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メディアグランプリ

過去の私にサヨナラ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:白石明香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
鼻息荒く、自分の席に戻ってきた先輩。
美人で仕事のできる先輩が、珍しく興奮気味のご様子なので、私は内心驚いてた。
 
私に仕事を教えてくれた先輩である。ポイントを押さえた教え方は理解しやすく、すぐに実務に役立った。私がちょっと落ち込んだときは、すぐに察知して気遣ってくれて、さりげない優しさが身にしみた。お客様への接客も抜かりなく、常連客から愛されている。先輩は、人を育てる力とホスピタリティに秀でた、優秀な人なのだ。
 
そんな先輩だったけれど、会社や他の同僚への文句は人一倍で、聞いているこちらがネガティブになるほどだった。聞けば聞くほど、
 
「私は誰よりも会社のために動いているのに評価されない。良い方に変えようと努力したけど、裏目に出てやるせない」
 
そんな心の声が重く聞こえて、ときどき私の視界を曇らせた。
 
さらには、
 
「私が言える立場じゃないけど、試用期間のうちによく考えて、ここで働くかどうか決めた方がいいよ」
 
という、アドバイスとも批判とも受け取れる言葉をくれた。私はとても複雑な心境になった。会社に対する文句ばかり言う割に、辞めない先輩が不思議で仕方なかったからだ。
 
先輩のこのギャップはなんだろう。ひとりで勝手に心配しはじめる。そもそもなんで、こんなに先輩のことが気になるのか。え、まさか恋? 美人だから? 優しくしてくれたから? どれも違う。考えを巡らせているうちに、「先輩はまるで過去の私なんだ!」と気づいたのだった。
 
数年前まで私は、被害者意識が強く、文句ばかり言いながら働いていた、若干病んでる社員だった。成果を出せば出すほど報酬の出る、資本主義バリバリの環境から、片田舎の公務員の巣窟である組織で働いたのだった。ギャップが激しい。今思えば、一緒に働いていた人たちは、みんな個性的だったけれど、悪い人ではなかった。それに仕事内容自体は私に向いていたので、ただただ好きなことに没頭して過ごせばよかったのである。それなのに私は、「変えよう!私がどんどん動いて、組織を良い方向に変えよう!」と、でしゃばりすぎたのだった。
 
当時の田舎ではまだ、出る杭は打たれた。
 
私が頑張れば頑張るほど、周りの職員は怠惰に見え、私の歯がゆさは日々増幅した。それに、正々堂々と年上に向かって正論の意見を述べるので、日和見主義な上司を困らせた。挙げ句の果てに、天下りした元公務員のおじいさんを理論攻めにして、泣かせてしまう事件もあった。私の黒歴史である。
 
今振り返ってみると、私はその組織の一つのプロジェクトを整理するために就職したのだとわかる。それなのに、組織を変えようとか、上司が評価してくれないとか、仕組みが機能していないとか、周りのせいにばかりして文句を言っていた。なんて依存的だったのだろう。選んだのは自分なのに。
 
先輩を見ていると、そんな過去の自分とどこか重なった。聞くと先輩は、直近は外資系企業で働いていたらしい。今の会社で、改善提案をいくつもしたし、実際に行動もした。だけど、上司に突っぱねられたり、人間関係に裏目に出たりと、なかなか苦労したようだ。それを聞いてますます、先輩の気持ちがよくわかった。ただ私と違うのは、先輩は我慢してしまうということ。「私が我慢すれば、それでいい」そんな気持ちがあるから、会社を辞めたくても辞められないんじゃないか。出る杭は打たれたが故に、自分を押し殺してしまったのではないか。そんな風に見える先輩を、心のどこかで心配していた。
 
でも、他人を心配してもしょうがない。
 
数年前の経験から私が学んだのは、人を変えようとしても変えられないということ。むしろ、人を変えようなんてエゴでしかない。それよりも、自分が変わった方が早い。つい、先輩に上から目線でアドバイスしそうになるけれど、先輩は今の会社でやるべきことがあるから、辞めずにいるんだろう。そう思い直して、先輩を変えようとする私の気持ちを手放した。
 
それから数週間後、先輩は鼻息荒く、興奮した様子で、
 
「話の流れで、社長に辞めるって言ってきた」
 
と、衝撃発言。これまで溜め込んでいた思いをリリースできたすっきり感と、気持ちの高揚を先輩の全身から感じた。同時に私は心の中で、拍手していた。先輩はついに行動に移せたのだ。自分を取り戻しはじめたのだ。もう一緒に仕事できないのは寂しいけれど、次なるステージに向かう先輩を祝福せずにはいられなかった。次はきっと先輩らしく、もっと溌溂と仕事を楽しんでいるだろう。笑顔の先輩に、またどこかで会えるのを楽しみにしている。
 
 
 
 

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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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