週刊READING LIFE vol.228

女性副社長から学ぶ人間力《週刊READING LIFE Vol.228『知人へのインタビュー記事』》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/8/21/公開
記事:都宮将太(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
 お忙しい中、ありがとうございます。
K氏 いえいえ、何年振りかな?
 前職を退職してからなので、約二年振りですね。
K氏 彼女はできたとね?
 それは……
K氏 早く嫁を見つけなさい!
 頑張ります(笑)
 
 
和やかな雰囲気でインタビューが始まった。
今回、私がインタビュー相手に選んだK氏は、
設立三十年以上の某不動産会社の女性副社長だ。昨年還暦を迎えたばかりだが、四十代と言っても通じる見た目をしている。K氏は実質、その会社の社長よりも決定権を握っている。
何故K氏をインタビュー相手に選んだのか。それはK氏の人間性に惹かれたからだ。年商十億円以上の会社の経営を支え、五十人を超える従業員からも全幅の信頼を得ている。三年前、社運を賭けたプロジェクトを成功させたのだが、裏で決断を下したのがK氏だった。
私は前職、営業職としてK氏を訪ね訪問していたが、その際も大変お世話になった。なん十件という大口契約を交わしてくれた。
この恩は一生ものだ。
今回の課題はインタビュー記事だったため、K氏へ事情を説明し、インタビューの時間を取ってもらった。
 
 
K氏 インタビューの相手は私なんかで良かったとね?
 もちろんです。K氏から伺った内容を、是非多くの方に見ていただきたいと思っています。
K氏 ありがとう。なんでも聞いてちょうだい。
K氏 ありがとうございます。早速ですが、前職時代から気になっていたんですけど、何故、郵便配達の方や、宅配便の方にも飲み物を出すんですか?
 
 
そうなのだ。私はずっと気になっていた。
K氏が勤務する不動産会社には、毎日多くの来客がある。
私のような営業マンや、一般顧客、たまに従業員の家族も来店していた。来客にコーヒー等の飲み物を出すのは全然不自然ではない。私も営業で様々な会社に出入りしてはコーヒーをいただいた。商談が分刻みで続いた日など、社長との商談中に我慢できずお手洗いに行ったことも、一度や二度ではない。
だが、K氏が勤務する会社は違う。葉書を配達してくれた郵便局員や、Amazonで注文した品物を届けてくれた配達員にも、飲み物を提供していた。
 
 
K氏 いつ、どこで、誰がお客様になるか分からないでしょう。今日葉書を届けてくれた郵便局員さんは、もしかしたら来月結婚する予定かもしれない。結婚に伴って新居を探している可能性だってある。新居を探すとなると不動産会社に行くけど、訪問する不動産会社の候補に、うちが入ってくれれば嬉しいでしょ。
 なるほど。そこまで考えていらっしゃるんですね?
K氏 うちみたいな零細企業は、大手と違って知名度がないからね。一工夫しないと!
 実際に契約に繋がったことはありましたか?
K氏 郵便を届けてくれた郵便局の娘さん夫婦が、うちで戸建てを買ってくれたの。
 本当ですか?
K氏 ええ。あの時は嬉しかった。契約のときお嬢さんから言われたの。父親に、「不動産会社どこか知らないか?」と聞いたところ、うちを紹介してくれたって!
 そうなんですね。それは感動的ですね。あ、そういえば、コロナ禍で緊急事態宣言発令中にマスクを入居者の方に配ったんですよね?
K氏 そうよ。よく覚えてたわね。私言ったっけ?
 従業員の方から聞きました。K氏からも聞きましたよ。入居者から届いたという直筆の手紙も見せてもらいました。
 
 
この話を初めて聞いたときは驚いた。
「私だったらできるだろうか? いや、同じことはできないだろう」そう思ったことを覚えている。
今でこそ、コロナが落ち着きつつあり、街中ではマスクを外している者も多くいる。かくいう私も、人混みや病院以外は、ノーマスクだ。
しかし、新型コロナウイルスが蔓延し、全国に初めて緊急事態宣言が発令した頃、マスクを手に入れるのも一苦労だった。
コンビニや薬局に行ってもマスクは品切れ、ネットで注文しても一ヶ月待ち。マスクが手に入らず、手作りの布マスクを着用している者も多くいた。
 
そんなマスク入手が非常に困難な中、K氏は幸運にも大量のマスクを保有していた。鼻炎がひどく、マスクを買い貯めしていたそうだ。
そんなK氏は、その大量のマスクを、まず従業員に配布した。家族がいる従業員へは、その家族の分まで配布していた。
K氏のマスク配布はそこで終わらない。
K氏が勤務する不動産会社が管理している、とあるアパートがある。そこの入居者の大半が高齢者であることをK氏が把握していたため、入居者全員にマスクを配布した。
入居者の中にはお礼の手紙を書いたり、電話でお礼を伝えてくれた方もいた。
もし、入居者が若者であれば、SNS等でかなりバズっていただろう。
マスクの入手が困難な状況で、マスクを転売する輩もいた中、一体どれだけの人が、K氏と同じ行動をとれるだろう?
 
「いやいや、K氏は自分のマスクをまず確保して、余ったマスクを従業員や入居者に配ったのでは?」
なんて意見が聞こえてきそうだ。恥ずかしながら、私も一瞬その考えが浮かんでしまった。だが、K氏が日頃着けていたマスクは、いつも手作りの布マスクだった!
 
