第35章 甘くない人生の中締め、シメパフェを喰らう《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》
2023/7/3/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
「お酒を飲まない人が、夜に楽しめる場所ってないのかな」
と考えることがよくあります。私はお酒を飲まないので、どうしても夜、食事のあとなんかにバーに行ったり、また居酒屋にいくことを楽しめないのです。というのもこういう場所はどうしても「お酒を飲む」前提。つまりお酒のメニューは豊富にあるけれど、ソフトドリンクは大体烏龍茶、ジンジャーエール、コーラ、オレンジジュース止まりしかありません。お酒を飲む人はかわるがわる、いろいろなお酒を楽しめますが、お酒を飲まない人は決して飲むことを楽しむためにその場にいるわけではありません。酒飲みたちがお酒を楽しんでいる間、言ってしまえば適当なチョイスのソフトドリンクに甘んじて、酒飲みたちに付き合っているだけ。またそれだけでなく、大してドリンクを楽しんでいるわけでもないのに、最後のお会計は割り勘だったりすると、一体なんのために烏龍茶を飲んでいたんだろうと悲しくすらなります。それほどまでに世の中は「お酒」主導の文化がはびこっており、お酒を飲まない人たちにとっては夜を楽しむ場所すら用意されていないような印象です。
その文化を打ち砕くかのような存在が「夜パフェ」かもしれません。
その名の通り、夜のパフェ、つまり夜に食べるパフェということなのですが、もともとは〆パフェ(シメパフェ)と言われるもの。つまりお酒を飲んだ後の〆として食べるパフェ、ということで、ここでもいわば酒飲みたちが対象か!と毒づきたくもなりますが、それでもやはり、お酒を飲まない人も楽しめる場はとにかくありがたいし、うれしい。
〆るということ〜なぜ〆る必要があるのか
そもそも、〆るとはどういうことなのでしょう。
お酒を飲んだあとに〆のラーメン、また最近沖縄では〆のステーキが流行っているとも聞きます。またお酒を飲まなくても、食事をしていて最後に〆のご飯や麺を食べるという文化が、私たちにはあります。どうも私たちは最後に〆ないと具合が悪い生き物のようで、〆ることではじめて食事が完結するようなところがあります。
「食べた」
という満足感を作り、食べたものを完結させる役割があるもの、それがつまり最後の〆なのではなかろうか。特にお酒を飲む人は、ついつい酒の肴をつまみながら、ということになり、どこが食事の核かがわかりません。いつまでもダラダラと食べ続けてしまうことを避け、お腹と心を落ち着けるために、私たちは〆るのかもしれません。
酒の肴、という日本の文化
肴をつまみながら飲むという文化は、実は日本独自のもの、なのかもしれません。
ヨーロッパ、なかでもイギリスなどでは食べることと飲むことがはっきりとわかれています。
つまり、食事は食事として済ませて、そのあと飲むためだけにパブにでかけるというのが一般的です。パブでは肴をつまみながら、ということはほぼありません。つまんでもピーナツやポークスクラッチング、ポテトチップスのようなスナック菓子ぐらいで、日本のように肉や魚、野菜などの素材を調理し、さまざまに趣向を凝らして作られる、色とりどり、個性豊かな酒の肴は存在しないのです。
また食の都フランスでも同様に、彼らは食べながらワインを飲むのが一般的ですが、その時食べるのは肴ではなくいわゆるきちんとした食事です。前菜があり、肉や魚のメインがあり、その都度それに合わせてワインを飲みます。ペアリングの妙を楽しむ文化がフランスのお酒文化。また食後にはデザートワインやブランデーなどを嗜む文化もありますが、決して肴をつまみながら、という感じではありません。
ちょこちょことつまみながら飲むというのは、もしかしたらアジア圏の文化なのかもしれません。韓国、中国、東南アジアの国などでは、屋台でちょこちょこと美味しいものを食べながら、ビールや現地のお酒を飲む姿が目に浮かびます。〆るということはそういう、つい食べ続けてしまう文化をもつ私たちにとって、区切りをつけるために必要な儀式なのかもしれません。
いつまでもつまみ続けることを避け、食べることを完了させる役割をもつ〆は、いつまでも食べ続け、飲み続けていてはお腹も壊すし、飲みすぎてしまいますから、ちょうどいいところで歯止めをかけるために、私たちが作り出した習慣なのかもしれません。
美味しいものも、食べすぎてしまえば美味しくなくなってしまいます。
美味しいものを美味しい、で留めておくためにも、〆るという行為は理にかなっているような気がします。
シメパフェとは?〜札幌発祥、パフェの新しい食べ方
シメパフェは2014年ごろに、札幌で誕生したと言われています。
