【ペンディング・トレイン/豪雨で新幹線に閉じ込められて、結局東京に向かって逆走するまで】
記事:三浦崇典(天狼院書店店主)
ぼんやりと観ているドラマがある。電車の5両目と6両目が30年後の未来に飛んでしまったという突拍子もない設定の『ペンディング・トレイン』だ。
人が極限状態に置かれたときにどう振る舞い、どんなドラマが生まれるかという設定のコンテンツが昔から好きだ。
『タイタニック』も『ジュラシック・パーク』も、『ウォーキング・デッド』も、同じような仕組みのコンテンツということになる。
ーーしかし、まさか自分がペンディング・トレイン、つまりは先行き未確認の列車に乗ろうとは思わなかった。
昨日、つまりは6月2日(金)は、大雨になることは分かっていたが、名古屋でのアポと仕事があったために普段よりも早めの新幹線に乗った。14:03分の東京発岡山行きのひかりだった。
予定では、16:00くらいに目的の名古屋に到着するはずだった。
東京駅では何事も言われなかったので、まさか、この列車が停まるとは思ってもみなかった。
しかも、22時まで三島駅で新幹線内に閉じ込められ、深夜、逆走で東京駅に戻されるとは思ってもみなかった。
ちょっと雨が弱まったら、きっと走り出すだろうくらいに思い、気にしないで仕事に没頭した。ちなみに僕は新幹線内でもほとんどフルスペックで仕事ができるように常時武装している。
ところが待てども待てども、新幹線は動く気配がない。
まさかの運休が決まったのは20時頃のことだった。
その新幹線に乗って、6時間が経過していた。
ただ、三島駅のホームがない線路に停められた我々ひかりの乗客に対して、職員の対応がここから迷走した。
まずは、ひかりの乗客全員にホームに降りろと言う。
外は大雨だ。
しかも、ホームがない場所に停まったので、ホーム側に停まっている、こだまに一旦乗り移り、そこからホームに出ることになる。
こだまとひかりは、6号車の前方の入り口に小さな橋をかけられることによって連結され、我々ひかりの乗客はこだまを通って、ホームに出た。
ひかりは、そのまま東京に戻ることが決まっていた。
なら、乗ったまま帰ればいいじゃないか、降ろさないで。
誰もがそう思ったろうが、説明はこうだった。
一度この車両は車庫に戻り、そして東京行きとして、こだまが停まっているホームの反対側、つまり東京行きのホームに入線する、と。
車庫に戻りと言われると、何だか座席の進行方向への逆転など、様々やらなければならないこともあるから、必要かも知れないと思い、渋々我々乗客は、15両全体から、6号車の入り口にかけられた一本の小さな橋に行列して、長い時間をかけて大雨が入ってくるホームへと降りた。
実に、不毛な時間。
逆向きにままでいいから、そのまま乗せておいてほしいと。そのまま帰らせてくれ、東京に帰らなければならないのは分かったら、と多くの乗客が思っただろう。
何度も乗務員や駅から乗り込んできた職員に乗客が確認しても、全員降車の一点張りだった。
これは、反対のホームにこのひかりが臨時列車東京行きとして戻ってきて、乗客が全員乗るまで軽く2時間はかかるなと当初から踏んだ。
すでに、列車に乗り込んで6時間経過している上に、あと2時間ホームで待たされるのかと思うと、ピンチだった。
車両で待たされるのであれば、仕事ができる、僕としては一向に問題ない。
けれども雨が入り込むホームでは仕事にならない。パソコンを広げられないからだ。スマホではできるが、格段に生産性が落ちる。
経営者である僕にとって、失われた名古屋出張において、生産量をロスした状態で終えるわけにはいかないのだ。必ず、あわよくばロスした以上の生産量を取り戻さなければならない。
ホームでは仕方なくスマホを手に、スタッフに指示を送り、新たなサービスのローンチを進めさせた。閉じ込められている間に、AIを使って画像生成し、これまた別のAIを使ってそれを動かして動画化できるようにして、さらにテキストを入力して話せるようにしていた。
そう、この状況で生放送ができないので、代わりとなるアバターを作ったのだ。
そのとき作ったアバターがこれだ。
ちょうどいいと思い、僕の講義からの引退を改めて発表し、このアバターで将来的には講義をやる未来を匂わせた。それに関連して、僕のラスト登壇の講義を、リピートの方50%割引のセールを打ち出した。
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これで何件受注できれば、僕の出張取りやめでロスした生産量はカバーできると目算した。
ホームでは予想以上に雨と風が吹き込み、おそらく、一部の乗客が抗議したからだろう、あるいは職員が見かねたからだろう、今度は、ひかりにやはり戻れとホームで放送がなる。
