かに地下に降りたところで白衣を着ている多くの人が焼き鳥を箱詰めにしている光景が移った。あの時に食べた思い出の焼き鳥もある。升席で食べていたあの焼き鳥も、まさか土俵の下で作られていたとは思わなかった。
 
思わず「へえ」と何度もつぶやきながら、床をバンバンとたたいていた。
 
こんな感じで始まった番組はフジテレビ系列の「トリビアの泉」だ。記念すべき日に偶然にもトリビアの泉が深夜放送から水曜日の21時からのゴールデンタイムに昇格し、タモリ氏を迎えて華々しくスタートを切った。バラエティー番組は過去に何度も見てきたけど、20年経った今でも生々しく覚えており、あれから水曜日の21時からは「トリビアの泉」を視聴することが習慣となり、どんなに疲れていても必ず視聴していた。

 

 

 

「トリビア」という言葉はこの番組の影響もあり、今ではすっかり市民権を得たが、当時は言葉の意味すら浸透していなかった。この番組のキラーフレーズでもあるように「人生において何の意味も見出さない無駄な知識」というのがトリビアの意味である。
 
「両国国技館の地下に焼き鳥工場」があることは、はっきり言ってどうでもよい知識なのは間違いがない。当時なら仕事のやり方はもちろんのこと、同僚の顔と名前、さらには知らない土地に何があるのかといった、すぐにでも覚えなくてはならないことが山のようにあった。両国国技館の焼き鳥工場なんかどうでもよいことの最たるものだ。
 
しかし、両国国技館の地下に何かがあるという設定は凄くワクワクする。例えば、大相撲の千秋楽で武蔵丸と貴乃花の大一番に多くの観客たちが熱狂している裏で、世界を裏で牛耳る秘密結社が土俵の下で暗躍しているとなるとなぜだか心が躍る。
 
そんなことは、フィクションや都市伝説だと思っていたら、実際に焼き鳥工場として活動されていることに驚きを隠せずにいて、番組と共に今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

トリビアの泉はこんな感じで「人生において全く役に立たない無駄知識」を次々と繰り出してくる。
「ニャーと鳴く蛙がいる」
「何をしても死なない虫がいる」
「時報の音声ガイダンスの声は中島啓子さんという人の声である」
といったように、突然言われるとびっくりするナレーションで次々と紹介される。
 
一つ一つの紹介と証拠となるVTRは1本あたり5分程度と、割と淡白に紹介されている。「実際に行ってみた」とか「実際に話を聞いてみた」のナレーションの後に、現地に行くとか大学にいる専門家にインタビューするなどして、知識を肉付けしていく具合だ。
 
その時聞いたときには「へえ」と共に驚きを持って知ることになるが、一晩寝るとすっかり忘れてしまうぐらいの無駄な知識でもある。
 
毎週、10本ぐらいのトリビアを淡々としたナレーションと共に紹介されているが、思わず声を出して笑ってしまったのが「シブがき隊の石像が沖縄の無人島にある」話だ。
 
シブがき隊は、モッくん、ヤッくん、フッくんの3人からなるSMAPや光GENJI以前に活躍していたジャニーズの男性グループだ。代表曲に「すしくいねぇ」とか「NAI・NAI16」といったものがあり、子供のころからよく聞いていた記憶がある。
 
そんな大人気グループのシブがき隊が1988年に解散する際の記念として、沖縄の慶良間諸島にシブがき隊の石像が寄贈されたという。
 
「実際に聞いてみた」のナレーションの後に、フッくんこと布川敏和さんのインタビューで、実際に石像を作ってもらってえらく感激し、シブがき隊が解散したとしても3人がそれぞれ変わりなく活躍し続けることを約束し、その言葉通り、布川さんはもちろん、本木雅弘さんや薬丸裕英さんの活躍を何度となく見聞きしている。
 
布川さんから寄贈された石像をVTR越しに見せていただくと、3人の胸像が力強く映し出されており、3人の手のひらを合わせることで、そのあとの活躍を予感している気がした。
 
「実際に行ってみた」
 
こうして、シブがき隊の解散から15年の時を経て慶良間諸島の石像との対面となった。運命の瞬間、コマ送りのように慶良間諸島の写真や、かつてのシブがき隊の写真、そして15年前の3人の胸像が次々と映し出される。
 
「!!!!」
 
その場に映し出されていた石像は無残にも3体とも胴体から上が粉々になってしまっていた。15年という歳月は無残にも形あるものを粉々に風化させてしまったようだ。やはり、自然には敵わないのか……
 
せっかくの記念すべき胸像が無残にも顔が破壊されていたら、ショックで立ち直ることができないだろう。はるばる沖縄の無人島まで足を運んで粉々にされた自分の石像をみたら呆然と立ち尽くしてしまう気持ちもよくわかる。
 
シブがき隊の皆さんの思いとは裏腹に、私はその場で大爆笑してしまった。「へえ」ボタンを何発も叩くかの如く、床に何度も手をたたいてしまっている。
 
スタジオ内はどうだ。ナレーションの独特の間の後に出演者は一様に大爆笑の渦に包まれ、おびただしい数の「へえ」の声がスタジオ内に充満していた。
 
他のいくつものトリビアでも終止このような感じで、出演者の驚きと爆笑と共に数多くの「へえ」が充満して、初回25%を超えるスタートとなり当時の人気番組となった。

 