札幌、つまり北海道では牧場が多くあり、新鮮な牛乳を使ったアイスクリームやソフトクリームを気軽に食べることができる環境がありました。
またそれらを普通にビジネスパーソンたちが食べる、という文化がもともとあったといいます。そこから着想を得て、飲んだ帰りに食べるシメパフェという文化が生まれました。
札幌パフェ推進委員会という組織があり、そこではこの新しい文化を伝え広めるための活動をしています。
札幌パフェ推進委員会を運営しているのはクリプトン・フューチャー・メディア株式会社で、この会社が2014年に新しくカフェ事業を展開する際、標茶町の牛乳を使ったこだわりのソフトクリームでパフェを作り、それをカフェで宣伝することになったことがきっかけだそうです。この時すでに札幌では夜にアイスやソフトクリームを食べる文化があり、このタイミングをきっかけに、他店とも協力して札幌の美味しいパフェ全体を盛り上げよう、ということで、札幌パフェ推進委員会が生まれました。そこで最後の〆めにパフェを食べることをシメパフェと名付け、札幌シメパフェというブランドをスタートさせたということでした。
現在(2022年)札幌市内には21店舗の加盟店があります。また東京をはじめとする札幌以外の地でも徐々に加盟店が増え始め、密かなブームになっているという状況です。
新宿で頂くシメパフェ、パフェテリアデル
夜7時ごろ、新宿三丁目にあるパフェテリアベルは、空席がカウンターに数席のみという状況で、夕食をいただくコアタイムであるにも関わらず、多くの人たちがすでにシメパフェを食べに訪れていました。90分制と時間制限が設けられています。メニューには5種類ほどのパフェがあり、それぞれの内容が詳細に絵とともに描かれています。一つのパフェにつき20種類前後の材料を使用していて、どれもものすごく凝っています。パフェといえば昔から、チョコレートパフェやいちごパフェというふうに、単純にアイスクリームとチョコやフルーツ、生クリームなどが盛り付けられているデザートを連想しますが、シメパフェで頂くのは見たこともないレベルでの豪華さ。使う素材の多さもですが、その盛り付け方も美しく、一つずつ丁寧に手作りで作られていることを物語っています。またアルコール入り、アルコールなしも選ぶことができるので、お酒が得意ではない人は、お酒を使ったクリームやアイスなどを別のものに変更してもらうことができます。また、もちろんアレルギーなどの食材も同様、事前に伝えておけば全て取り除いて、別のもので代用しながら、本来の美味しさを損なわないシメパフェを頂くことができます。
人生初のシメパフェとして選んだのは「ピスタチオとプラリネ」。シフォンケーキ、チョコレート、竹炭メレンゲ、カカオニブ、ソフトクリーム、プラリネジェラート、ピスタチオジェラートなど、10数種類の材料が、レイヤーに盛り付けられており、その並びをメニューの上でも忠実に再現して記載しています。昨今のSNS文化、インスタグラムでの「映える」を意識しているのでしょう、とにかく写真に撮りたくなるような、丁寧に技巧的な盛り付けがなされていて、見ているだけで気持ちが上がります。
待つこと15分、世にも美しいパフェが運ばれてきました。店員さんの言葉通り丁寧に作られているのがよくわかる、とても繊細なパフェで、量は多くはありません。背の高いグラスの器で多そうに見えるのですが、少しずついろいろな食材が入っているので、飽きることなく食べられます。しっかりSNS用に写真を撮り,柄の長いスプーンで少しずつ食べすすめていきます。
チョコやクリーム、フルーツやナッツが、甘味、旨味、食感もさまざまに、少々甘いなとは感じるのですが、最後まで美味しく頂くことができました。
また、パフェだけでなくドリンクも充実。
コーヒー紅茶だけでなく、ちょっと変わったお茶の種類も豊富で、甘いパフェをいかに美味しく食べ切るかを考えたような、メニューのセンスが優秀です。私はキクイモ茶を選びました。何気なく選んだのですが、そういえばキクイモは血糖値を安定させてくれる働きがあるので、甘いものと組み合わせるには最強の組み合わせなのかもしれません。
お会計は一人3000円弱。
パフェとお茶、と考えるとなかなか安くない金額です。パフェが単なるデザート、スイーツではなく、人を目からも楽しませ、心もお腹も満たしてくれるパワーフードだと考えると、なかなか妥当な金額なのではないかと思います。
しっかり食べて大満足し、席を立って退出すると、そこには空席待ちをする人たちの長蛇の列がありました。”シメ”パフェですから、夜が遅くなるにつれて、〆に訪れる人たちが増えるのでしょう。90分制にしてある理由が、これで明確になりました。
パフェを、おやつでもない、デザートでもない、〆として頂くという、人生初の体験でした。
これは他のパフェもぜひ、試したくなる!