だから言ったろう、全員をあの細い橋から降ろすのは無理だって。時間がかかりすぎる。
そう多くの人が心のなかで呟いただろう。
車両に戻るなら、真っ先に戻るのがいいと一番初めに戻ろうとしたのだが、今度は車両の中の職員に、ホームに戻れと言われる。
情報が錯綜している。
「ホームの放送では車両に戻れと言ってますが、“全員ホームに戻る“で間違いないですね?」
と至極冷静に、まるでAIにプロンプトを打つように言う。最近、無感情に必要なプロンプトを打ち込むのに慣れているので、こういう時も感情的にならなくて、助かっている。
先ほどもホームでスマホでスタッフに指示をしているときに、何度も同じ指令を出しても、ミスするスタッフに対して、
「今、〇〇という指示を出しています。ここまで認識しましたか」
「そして、次に〇〇という指示を出してます。ここまで認識しましたか」
と冷静に修正してきたばかりだった。
人のエラーは、経営者として慣れっこだった。
この事態に、職員の中でもどこかでエラーが出ているのだろう。定時運行で世界的にも評判が高い組織においても、こういうOJTの経験がどうしても足りなくなる事態においては、必ずエラーが頻発する。物理法則としてそうなるものだ。
15両に車両全体から、数百人の乗客を6号車にかけられた小さな橋から全員一旦、ホームに降ろすという指令も明らかにエラーだ。数百人の安全な2時間をホームでさらに無駄にさせることになるからだ。
しかし、おそらく指令を出している人は、その状況と様子を50%も把握していないはずだ。前線を知らない大本営指令とは、どの時代もそういうものだ。
僕はそういうものだと冷静に目の前で繰り広げられるエラーを、今日の豪雨のような自然界の行いの一部と見た。そう、人のエラーも自然の一部だと僕は考えている。
ただし、その割にはエラーが続き過ぎると思った。巨大な組織のやり方としては、なぜか杜撰だと思わなくもなかった。
ともあれ、再びホームに戻された我々乗客は、雨と風が吹き込む中、さらに待たされた。
ホームに降りると、僕が職員とやり取りをしているのをホームから見てた多くの乗客が、まるで預言者の言葉を待つように僕の言葉を待った。
「“ホームで待つ“で、間違いないようです」
短いプロンプトを、ホームで放った。
それを受け取った乗客たちは、ため息するように小さく落胆するものの、静かに自分がいるべきと考える位置に戻った。こういう場合の日本人の素直さは、もはや奇跡である。怒り奮闘の乗客の群れがここかしこに起きてもおかしくない状況だ。
僕もスマホに戻り、スタッフに指示を飛ばした。
三島駅で泊まることも考えたが、運休が決まったとほぼ同時に全室埋まったらしい。僕もはじめから指示を出しておくことも考えたが、車中泊をして生産量をどこまで上げられるのか挑戦することに興味があったので、運休が決まるまで、その判断を先送りにした。
まもなく、ホームでアナウンスがあり、車両に戻るという案内が間違いで、ホームで待機で間違いないと修正され、その上で、ひかりの乗客も風雨を避けるために、こだまの空いている席で待ってていい、と案内があった。生産性を取り戻すチャンス到来だ。
2時間生産性をロスすると思ったが、1時間のロスで済みそうだ。
僕にとって何より生産性をロスすることが痛手だった。
こだまのグリーン車にも、ひかりのグリーン券を持っていないと乗れないと案内された。僕は新幹線の移動は生産性を上げるために必ずグリーン車にしているので、グリーン車で待てた。
ちなみに僕がひかりで移動するのは、のぞみだとグリーン車であっても隣の席に座られてしまう可能性が高く、そうなると生産性がやや下がるからだ。あえてひかりに乗り、富士山側でない席にしている。
こだまに乗るとちょっと不思議な感じがした。
三島でひかりに閉じ込められ、およそ5時間ほど並列で窓から見ていた世界だった。
まるで、パラレルワールドに入った感覚があった。
躊躇なく空いていた席の両側を使い、パソコンとiPadを広げてWi-Fiに繋ぎ、オフィス空間を現出させる。ノイズキャンセルのイヤフォンをして音楽をかければフルスロットルでの仕事開始だが、車内放送で情報を拾わなければならなかったため、ノイズキャンセルだけはキャンセルした。わずかにこれで生産性が下がるが、完全に没入すると集中力が深くなりすぎて周りの状況が遮断されて、ひかりが向かいのホームに入線したのも、移って大丈夫と放送されるのも見逃し、聞き逃す恐れがあったので、多少の生産性ロスは致し方ない。
それから1時間ほどで隣に停車していた、僕が乗ってきたひかりが動き出した。
おかしい、とちょっと思った。思った以上に動き出しが早い。ひかりの乗客数百人をすべてあの小さな橋でこだまに移し、ホームに降ろすには、あと30分はかかるのではないかと覚悟していたからだ。ひかりが動いてから、15分ほどで、こだまが停車しているホームの向かい、上りのホームに、戻ってきた。
