週刊READING LIFE vol.235

なぜ22000円もするアルバム『絵馬に願ひを!』をファンは買うのか?《週刊READING LIFE Vol.235》

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2023/10/9/公開
記事:記事:村人F(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
コンサートのチケット料金が全席指定15400円。
音楽アルバムなのに22000円。
サブスクにて月額1000円以下で多くの曲が聴ける状態で、このような商品を売る姿勢は周りから見ると正気に思えないだろう。
 
しかし、それを行ったのがSound Horizonの新作『絵馬に願ひを!』だ。
大人気アニメ『進撃の巨人』の初代OPを手がけたRevoが率いるアーティスト集団である。
彼らがリリースしたのは、長年のファンですら衝撃を受ける超高額作品だった。
 
流石にSNS上でもどよめきが多く起こった。
いくらなんでも、この価格帯では成立しないだろう。
ファンも内心では、そう思っていた。
 
だが蓋を開けてみると、22000円のアルバムはオリコン週間ランキング最高5位。
超高額のコンサートも、千秋楽公演では約5000人収容の東京国際フォーラムを満員にした。
さらに観客のほとんどがリピーターという状況である。
 
いったい、なぜこのような商売を成立させられたのか。
これは金額に見合うだけの狂気があったからである。
 
本作のテーマは、タイトルの通り「絵馬」だ。
神社に行き、それぞれの願いを書き記す。
全国大会で優勝したいという必勝祈願。
希望の大学へ受かるように合格祈願。
今年の無事を祈る健康祈願。
おそらく経験した方も多い、ごく当たり前の光景である。
 
しかし『絵馬に願ひを!』の示す物語は、この意味を一変させる。
その裏に込められた不気味さが、あまりにも色濃く出てくるからだ。
 
本作に登場する「狼欒神社(ろうらんじんじゃ)」
最初の参拝客は「伊咲 那美(いさき なみ)」という妊婦である。
彼女は度重なる流産に悩まされており「今度こそ無事に出産できますように」と願いを絵馬に託す。
 
そして、この物語が画期的なのは音楽作品であるのにかかわらず、先の展開を選択できる点にある。
リスナーは神として、託された願いをどのように叶えるかを用意された2択から選ぶ。
その結果によって次の曲が変わるのである。
それゆえコンサートでは観客にアンケートを取る形になるので、毎公演どの曲が流れるかわからない状態になる。
超高額でもリピーターが続出する理由はここにある。
 
しかし、ここで提示される選択肢は常軌を逸している。
1. 子どもは無事に出産できるが、母親は死ぬ。
2. 子どもは再び流産するが、母親は生き残る。
 
この2つからしか選べないのである。
ファン層の大多数が女性というアーティストであるにもかかわらず。
 
あまりの展開に、SNSでも悲鳴が上がった。
元々「人殺しソング界の貴公子」と呼ばれているRevoの楽曲に慣れているとはいえ、流石にここまで精神的に来る作品はなかったからだ。
そのため賛否両論が入り乱れる展開となった。
 
だが、それでもファンは週間5位にランクインするほど、本作を購入した。
恐ろしく高いコンサートに複数回参加する猛者も、私含め多数いた。
 
これほど引き付けた理由こそ、彼らにしか出せない「美しきもの」があるからだ。
 
伊咲那美のストーリーは、古事記に記された日本神話の「イザナミ」、「イザナギ」に由来する。
彼らは日本を作った最初の男女神である。
そして「イザナミ」は子「ホムラ」を出産する際に命を落とす。
つまり本作で提示される母親の死ぬ選択は、あくまで忠実に古典を再現しただけなのである。
このように日本や世界の歴史に紐づいた重厚な物語が、ファンを魅了するのである。
 
しかし、要素はこれだけでない。
真骨頂は作品に対する解釈が、どこまでも深くできることだ。
 
なぜこの絵馬の願いに対して、その選択を用意したのか?
もはやファンですら解読できない複雑怪奇な歌詞に込められた意図は何か?
ロックバンドと日本古来の音楽「雅楽」のセッションという独自性あふれるサウンドに託した思いは?
 
このように本作に登場する楽曲は、いずれも探求しようと思えばいくらでも潜れる深みを持っている。
しかも約4時間分も収録されているのだ。
 
だからこそ、22000円という超高額のアルバムになる。
しかし、その価値を十分に担保するクオリティを有しているのが本作だ。
 
とはいえ『絵馬に願ひを!』で語られる物語は、もはや個人で理解できる範囲を超えている。
SNS上で見ても、未だ全曲を聴いていない人が大多数という状況だ。
さらに流産などセンシティブな話題も多く、軽々しく議論をすることも難しい内容である。
 
そこでこの連載では、本作に魅せられたファンの方々へインタビューを行う。
いずれもコンサートへリピート参加するほどの長年のファンである。
彼らは、なぜこの超高額の作品に対して躊躇なく大金を支払ったのか。
そして、それほどの回数を聴き込んだ末にどのようなメッセージを受け取ったのか。
この答えは『絵馬に願ひを!』に込められた思想を深める材料になるだろう。
 
はたしてSound Horizonを愛したファンは、絵馬にどのような解釈をしたのだろうか。
この選択を、解き明かしていこう。
 
 
 
 

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2023-10-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.235

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