新しい体験に心が踊るのでした。
アイデアと時代に触れること
日々どこかで、新しい食、食べ方が生み出されています。
それをマーケティングの視点で見ると、ただものを売りたいだけなのかと思ってしまいがちですが、それでもやはり、今の時代を楽しもうとする気持ちはそれだけで大切にしたいものです。これまでに食べたことのないものが、食べたことのない食べ方を見出し、私たちは脳にも新しい刺激を与えることができます。
特に食事は、日頃から慣れ親しんだものを毎日食べ続ける傾向にあります。
それは体に安定的にカロリーや栄養素を供給するためで、毎日食べるものが体系付けられることで、各国の料理、例えば日本料理、中華料理、フランス料理、などという国別の食習慣が生まれました。
こういった、安定的な食べ物を食べることで精神が安定します。毎日同じように栄養素やカロリーが摂れるとわかると、それが心と体の不安を払拭してくれるものとなります。
しかし時にはこういった、普段食べないもの、日常では口にしないものを見て、感じて、食べることによって、心と体に新しい刺激を与えることは、新鮮な気持ちになるだけでなく、その時代の新しいアイデアに触れることにより、魂が若返る気がします。
人の底なしのクリエイティビティに触れた時、人は深く感動します。たかがパフェ、言ってしまえばただのアイスクリーム、フルーツ、クリームの塊ですが、そこに込められた食に対する貪欲さや愛情、想いの深さに触れた時、やはり大きく心は大きく感動し、楽しむことができるのでした。
人の好奇心と探究心は尽きることがありません。
むしろそれが尽きたら終わり。人として、まだ見ぬものを見ようという気持ちが消えたり、知ろうとする姿勢が消えることは、本当につまらないことのように思います。
人生を50年も生きてきたら、そこそこ毎日食べるものも定番化していたり、なんなら探究心や好奇心と言った生きるドライブとなるものが薄れてしまってくることがあります。
しかし、それではつまらない。
人生100年時代と言われるのですから、アラフィフなんてやっとその半分を生きたばかりです。人生の後半戦に向かうこのタイミングで、改めて自分の心が何にワクワクするのか、好奇心の種火を改めて確認し、いつでも着火、稼働する状態にしておきたいものです。
まだまだ人生、楽しむためにあります。
ついつい達観してしまい、人生こんなもんでしょと思いがちのお年頃です。そこを今一度乗り越え、歳を経てきたからこそ楽しめる、自分を取り巻く新しい世界に目を向けて、毎日がワクワクの連続であって欲しいと願います。
飽きたら終わり、覚めたら終わり。
これでいいや、こんなもんでいいや、と思ったとたん、人生が終わります。
どうかどうか、まだまだ半分。残り半分は前半以上に楽しんでやるという気概で、シメパフェだろうとなんだろうと味わっていきましょう。
《第36章につづく》
□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
READING LIFE編集部公認ライター、経営軍師、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の創始者。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。
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