秘密基地としての天狼院書店《天狼院通信》
思い返してみると、僕は幼いころ、よく穴を掘っていた記憶がございます。
それはきっと、まだファミコンが登場する以前の話で、家の前の畑が遊び場だった時代のことだろうと思います。
耕うん機の横に、整然と並べられたスコップを肩に背負い、畑にいって、その中でも休閑地となっている部分を見つけると、とにかく、穴を掘っていた覚えがあります。
小さい時分でも、一心不乱に大地にスコップを突き立てていると、平気で腰が入るくらいの深さまでは到達します。
けれども、その頃にはへとへとに疲れて、いくら掘っても無理に決まってると覚めた心地になって、穴を放置して家に戻るのでした。
両親や祖父母は、きっと僕がなぜ懸命に穴を掘っているのか、わからないはずだったので、「あの子はちょっとおかしいんじゃないだろうか」と思っただろうと思います笑。
しかし、当時の僕の頭の中には、実は明確な「ビジョン」があったのです。
僕は単に、穴を掘っていたわけではありません。
何を隠そう、壮大な秘密基地の一部を掘っていたのでございます。
穴はその入口で、できれば階段状にしたく、奥に様々な部屋を作って、大好きな友達だけを呼んで遊びつくす場所にしたいと思っておりました。それは別に地下でなくともよくて、たとえば、トム・ソーヤーの冒険に出てくる木の上の隠れ家みたいなものでもよくて、とにかく、秘密基地が欲しかった。
先だって、ふと、思ったんです。
もしかして、天狼院は秘密基地なのではないかと。
子どものころ、作りたかった秘密基地を、オトナになって作り上げてしまったのではないかと。
最近では取材していただくことが増えて、そのたびにたいていはこういう質問を受けます。
「この時代にどうして書店をオープンしようと思ったのですか?」
それに対して僕は、きっとこう答えているだろうと思います。
「書店が欲しかったのです。合理的に勝算があったわけではなく、まずは願望としてとてつもなく書店が欲しかったんです。どうやればビジネスとして成り立つのかを考えたのは、その後のことです」
もし、今、同じ質問をされるとすれば、僕はこう答えるかも知れません。
秘密基地が欲しかったんです。
子どものころに作りたかった秘密基地を、オトナになって作ったんです。
それが天狼院なんです。
天狼院に来てくれるお客様と、僕は多くの場合、とても仲良くなります。
それは、あるいは、自分の秘密基地に来てくれた、大好きな友達だと認識しているからなのかも知れません。
ふと、そんなことを思ったのでございました。