 

 

トリビアの泉は数多くの無駄知識を抑揚のないナレーションと共に紹介しては、みんなで「へえ」と感心しながらも驚きあり笑いありの1時間となっていた。
 
その他の目玉となるコーナーは「トリビアの種」である。
 
メインコーナーは視聴者から送られた「実際にある」トリビアであるが、「トリビアの種」は特に取り上げるまでもないのだが、調べてみるとどうなるのだろうという疑問に答えるべく実験企画である。
 
「ペットボトルロケット〇本で人は飛ぶ」
 
ペットボトルロケットというのは、水が入ったペットボトルに空気入れのようなもので空気をいれると、水に圧力がかかってペットボトルがロケットのように噴射して空高く飛んでいくというものだ。
私が初めて見たのが高校の文化祭で、化学部か何かが唐突にペットボトルで遊んでいたのを目にした。何をやっているのか皆目見当がつかなかったが、それなりの人だかりができていたので友人と共に足を止めて成り行きを見ていた。たかだか2ℓのペットボトルということで子供のおもちゃと思っていたが、思いのほか勢いよく打ちあがって建物の屋上まで届いてしまった。高校の校舎は4階建てだったので少なく見積もっても10メートルはあるはずだ。ホントにロケットさながらの勢いで4階建ての屋上に打ちあがってしまったのにびっくりしている記憶がよみがえった。
 
とはいえ、普段から目にしている2ℓのペットボトルだろ。そんなもんで人を飛ばせるわけがないだろと、やっぱり馬鹿にしながらVTRを見ていた。
 
どうやって検証するのか? 実際にやってみた。
 
1本のペットボトルを体重60kg程度の小柄なスタッフの体にペットボトルを体に巻き付けてやってみた。当たり前だが飛ぶわけがない。
 
1本、2本、3本、10本と次々と数を増やしてもやはり飛ぶことはない。
 
20本目に差し掛かるときにJAXAのロケットの研究者が突然現れた。ロケットを打ち上げるには「ガイド」を取り付けて、まっすぐ飛ぶようにしないといけない。
 
JAXAの研究者の監修のもと、ペットボトルの数を30本、40本、50本と徐々に数を増やそうとする。30本になることには装置も変更が加えられ、スタッフに巻き付けられていたペットボトルを60キロ相当の物体に巻き付けられるようになった。
 
そして100本のペットボトルが用意されたとき、JAXAの研究員の監修のもと本物さながらのロケット発射台が用意され、ペットボトルの上には椅子に座ったスタッフがいる。
 
「100本目」画面がスローモーションとなる。
 
「3、2、1、発射!!」
 
轟音と共にスタッフを乗せた椅子は見事に浮き上がった。テレビで観る限りでは2メートルほどの高さだったが、確かに浮き上がっている。
 
これは紛れもなく「飛んだ」と呼んでもいいだろう。
 
この結果、「ペットボトルロケット100本で人を飛ばすことができる」という新たなるトリビアが生まれた。

 

 

 

ペットボトルロケットというものは、実際に取り扱っている人を目の当たりにするといったきっかけがないと考えることはまずないだろう。それでも市販のペットボトルが校舎の屋上に到達するぐらい空高く勢いよく飛んでいく光景を見れば感動すら覚える。
 
残念ながらペットボトルロケットを見ても、「思った以上に飛ぶもんだなあ」と驚いた以上のものは無く、「トリビア」として頭の片隅に眠ったままだった。
 
しかしながら、ペットボトルロケットに魅せられて最高でどのくらい飛ぶのかを研究した人もいるという。ネットで見た限りでは条件さえ整えば60mほど上空に飛ぶらしい。テレビの企画とはいえ、ペットボトルロケットをたくさん用意すれば人間も飛ぶことはできるのではと発想する人もいた。
 
それを「トリビアの種」は大まじめに検証して、ペットボトル100本で人を飛ばすことができるというトリビアを手に入れることができた。
 
多くの人にとっては「人生に全く役に立たない無駄知識」と片づけられるが、一つのことに興味関心を持つことができれば、決して無駄知識にはならず、人生を変える大きな知識になるのかもしれない。
 
バカバカしくとも研究者のようにペットボトルロケットに愚直に向き合えば、新たな発見もあるだろう。
それが今すぐ必要にならない知識ではなくても、思わず「へえ」と呼べるような知識を人に自慢したり話のタネにするだけでも大きな意義を持つことができるのではないだろうか。
 
無駄知識もいつかまた無駄ではなくなる時が来るだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2018年よりインスタグラムをはじめて5年、ゲームと平成レトロを中心とした投稿でフォロワー1000人の方に集まっていただき、最大で250件の「いいね」を頂いた。もっと読んでもらえる文章を求めて2021年夏天狼院ライティングゼミの門をたたく。
2022年1月よりライターズ倶楽部参戦するもあまりのレベルの高さに騒然とし、ライティングゼミNEOでライティングを鍛えなおす。同年10月よりライターズ倶楽部復帰
2023年よりライティングパスポートを購入し、メディアグランプリ優勝を狙う
さらに多くの方にインスタを見ていただくべく、4月より「発信力養成ラボ」に参画する

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2023-02-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.206

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