週刊READING LIFE vol.15

やっぱりカラフルが楽しい! 《週刊READING LIFE vol.15「文具FANATIC!」》


記事:松原さくら(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 

「では、となりの人の似顔絵を1分で書いてください。スタート!」
「よろしくお願いします」

 

グラフィックレコーディングのプロが集まるセッションで、私と友人のゆりだけが初心者だった。
グラフィックレコーディングとは、会議の中で人々の議論をリアルタイムでグラフィックに可視化する手法の一つだ。自由闊達な会議でしばしば混沌とする話や対立する論点を、グラフィックの形で整理し一目瞭然にする。すると会議の進行がスムーズになり、全員が納得できる合意形成が生まれやすくなる。

 

シンガポールから来日したプレゼンターのティムは、その世界ではとても人気があるらしい。その日も、日本を中心にアジアで活躍するプロやセミプロの約20人が参加し、部屋は独特の熱気を帯びていた。

 

最初に3人の似顔絵を描いた。1分では簡単な線しか描けない。最初は、特徴を掴むなんて至難の業で、顔の輪郭を「目、鼻、口」に合うように線を引くことさえできなかった。
描き慣れているセミプロの数名が描く似顔絵は、描く人それぞれのタッチで特徴も掴んでいて、アート性を感じさせる。
私のピカソチックな似顔絵は、余りにも拙くてかえってその場を和ませた。皆、描けるようになるにつれて、似顔絵を描く時には、「この絵だと相手が不満に感じるのではないか? 少しハンサムに描かないといけない」とプレッシャーを感じ緊張するのだ。

 

「では、次に線を引く練習をしましょう」
プレゼンターが用意したペンで、A4用紙に、横線、斜め線、〇、×、△、☆、木のマーク、家のマーク、電球のマークと次々にプレゼンターがお手本を見せ、皆で描く練習をした。全くの初心者で参加している私とゆりも、イチから教えてもらえるので楽しく描き進めていける。
「アイコン」をそれぞれが考えて創り出すワークでは、「コネクション」で想像するマークを全員が一つずつ付箋に描いて提案した。全てを眺めると壮観だ。私が考えた「握手」のマークは一番多かった。しかし、握手だと解るように描くのもなかなか難しい。75mm×75mmの付箋の中におさまっていて、なおかつ上手く表現しているものがいくつもある。自分が考えもつかなかったマークがいくつもある。「橋」の絵で繋がりを表現しているもの、「チェーン」の輪が繋がっている様子で表しているもの。

 

最後に、それぞれが手書きポスターを制作した。
描く前に、練習で大きな模造紙いっぱいに縦線、横線、斜め線を引いた。大きな紙に真っ直ぐな線を引くのは難しい。しかし、手だけでなく、ヒザや腰、ヒジも一緒に動かして、体全体で描くと教えられて、何度も繰り返し描いていると段々となぜか楽しくなってくる。
一通り練習したら、皆、それぞれのテーマでポスターを描いていった。タイトルのフォント、装飾、内容を描く順番と位置、どう絵で表現するか。頭をフル回転させて描いていく。選ぶ色も重要だ。内容に合っている色でなければいけないが、自然と好きな色が決まってきて、そのレコーダーの特徴になっていく。プロのレコーダーは、定番の色合わせを持っている。「赤、緑、黄の原色3色」、「黒、水色、オレンジ色の強調が解りやすい3色」「ピンク、水色、黄色で夢見心地な想像力を引き立てる3色」などの例を間近で見ることができた。

 

「松原さんの色の組み合わせ良いですね」
「ありがとうございます。濃い青とエメラルドグリーンはすごく好きな色なんです」
「私も今度、この色の組み合わせを使ってみよう」
「本当ですか? プロにそう言ってもらえると、なんだか嬉しいです」
グラフィックレコーダーは、クリエイティブな人たちでありながら、とてもコミュニケーション力が豊かだ。
そもそも、コミュニケーション手段の一つでもあることで、頷ける。

 

「このペン良いですよ。書きやすくて」
「本当だ! 私も買おう!」
色んなメーカーのペンを数多く持って来ている人も何人かいた。太さや色味が相応しい場面で使い分けているようだ。良いと思った物を、皆に紹介して勧めている。
「また、たくさんペンが増えそう」
「確かに!」

 

皆、たくさんの種類のペンを、多くの色を揃えて買っている。
ペンを持っているだけで嬉しくなるので、ベテラン程、ペンが溜まっていくそうだ。
特に全員が必須と口を揃えて言うペンがドイツ製の会社「NEULAND」の太い水性カラーペンだ。
海外の通信販売でしか購入できず、高い関税や送料を支払わなければいけない。1本1,000円程するかなりの高級品だ。

 

私も、欲しいが手間や金額を考えて購入を控えていた。
しかし、「知り合いが数名で共同購入しないか」とフェイスブックで呼びかけてくれたので、願ってもない申し出に乗っかり、購入することができた。
NEULANDのカラーペンが到着した日、共同購入した全員が大喜びだった。嬉しくて、集まった時に模造紙を貼り、皆で描きまくった。色の濃淡や、くすみ具合が絶妙だ。

 

「大事に使わなけば。たくさん描く練習をしなければ」
このペンを手に持つ幸せを感じながら、グラフィッカーの仲間入りが出来るよう、努力しなければいけないと、心に言葉を刻み込んだ。

 
 

ライタープロフィール

松原さくら(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
京都市生まれ。大阪府北部育ち。
経営学部を卒業後、IT企業に就職。その後、転職し事務仕事。
ネイチャーフォトグラファー。ファシリテーター。
地球の色んな生き物のことをたくさん知って感じたい。
みんながノビノビしている時が一番幸せ。

http://tenro-in.com/zemi/66768


2019-01-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.15

関連記事