「落語」という世界をもっと早く知っていればよかったといたく後悔している。《天狼院落語部》
天狼院書店店主の三浦でございます。
昨日は、立川流本流の泉水亭錦魚さんにお越しいただいて、天狼院書店で本格落語をして頂きました。
僕は店主のくせして一番前のかぶりつき席に陣取って、その迫力を全身に浴びました。
いや、圧巻です。
感動です。衝撃です。
たしかに、テレビでちょっと観たことがありましたけれども、やっぱりLIVEはまるで違う。
しかも、天狼院、幸いに小さなハコなので、ものすごい圧力の中で楽しむことができます。真ん前でプロの落語家さんが演じるのを楽しむことができる。
初体験から一夜明けたんですが、興奮冷めません。タイガー魔法瓶的に冷めません。
おいらは生来、めんどうなんで後悔するってえことはねえんですが、昨日ばかりは違いやした。
もっと早くに、たとえば大学のときにこの世界を知っていれば、あるいは人生、変わっていたのかもしれない。
世界がもっと拓けていたかもしれないと、心底、損をした気分になったのでございます。
ご存じの方もいるやも知れませんが、昔の僕は文学青年をこじらせてまして、ま、文学にかぶれていわけでございます。
当然、鴎外、漱石と文豪もかじりはするのですが、するってえと、漱石のくだりで「落語」というものが突如として現れてくる。
夏目の漱石さん、とんでもなく頭の良かった人らしく、明治の時代にイギリスに留学されているんですね。
そこで、『文学論』なんて、とんでもなく行っちゃっている本を殴り書きしているんですが、帰国して何だか憑き物が落ちたように、すっきりとするんですね。
「おいら、明治維新の志士のように命がけで文学をやるよ」
と、まあ、そんな物騒なことが書かれているんですが、きっとあの訳の分からない、いや、本屋としては売らなければならないんで、そんなことも言ってられないんですがね、今風に言ってしまえば、まるっきし中二病的な文章を、それはそれは長々と書き連ねているわけです。
で、帰国して、落語を自分の命がけの文学に取り入れてから、一気に作風が変わってしまったのでございます。
『吾輩は猫である』の登場でございます。
ここから、日本の新しい文学が始まったといっても、もしかして、言い過ぎじゃないやも知れませんね。
そう、漱石さんの文学の中核には、「士魂」と「落語」があった。
それはずいぶん前から知っていたんでございます。
でもね、僕にも若いころがありましたから、「なに、そんな古くせえもんに頼らなくったって筆で飯を食ってやらあ」って、その当時は見向きもしなかったわけです。
やっぱ、落語、やらないとな、とクスリでも飲む気持ちで、いつかはやらねばやらねば、と思いつつ、早月日は流れ、36の齢と相成りました。
それで、昨日、初めて生で真ん前で、落語を「体験」したわけですが、始まってしばらくたって、涙を拭き拭き笑いながら、僕は心底「やられたあ」って思っていたわけですよ。
これだ、ここに文学の真髄がある。
ここに演劇の真髄がある。
パフォーマンスの、プレゼンテーションの、人前で話すことの真髄がある。
「この古くせえもん」の中に、僕が求めていた、あるいは僕に欠けているものが込められている。
しかもでございます。
おじいちゃんたちが観るもんだとばかり思ってた「古くせえもん」が、超絶面白いんですよ。話がね、本当に腹を抱えて笑い転げるほどに面白い。
なんか、M-1グランプリとか、オンバトとか、観なくたってここにあるじゃないかと。
すんげえ、凄まじく面白いものが、ここにあるじゃないかと、本気で目を見張る思いをしやしたよ。
やっていただいたのは、がっつり、三席。
『金明竹』に『青菜』、そして休憩を挟んで『井戸の茶碗』。
「旦那はんは最近、盛りがつきまして」、「猫の皮を剥いで焚きつけにして」と、思い出すだけで吹き出してしまいそうになります、キケンでございますな。
正直者の清兵衛の、井戸の茶碗の話もよおござんしたね。落ちがたまらなくいい。清々しくていい。ハッピーエンドでいい。
また、青菜、押入れに入ってた奥さんが出てくるシーンがたまらない。いや、もう大爆笑。
三席やっていただいたあとの、アフタートークも良かったですね。
本物の落語家さんに直接質問できることってないですからね、いやー、いい経験をしました。
天狼院ってやっぱり面白いな、としみじみ思ってから、あ、いっけね、おいら、ここの店主だったって思い起こすのでございました。
しかし、出会いって面白いものでございますね。
あの夜、新宿ゴールデン街に恐る恐る初めて足を踏み入れたのは、カメラマンの榊智朗さんを口説き落とすためでございました。どうしても、ああいうスーパーカメラマンにフォト部の顧問になって頂きたかった。
そこにいたのが、落語家の泉水亭錦魚さんだったんですね。
「あっしはね、池袋でこれこれこういう本屋をやってまして」
と説明しているうちに、そうだ、天狼院で本格落語をやってもらおうってことになり、錦魚さん、酔いも回っていたんで、うっかり「いいよ、いいよ」と二つ返事でございます。でも、天狼院店主は、それを逃しませんよ、もちろん。
すぐにその場でスケジュールを押さえさせて頂き、翌朝、メールです。
こんなチャンス、逃しません笑。
それで、あの新宿ゴールデン街の夜は、プロのカメラマンと、プロの落語家さんと約束を取りつけたのでございます。
それが、今、満席大盛況のフォト部と、昨日の落語部でございました。
いや、世の中、面白いものでございますね。
そうそう、昨日、あまりに面白かったので、すぐに次回もお願いしましたよ。来月、6月26日木曜日の夜ですね。
再び、泉水亭錦魚さんに天狼院にお越しいただきます。高座ができます。
錦魚さんと相談し、今度はね、ただ聴くだけでなくて、みんなも参加するかたちにしようということになりました、部活らしくね。
で、タイトルも、決まりました。
明日に生きる「落語」
直にイベント立ち上げますんで、立ち上がったら、すぐに参加申し込みくださいね、きっと次回も満席です。昨日以上に満席になります。いや、あんな面白いもの、僕が責任をもって、満席にしますよ。立ち見も出るくらいにね笑。
少しずつ、落語をやってみようと思います。
また、スーパーカメラマンの榊智朗さんのフォト部「恋する写真」、5月24日(土)に開催でございます。これは、もう20名以上のお申込があって、超満員でございますが、いいです、来たい方、まだ遠慮なくお申込ください。ん?もう23名様。ちょっと多いかな苦笑。いやー、受け入れますよ。
ということで、これからも天狼院落語部、天狼院フォト部、また、天狼院書店をどうぞよろしくお願いします。
で、なんで、今日はこんな落語的な口調かって?
いやね、ちょいと、新作落語、書けないかって企んでいるからでございますよ笑。