私だけに見える昼間の黒い星空《週刊READING LIFE Vol.218 星空》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/6/6/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「そうか、そうだよね、歳を重ねてゆくって、こういうことなのね……」
ちょうど2カ月ほど前のことだった。
夜、自転車で出かけようとした時、右目の端に白い光が走ったのだ。
「えっ、何、何?今のは」
そんなことは、初めてのことだったので、かなり慌てたのを覚えている。
最初は、道路の右側の方でライトか何かがピカッと光ったのかと疑ってみた。
でも、その白い光はその後、何度か光を放ち、それは自転車で走っている私の常に右側で起こったのだった。
間違いなく、私の右目の中で起こっていることだった。
何度、目を凝らしてみてもその後も光っていた。
そんなこと、初めての経験なので、相当びっくりして帰ってすぐに調べてみた。
それは、光視症というものだった。
目の中の硝子体(しょうしたい)が網膜を刺激することで生じる症状だった。
それと同時に、日中には目の中を黒い小さなモノが飛ぶのが気になって来た。
こちらは、飛蚊症(ひぶんしょう)というもので、同じく硝子体の問題から起こる症状のようだ。
ただ、調べた内容では、光視症と飛蚊症は加齢と共に起こる現象でもあるけれど、特にそれらが同時に起こる場合は、別の原因の場合もあって、そちらだとしたら治療の必要があるとのことだったので、眼科の検診を進めているサイトが多かった。
私はまさにそれらが同時に起こった事例だったので、すぐに受診した
すると、やはり治療をすることを勧められた。
治療といっても、外来で出来るレーザーをあてる施術だった。
痛みもなにもなく、施術自体は10分もかからないものだった。
ただ3週間ほど激しい運動を控えるくらいで、あとは普段通りの生活ができるということだった。
症状が出て、すぐに治療も受けられて、不安はすぐに解消できて良かった。
経過は順調で、光が射す方の症状は減少したが、黒い小さなモノが跳ぶのはあまり変わらないという、最初に医師から言われた通りの結果だったので、それはそれで納得した。
そういえば、昨年には身体のある部分にできものが出来て、放置していてもほぼ大丈夫だろうということだったが、ガン化する可能性は0ではないと言われ、それならばその原因を取り除きたいと思い、手術を受けた。
さらには、股関節の調子もここ数年思わしくなくなってきていて、還暦を迎える今年はそういった身体の変化をひしひしと感じている。
歳を重ねるということは、このように身体の不調が次々と訪れてくるということなのかと、悪い方をフォーカスしてゆくと、いくらでも暗い気持ち満載にはなれる。
ただ、私は、そっちの世界では生きてゆきたくないと思っている。
でもよく考えると、人生の中ではつらつとしていて、少々の無理もできるのが、そもそもほんの短い時間だけなのかもしれない。
だから、若い時に存分に何かをしておこう、だって、すぐに出来ない時代がやってくるよ、というようなつもりはさらさらない。
人生を俯瞰してみると、身体だけでなく様々な困難に向き合いながら、それを乗り越えて進んでゆくものなのなのだろう。
だったら、今街を歩いている人の多くが、脚や腰に痛みがあったり、歯周病の治療をしていたり、何かしら自分の身体と向き合っているのかもしれない。
機械ではないので、ずっと同じで、何でも出来てというわけにはいかないのだ。
命あるものだけではなく、何だって経年劣化してゆくのが自然なことなのだ。
それを嘆いていては、人生を全うするという大きな目標から外れてしまうように思うのだ。
だって、そもそも人生は、そのような道のりを歩いてゆくことなのだろうから。
そう思うと、今の自分の身体の変化に気づいてあげて、必要ならば治療をして、良い関係を保ち、長くお付き合いをしてゆきたいと思う。
それにしても、あの日、私の目の中で光が差し、黒いモノが飛び交うようになってから、真昼でも、その黒いモノは活発に私の目の中で動いている。
原因もわかり、出来る治療も受けた。
それでも、これまでの人生にはなかったことが起こっていて、それは年齢を重ねたことだと頭ではわかっていても、やっぱり時にはため息が出そうになる。
時々顔をのぞかせる、私の正直な思いと折り合いをつけながら、それでも一歩ずつ前に進んでゆくしかないな、と気持ちを締めくくっている。
そんな思いが続く日々の中、ある時ふと思い出したことがあった。
毎日、黒い小さなモノを見ていたからかもしれないが、遠い昔、小学生の頃の校外学習で、田舎の村で生活をした日のこと。
何もない静かな村だが、空気が澄んでいて、特に夜には降るような星が現れるのだ。
息をのむような美しい星空だった。
なぜか、あの日のキラキラ輝く星空が頭に浮かんできたのだ。
そうか、今、私の目の中で起こっている現象は、まるで、漆黒の夜空に満点の星が輝くような、そんな光景にも思えてきたのだ。
そう、私は昼間でも、目を開いていると、黒い星が散りばめられた、そんな真昼の星空を観ているような状況なのかもしれないな。
飛蚊症というと、蚊が飛んでいるというような表現で、風情がないように思うが、黒い星が真昼に見える現象だと思うと、それはそれで仲良くお付き合いをしてゆこうと前向きに思えたのだ。
私は、自転車に乗っていても、美味しいパスタを食べていても、突然現れる昼間の星空とこれからも末永くお付き合いをしてゆきたいと思う。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
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