天狗書店人リスト《天狼院通信》
天狼院書店店主の三浦でございます。
たしか、ちょうど1年くらい前のことだったろうと思います。
Facebookだったか、Twitterだったか、定かではございませんが、こんな投稿をしました。
「天狗書店人リスト、できたー!」
すると、思いがけない反響がございました。
出版社や取次の営業の方からは、
「そのリスト、見せてもらうわけには行きませんか?」
そして、書店員の方々からは、
「何ですか、それ! 私も入ってますか?笑」
などなど。
え? あれ? なんでだ?
と、僕は困惑です。しかし、自分で改めてそれを見て、
あ、そうか、なるほど、天狗になっている書店員のことね。
とようやく皆様の反応の意味が理解出来ました。
それと、「天狗になっている書店員」といえば、と思い当たる人がひとりおりました。
その書店員は、他に先駆けてPOPで単品拡販を成功させていた書店員のひとりでした。
徹底してPOPで訴求して、ときに看板まで作って訴求して、徹底的に本を売るものだから、業界内で小さく評判になりました。
小さな駅の小さな書店に過ぎませんでしたが、多くの出版社の営業の方々がいらっしゃいました。
出版社の営業と言えば、書店から見れば、やはり、花形なのでございます。
出版社に入ることは難しく、覆うの出版社では新入社員がまずは営業に回されることが多く、
そんな小さな店にも、早稲田や慶應、立命館や上智や青山大学といった、とても頭のいい大学を出た、いわゆる高学歴の方が来るのです。
そんな高学歴の、ときに出版社の営業でも偉い人がくるので、大学を出ることもなく、就職をしたこともなく、フリーターで雇われ店長をしていたその書店員は、「勘違い」をしてしまいました。
高学歴の偉い人が、自分にペコペコしてくるので、自分が偉くなったように思えたのです。
とある本を仕掛けてくれと頼まれて、素直に仕掛けていると、今度は村上春樹さんの担当編集という方が、はるばるその小さな書店に来るようになりました。
その書店員はますます増長しました。
あたかも、その村上春樹さんの担当編集者と友だちのように、ともすれば、村上春樹さんと知り合いのように、周囲に吹聴するようになりました。
そうしているうちに、ますます、本当は自分は価値のある存在なのではないかと勘違いするようになりました。
自分が主役となって、出版社の営業さんを集めた飲み会を開くようにもなり、
自分がいなければ出版界がどうにかなるのではないかとさらに勘違いするようになりました。
それまではPOPで訴求するやり方はお客様にも受け入れられて、ほとんど同時にオープンした同規模の店舗よりも、
はるかにいい売上をあげていたのに、いつしか、お客様ではなく、
「100冊売りますからね、見ていてくださいね」
と、出版社や著者に媚びるようになると、不思議とお客様が離れて行き、売上が落ちるようになりました。
それでも、それは出版不況のせいだろうと考えて、気にしませんでした。
高学歴で偉い人がみんなで持ち上げてくれるので、自分のやり方は革新的で、自分はやはり尊い存在なのだとますます勘違いは加速していました。
やがて、大手の新聞などや雑誌などにも、文芸の目利きとして頻繁に登場するようになりました。
その雑誌は、田舎の親戚などもみんなで買って読み、大学も出ずに、ふらふらしていたと思っていたが、あいつは大したものだと褒められるようになったので、ますます増長しました。
「やっぱり、おまえはやると思っていた。ひと味ちがうと思っていた」
と友人にも言われるようになり、もはや、勘違いは揺るぎないものになりました。
けれども、その書店員は、自分がまだ契約社員で、ボーナスもなく、じつは時給計算するとアルバイトとほぼ変わることがなく、少しも経済的に豊ではないことを身をもって知っていました。
自分の価値に比べて、自分の取り分が、あまりに少ないと勘違いするようになりました。
そして、挙句の果てに、本当の自分の取り分を得るために、何の計算もなく、ただの勘違いだけで、起業してしまったのです。
起業の資金には、それまで本当に少ない給料からコツコツコツコツ貯めていたお金を使いました。
家族にも援助してもらいました。
その書店員も、そして家族も、成功は疑いないと思っていました。
何の根拠も、いや、あるのは、ただ高学歴で偉い人達におだてられていたという根拠だけでした。
けれども、そのなけなしのお金も、三か月でほとんどなくなってしまいました。
おかしい。なぜ、価値のあるはずの自分が上手くいかないのか。
やはり、不況だからか。
その勘違い書店員は苦悶しました。
そして、気づいたのです。
おだてられて天狗になっていただけなのだと。
高学歴で偉い人たちは、べつに自分にではなく、その書店に対して、もっといえば「発注権」に敬意を払っていただけで、自分に価値を見出していたわけではないのだと。
起業してから、取り囲んでいた多くの高学歴の偉い人たちが周りから溶けるように消えていなくなりました。
起業したという挨拶を、ほとんどは無視されました。
やはり、そうかとその書店員は思いました。
また、おだてられた挙句に、勘違いして起業までした自分を不憫にも滑稽にも思いました。
その書店員はすべての資金を使い果たし、田舎に帰ろうかとも思いました。
しかし、負けて逃げ帰るのは早いと思いました。
結局、その書店員が戻ったのは、書店でした。
ここまで書けば、もうお気づきの方も多いかと思います。
「勘違いして天狗になっていた書店員」こそが、僕だったのです。
たしかに、あのとき、持ち上げてくれていたほとんどの人は僕の周りからいなくなりました。
けれども、残り、起業して苦しかった時期も離れなかった人たちもいました。
PHPの池口くんや当時三笠書房にいた丸山さんなどがそうでした。
池口くんとは、その後、一緒に本を作ることになり、大いに助けられ、今でも親交が続いています。
もし、これを読んでいる方の中で、書店員の方がいらしたら、ぜひ、問いかけてみてください。
自分は勘違いしていないだろうか。
天狗になっていないだろうか。
その書店を離れたとき、今周りにいる人たちは同じように接してくれるだろうか。
何も、これは書店員だけに言えることではないですよね。
自分が思っているよりも、きっと、今いる会社のブランド力というのが、強い。
ほとんどの場合、取引相手は、あなたではなく、会社と仕事をしているはずです。
そう考えていると、きっと勘違いしないで済むだろうと思います。
そうそう、それと「天狗書店人リスト」ですよね。
実は、これはある本を拡販するために、全国の書店と書店人の方を知り尽くしている、とある方に協力して頂き、全国の有力な目利きの書店人の方をリストアップしたものです。
決して、「勘違いして天狗になっている書店員のリスト」ではありません笑。
それでは、なぜ、「天狗書店人リスト」という名前なのかといえば、単純な話です。
そのとき、その教えてくれた方と、池袋の「天狗」という居酒屋で飲みながら作ったリストだったからです。
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