書店をゆく

魅惑のS字棚 八重洲ブックセンター丸井柏店 《書店をゆく》


行くときには、どうしても守ってもらいたいことがある。

この書店を訪れる際の、作法と言ってもいいかも知れない。作法と言っても、別段、難しいことではない。

ぜひ、エレベータではなく、エスカレーターで書店のある7Fまで行ってもらいたいのだ。

若者が集まるファッションビル、丸井に入っているので、柏駅から出て、その建物に入った際も、まさか上にそんな空間があるとは、想像もできないだろうと思う。駅前という立地もあって、階下には若い女性向けの衣料品店が軒を連ねている。そう、人も多く、まさに軒を連ねているという感じなのだ。

ところが、7Fに至るエスカレーターに乗ると、何となしに、「雰囲気」を感じられるようになる。何か、静かな、落ち着いた、心地よさそうな空気が漂ってくる。

やがて、6Fから7Fに至るエスカレーターも、中盤を越えてくると、目の前には思いがけない光景が広がってくる。

目を見開き、おもわず、子供のように「わー」っと歓声を上げてしまう。

そして、気付けば、引き込まれるようにして、棚の前に立っていることになる。

目の前に現れるのは、見たこともない、S 字の本棚だった。そのラインは、もはや、魅惑的ですらある。

魅惑のS 字棚

また、エスカレーターに乗った際に、歓声を上げてしまったのは、そのS 字の本棚の1段ごとに設えられた、美しい電飾が見えるからである。

電飾

その棚に陳列された本は、まるで宝飾品のように、かすかにライトアップされているのだ。

そこに陳列されている本は、どこにでも売っている既製品に違いないはずなのに、ここに陳列されると特別な何かのように見えてしまうから不思議である。

こだわっているのは、S 字の本棚ばかりではない。足下を見ると、絨毯になっている。雨の日のことなどを考えると、なかなか採用しづらい選択だろうが、この書店はまず第一にお客様の居心地の良さを考えて、この様な選択にしているのだろうと思う。

店内は、エスカレーターを中心に、1フロア全てが書店である。広々とした、それでいて落ち着いた雰囲気の持つ空間に仕上がっている。店を回っている最中、ちょうど下の階から吸い上げられてきたような、若い女性客が友人と来て、こう言っていたのが印象に残る。

「わあ、きれいな図書館できたんだ!あ、本屋さんなんだね!わたし、最近、本読まないとと思っていたんだよねー」

語弊を恐れずにいえば、どうみても本を読みそうにもない彼女たちをも、読んでもいいと思わせるような空間なのである。

店長の木内さんに話を聞いてみる。木内さんは、『成功できる人の営業思考』の仕掛けの際の、いわば、戦友のひとりであり、fecebookを通じて知り合った方だった。何度もやりとりをしていたので、実際には初めて会ったのだが、初めてとは思えないほどに話が進んだ。

「落ち着いて寛げる空間にしたかったんです」

と、木内さんは言う。

「実は分野ごとに、エリアを区切っていて、絨毯の色を変えたりと、それぞれ雰囲気を変えているんです」

確かに、「人文・芸術」のエリアの絨毯はワインレッドで、壁で区切られていて、雰囲気が違う。ここは休日などにじっくりと見たい空間である。美術書と人文書があり、窓際には、カフェ風のスタンド席も設けてあって、そこでゆっくりと本を楽しめるようになっている。

人文・美術

同様に、児童書のエリアとコミックのエリアも、壁で仕切られていて、それぞれの違った属性のお客様がお互いに邪魔をしない作りになっている。もちろん、多層の書店ならこういう考えはあるだろうが、1フロアでこういう造りになっているのは、珍しいのではないだろうか。

「レジ前から、エスカレーター、そしてレジとは反対の壁にかけての、中央の部分を木目の素材の棚などを配置してこだわりました。実は、柱回りの布にもこだわっているんですよ。それなので、画鋲などさせないですよね」

と、木内さんは笑う。

たしかに、中央のラインが、とてつもなく、「いい」のだ。何と無しに異空間なのだ。

実用書やビジネス書のエリアと文庫や雑誌などのエリアを、中央の異空間が区切っていて、ここでもそれぞれのエリアが違った趣を醸し出しているのだ。

しかも、店長が木内さんだというところが、実に面白い。

この方は、元々は八重洲ブックセンター本店のビジネス書を担当されていた方だ。とにかく、手を変え品を変え、と売ることに徹底して拘る方である。4月27日にオープンして、まだ1週間。

「これからどんどん進化させていきたいです」

と、木内さんは言う。

もしかして、この書店は、都心からは少しだけ離れているが、逆に、都心から休日に人を惹き寄せる書店になるかも知れない。少なくとも、僕は通いたい気持ち満々になった。

池袋からだと、山手線で日暮里まで行き、常磐線の快速などでぴゅーっと行けば、40分くらいで着くのではないだろうか。案外、近い。また、そこに行くまでに本を読み、帰りにはここで買った本を読みながら電車に揺られると思えば、その電車の時間さえも、書店訪問の一部になり得る。

また、木内さんも、元々、書店からベストセラーを出したいという想いが強い方で、イトーヨーカドー葛西店の店長をやっていた際には、スーパーという立地で、普通なら「ビジネス書は売れない」と言われる場所柄にもかかわらず、ビジネス書を果敢に仕掛けておられ、結果も出されている。

そういった意味においても、CORE1000プロジェクトに関してもご理解を示していただき、まさに「魅惑のS字棚」で、『小さく賭けろ!』を大きく展開して頂けることになった。僕も頻繁に通うことになると思うので、この「魅惑のS字棚」で、どう『小さく賭けろ!』が展開されるのか、ぜひ、楽しみにして欲しい。

近くの方はもちろん、そうでない方も、足を伸ばして行ってみる価値がある書店である。

少しすれば、きっと、木内店長の「木内棚」も見られるようになると思うので、何度行っても新しい発見がある面白い書店になるにちがいない。

木内さん、お忙しい中、本当にありがとうございました!

 

》》八重洲ブックセンター丸井柏店

八重洲ブックセンター丸井柏店

 


2012-05-05 | Posted in 書店をゆく

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