 
K氏 あの時もらった手紙は、今も金庫に保管しているよ。
 嬉しいですし、励みになりますよね。
K氏 そういえば覚えとるね?
 何をですか?
K氏 貴方がフグを食べて吐いたことよ(笑)
 ありましたね(笑)。いやあ、本当に今でも思い出して恥ずかしくなります。本当にご迷惑をかけました。
K氏 お酒も経験よ!
 本当に申し訳ございませんでした……
 
私は深く頭を下げた。
あれはまだ、私が営業職になって間もない頃、K氏が勤務する不動産会社の担当になったときだった。
私の前任者がベテランで、まだ慣れない営業ということもあり、当時はとても緊張していた。
そんなとき、「貴方の歓迎会を開催しよう」と、K氏が言ってくれた。
私とK氏を含め、七名でフグ料理のお店に行った。
フグを食べるのは初めてで、出てくるお酒も、私がよく行っていた、二時間食べ飲み放題2,980円のようなお店では飲めないお酒ばかりだった。
調子に乗った私は、お酒とフグを交互に胃袋へ詰め込み、気づいたときには、お店のトイレの便器を抱きしめていた。
 
トイレをノックされても動けない。そんな状態だった。
外から無理やり鍵を開けられ、お店の人に抱えられた私はお店を後にした。
後日聞いた話しでは、私はお手洗いに三十分以上滞在しており、散らかったお手洗いの掃除もK氏がしてくれた。
お店の方全員に謝ってくれたのもK氏だった。
翌日、私は菓子折りをもってお詫びに行った。激怒されることを覚悟していたが、「何事も経験よ!」と、笑って許してくれた。
その優しさに、涙が出そうになった。
 
 
 あれから少しですけど、お酒には強くなりました(笑)。そろそろインタビューも終わるんですけど、最後に一個だけ聞いいてもいいですか?
K氏 ええ。一個と言わず、百個でもいいよ。
 ありがとうございます(笑)。前職で営業として訪問していた時、従業員の方に聞いたんです。K氏が従業員を叱ったと。正直、K氏が人を叱る姿が想像できなくて。
K氏 一体誰が密告したのやら(笑)。理由は聞いてないの?
 オーナーさんへのサービスの件と聞きましたが。それくらいです。
K氏 そう。知ってると思うけど、私たちの会社では不動産の売買がメインだけど、不動産の管理もしているの。
 もちろん存じてます。
K氏 とある従業員が不動産売買の売り上げが大きいために、そっちにばかり注力していたの。その気持ちは十分分かるし、それに対して叱ったわけではない。実際、その子の営業成績は良かったしね。でも、その忙しさを理由に、売り上げにならない既存のお客様から受けていた相談を、全て後回しにしていたの。
 そうなんですね!
K氏 ええ。会社が管理しているアパートのオーナーがいて、そのオーナーは何十年と取引のあるお客様なの。うちより条件の良い同業他社にも乗り換えず、うちと取引を継続してくれている。それなのに私が叱った従業員は、新規で大きな案件を優先するあまり、そのオーナーさんから、「相談があるので話し聞いてほしい」と言われても、後回しにしていて、それで叱ったの。「新規で取引額の大きな契約を優先する気持ちはよく分かるけど、既存のお客様を疎かにする会社は必ず衰退する!」と。
 そのオーナーさんとはどうなったんですか?
K氏 社長と二人で謝罪に行ったわ。
 怒ってました?
K氏 全然。むしろ、相談というのが、大きな案件を紹介してくれるっていう話しだったの。
 そうなんですか?
K氏 ええ。お金の話しをして申し訳ないけど、私が叱った従業員が手掛けていた案件よりも、はるかに大きなお金が動いたわ。まさに、灯台下暗しね!
 そんなことが実際に起こるんですね。
K氏 自慢になるけど、その時オーナーさから言われた。「貴方が何十年と変わらず親身に相談に乗ってくれるので、他社に乗り換える気は毛頭ない」って!
 
 
そうだ。K氏はいつも自分を犠牲にしてでも他人を助ける人だった。常に相手の気持ちや相手の置かれている状況を考える。そのため、相手に寄り添った相談ができるのだ。従業員、お客様、そして私。皆がK氏に惹かれるのはそんな部分かもしれない。
 
自分は二の次。いつも相手のことを思いやる。
そんな行動が意識せずにできているから、K氏は皆から愛され、そんなK氏がいるこの会社も、三十年以上存続できているのだろう。
今回のインタビューのお陰で、そんな当たり前のことを再認識することができた。
最後にK氏へお礼を伝え、深く頭を下げてインタビューを終えた。
最後、出ていく私を見送ってくれたK氏の言葉が、別れたあとも耳に残って離れなかった。
 
K氏 じゃあまたね。次来るときはお嫁さんを連れて、新居購入の契約でおいで(笑)
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
都宮将太(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡市在住。
自慢できる肩書き・出版実績・メディア掲載は一切なし。
東野圭吾さんの「ガリレオシリーズ」をキッカケに、推理小説を好きになって約六年。自分でも推理小説書きたいと思い、「このミステリーがすごい!」の大賞受賞を目標としている、ビールと本と漫画が大好きな三十歳。

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2023-08-16 | Posted in 週刊READING LIFE vol.228

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