すぐにホームに出てひかりの入線を待った。
ホームにひかりが入ってくると、不思議な光景を目にした。
当然ながら、臨時列車で始発になるはずなのに、見たところ15号、14号、13号には乗客が乗ったままだったのだ。しかも、座席は進行方向とは逆だった。
それを見て、先ほどの30分ほどひかりの動き出しが早かった謎が解けた。
おそらく、全員降ろしていては、東京に戻る時間が遅くなると考えて、現場から中央の指令に、全員降ろさないで、座席はこのままで東京に戻ろうと上申したのではないだろうか。あるいは、降車に時間がかかっている状況を中央が知り、判断を覆したか。
いずれにせよ、その判断により、僕の生産時間は最大2時間半のロスから、2時間に短縮された。
結局は、ひかりに全員乗ったままで、一旦、車庫などに入り、上りの車線に入って逆走するのが最も効率がよかったはずが、当初の全員、ホームに降りろというエラー指令を、30分だけカウンターしたことになる。
最初のエラーは仕方がない。
それでも、後に修正すれば、被害は最小限に抑えられる。
逆走するひかりの中で、さらにフルスロットルで仕事をした。
ひかりは、各駅停車の臨時列車に変わり、熱海に停まった。そこでふと、ホームの様子を見て、気づいた。
そうか、三島駅だけが事件の発生地点ではなかったのだ、と。
三島駅でのことは、東海道新幹線全体の、一つの駅でのことでしかなかったのだ。すべての駅で、同時並行して、同じ事件対処が行われていたことになる。
三島駅が事件の中心で、日本中のニュースがこの一点に注目していたように錯覚していたが、違うのだ。ニュースは東海道本線の「線」に焦点が当てられていただろう。それ以上に、この豪雨での被害にフォーカスされていたに違いない。
東海道新幹線の職員は、戦争で言えば、戦線が同時多発的に勃発して、それぞれ対応しなければならなくなっていたのだ。
エラーが頻発した理由がこれで理解できた。
個々の駅での対応では、職員の層は薄くなる。これで最善の対応をしようとしたときに、様々なエラーが生じたのだろう。
これも、至極合理的なことだ。
三島駅でのことは、別の物語として、各駅で起きていたことになる。同時並行して、パラレルワールドのように、同じ問題に対して、別のドラマが進行していたのだ。
三島駅のひかりとこだまだけの話ではない。
それを同時に対応した職員は、称賛に値するのではないかと思った。よくよく考えてみると、豪雨をもたらしたのは、彼らではない。自然災害に直面し、それでも乗客の損害を少しでも食い止めようと、各地で必死に働いていた姿が目に浮かぶ。
エラーもあったろう。けれども、一丸となって、この災害に対処した。すばらしいことではないかと、感動すらした。
東京駅に着くと、今度は払い戻しが行列になっていた。払い戻しはどこの駅でもできるのだが、別日に駅に行き、また新たな行列に並ぶことは愚だと思った。今日の損害は、今日で食い止めてしまいたいと思った。先送りすると、負債として工数が結果的にかさんでしまう。
行列に並んでいる多くは観光客らしかった。
東京駅のホームには新幹線ホテルが用意されていた。
朝、今日西にいけなかった人が再チャレンジするためのキャンプである。戦いは、終わってはいない。
僕の番が来た。
もう、終電はなくなっていた。
昼間に買った料金、そのままがクレジットカードに戻る。
同じ金額だ。
それを見て、少し、可笑しくなった。
この一日は、何だったのか。
試しに、面倒な客にならない程度に柔和に聞いてみた。
「終電なくて、タクシーで帰るんですが、その金額は出ないですよね?」
無理だと、ちょっと困った顔で職員さんが言うので、すぐさま、あ、大丈夫です、わかってます、と言い、改めて、
「ありがとうございました」
と頭を下げた。一瞬、その職員さんはキョトンとしたが、
「ありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」
と頭を下げ返してきた。何も、今回のことは、彼のせいではない。
それに、僕はペンディング・トレインの中で、そして、逆走する新幹線の中で、しっかりと生産していたのだ。
こう考えると、タクシーの代金4,000円ほどで、あの新幹線の中で仕事を進めることができたと考えれば、むしろ損害はないかもしれない。
そして、最後にこの日の僕の仕事の“生産量“を決定づけるのは、これを読んでいるあなただ。
あなたが、今日、この特別セールをいくら買ってくれるかによって、あの日の僕の生産量が確定する。
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