第3話 コロナ禍でイベント参加を断念! ピンチをしのぎ、前に進み続ける夫妻の秘策とは?《400年の歴史を持つ陶磁器の町で、ドイツ人の妻と熊本出身の夫が伝える「波佐見焼物語」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2021/05/26/公開
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
2020年、コロナの感染拡大によって日本中に激震が走った。それはまた、着実に活動を広げてきた綿島夫妻にも打撃を与えるものだった。
二人の工房studiowani(スタジオワニ)にとって、これだけは参加したいと思っていた収益の大きなイベントが中止、または出店を辞退せざるを得ない状況になってしまったのだ。多くの窯元や商社が集まり、かなりの集客数を見込める大きなイベントだったため、参加できなくなったことは、夫妻にとって収益面での不安が増すことになった。
中止が決定したのは、夫妻が出店を予定していた有田陶器市だった。毎年ゴールデンウィーク中に、波佐見町のお隣である有田町で開催される、全国から約100万人が訪れるビッグイベントだったが、コロナの感染拡大の影響で、延期から中止へとなってしまった。
また、同じ時期に夫妻の本拠地で開催される波佐見陶器まつりも、結果的に中止となってしまった。出店までしないとしても、多くの観光客がイベント会場だけでなく、波佐見町の窯元や商社を訪れ、直接に作品に触れることで、購入へと繋がる絶好の機会だったはずだ。
それだけではない。毎年秋に行われる、福岡県北九州市の西日本陶磁器フェスタも出店を見送ることになってしまった。幼い子どもを抱えた夫妻にとって、よそに出店することは容易ではない。現在、北九州市は、夫の健一郎さんの実家がある土地だ。遠方にも関わらず出店できるのは、イベント出店の間、子どもをみてくれる実家があるからだ。そんなせっかくの機会であるこのイベントだったが、幼い子どもを持つ夫妻だからこそ、コロナの感染拡大の状況を考慮すれば出店を見送るのは仕方のないことだっただろう。
大きなイベントに参加する機会を失ったことは、二人の工房にとっては大打撃ではなかっただろうか。実際に支障をきたしたのではと危惧したが、そんな中、実は夫妻を支えてくれていたものがあった。
それは、夫妻の作品が、波佐見町のふるさと納税返礼品として登録されていたことだった。このことは、夫妻にとってはとても有り難いことだったという。これまでの販路は、波佐見の工房を訪れてもらうか、ネットショップ・セレクトショップでの販売、またはイベント参加という形だったため、返礼品としての受注は、今や工房経営の核となりつつあったのだ。最近の波佐見焼人気とも相まって、二人の作品がどんどん知られるようになってきたのも、この返礼品がきっかけということもあるのではないだろうか。
波佐見焼のデザインは、バリエーションが豊富だ。自由な発想で生まれる多様性が魅力的な波佐見焼は、各窯元や商社が様々なアイディアを繰り出しており、その豊かなデザインは見るだけでも楽しくなる。
そんな中で、綿島夫妻のデザインも唯一無二のものだ。二人にしか出せない作風やオリジナリティが、多くの人々の心を掴んでいると思う。
(夫妻の代表作でもある「DINOSAUR(恐竜)」シリーズ:どこか愛嬌のある姿の恐竜たち)
また、コロナ禍で世間が騒々しくなる前から、夫妻にはこの年に計画していたことがあったという。
「2020年は、そもそもウェブショップの運営に力を入れて、作品作りのスケジュールを崩さずに販売できるよう、頑張ろうとしていたところでした。コロナの影響で、これだけは出たいと思っていたイベントには参加できませんでしたが、ウェブショップが結構稼働するようになり、結果的に他のことも、いろいろと進めることができたので良かったと思います」
健一郎さんの口調からは、この困難な状況に振り回されまいという静かな意志が垣間見えた。
二人三脚で、デザインから作品作り、さらには工房の経営と何足ものわらじを履く夫妻のことだ。増えていく注文をいかに捌いていくか、いかに効率よく作業をするか、スケジュール管理や業務の改善などは、年々課題が増していたことだろう。コロナの影響は大きかったのではと思われたが、夫妻にとっては、この災難も課題解決の方法を考え、足元固めをする有意義な時間となったようだ。
また、毎年大阪で実施している個展の作品作りにも、例年以上に力を注ぐことができたという。イベント出店以上に、個展では、より自分たちの作品を見せたいという気合いが入る。4回目となった今回の個展では、今までの作品に加えて、新作のお披露目をすることにした。
「ろくろでひいた、形が丸や真円のものだけでなく、型打ちして長方形や四角形のものも作ったんです。来年以降も、ちょっとずつ形を変えていきながら作っていく予定です」
そう健一郎さんが話すのは、「しのぎ」というシリーズの作品だ。「しのぎ」は、一回ろくろをひいた削り粉を水で溶かして練り直し、それから更にろくろをひくという作り方をしている。
更に、釉薬の種類を白磁と青磁の2種類に増やしたことで色違いのものが生まれ、このシリーズに新たな作品のラインナップができた。本来、青磁釉は基礎釉に鉄を混ぜて作るが、夫妻の青磁釉は、陶土を生成するときに不純物として出る鉄を陶土屋から譲り受けて作っている。まだ使えるものは、再利用して活かしていく姿勢は、エコにも関心が高い夫妻ならではのサステナブルな取り組みでもある。
(「しのぎ」シリーズ:大阪の個展で出品した新作)
大阪の個展では、コロナの影響で在廊(作家がギャラリーにいること)は叶わなかった。しかしその状況でさえも逆手にとって、コロナ禍ならではのリモート在廊に変更し、オンラインでの工房見学などを盛り込んだ夫妻らしいおもてなしが、お客様に好評を得ることとなった。
コロナの感染拡大は、多くの人に困難をもたらした。たくさんの人々が、働き方や生活の方法を変えざるを得なかった。現在もまだ、この暗いトンネルの中で出口を見つけることができない人達が大勢いることだろう。
そんな中、夫妻が取り組んだのは、自分たちにできることをコツコツとやっていくというシンプルな方法だった。逆境にあっても、できないことを見て立ち止まるのではなく、状況に応じて、自分たちならではのできることに変換していく。世の中が大変な時でも、前を向いて少しずつでも一歩一歩進んでいく。そんなしなやかな気概が、夫妻の歩みを後押しする力となっているような気がする。
今年のゴールデンウィークに実施される予定だった、有田陶器市と波佐見陶器まつりは、再び中止や無期限の開催延期となった。どちらも、今年こそはと開催に向けて準備を進めていたようだが、このご時世だ。残念ながら開催を見合わせざるを得なかったようだ。それでも、いくつかの窯元や商社が、ウェブ上で陶器市を実施して賑わっていたようだった。
その期間、夫妻の工房も、ホームページ上でウェブ個展と陶器市を開催した。4月29日の12時開始から瞬く間にSOLD OUTの文字が増えていき、夫妻の作品の人気ぶりがうかがえた。
今年の2月にも、あるツイートがきっかけで、二人の作品が大注目され注文が殺到し、ギャラリーの在庫も売り切れてしまったという。
このように人々を魅了する夫妻の作品は、どのようにして作られているのか?
作品作りにかける想いや、器づくりのアイディアから創作までのアプローチなど、二人のコンビネーションがなせる技を確かめてみたい。
次回では、魅力的な作品を創り続ける綿島夫妻の、作品作りの秘密に迫りたいと思う。
【スタジオ ワニ】
〒859-3701
長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1173
ホームページはこちら :https://studiowani.theshop.jp/
□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
福岡県在住。元地方公務員。まちづくりや地域を盛り上げるために頑張る熱い人々に、スポットライトを当てたい。
2020年9月より、天狼院READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
波佐見焼と出会い、そのデザイン性と機能性の高さに魅せられ、一気にファンに。
徐々に、自宅の食器を波佐見焼に入れ換えていくことを計画中。
波佐見焼と魅力的な職人のストーリーを、ぜひ多くの方にご紹介したい。
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