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もう一つの参政権 ─私の市議会傍聴記─


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:長谷川高士(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ちゃんと選べ、なんてハードルを上げるからダメなんですよ!」
 
元大阪市長が語気を強める。
 
「誰に入れるか決め切れなければ白票でもいい、と言ってやればいいんです」
 
思わずテレビに見入る私。
「白票でもいい」とはどういうことか?
 
「税金はね、票をくれる所にまわるんです」
選挙に行くのは高齢者ばかり。だから高齢者のためにお金が使われ、票にならない若い子たちのことは考えない。
白票も実は投票率としてカウントされる。
「投票率さえ上がれば『いざとなれば、この若い子たちも反対に動くかもしれない』と政治家に思わせることだってできるんです」と橋下徹氏は続けた。
 
「白票はダメでしょ」
まっとうそうに反論する別のコメンテーター。
「橋下さんが言ってるのはそういうことじゃないじゃんっ」
一人でテレビにツッコむ私。
 
投票は、政治に参加できる権利である「参政権」のひとつ。
学校で習った。
でもそれは「当選させたい人」を選ぶこと。
そういうことだと思っていたし、そういうことだとしか思っていなかった。
 
誰かを選ぶのではなく、投票という行為そのものが政治に影響を与える。
自分がその小さな一部になり得る。
「斬新な発想」だと驚いた。
令和になって初めての参院選直後のことだった。
 
「議会を傍聴に来ませんか」
一人の地元市議が私をこう誘ってくれたのは、それから一ヶ月後のことだった。
 
「このポール、ウチの前にも立てたいんですよ」
横断歩道から車が敷地に乗り入れる危険な場所に、それ防ぐポールを立てた事例を彼女の活動報告に見つけ、私はその市議に相談していた。
彼女は現地を見に、すぐに会社を尋ねてくれた。
「ここは県道なので、県に依頼できるよう窓口に話してみます」
拍子抜けするほど、あっさりと解決。
そこからは世間話。コーヒーを飲みながら議員に立候補した経緯などを彼女に聴いた。
 
彼女は私と同世代。子育て真っ最中の一年生議員だ。
市議だった父親を見て育ち「議員にだけはなるまい」と思っていた。
議員としての大変さを「間近でいやというほど見ていたから」だそうだ。
三十年の時を経て、彼女はその思いをひるがえすことになる。
 
「子育てしながら働いてみて、働きづらさ、住みづらさを痛感したんです」
 
彼女は議員になることを決意した。
父親は意外にも「反対した」そうだ。
「議員にだけは……」という思いは、父娘共通の気持ちだった。
譲らぬ娘。
父は、一切の支援をしないこと、自身の引退から一期四年の間をおくことを条件に、折れた。
そうして彼女は当選した。
彼女が二世議員であることを知らない人の方が多いのだそうだ。
 
私は、彼女のことを、二世議員であることも含め知っていた。
しかし、その熱意の根源をまったく知らなかった。
「二世議員」という不相応なレッテルで彼女を見ていた自分を恥じた。
私は彼女の本質に興味を持った。
彼女が目指す未来に興味を持った。
 
「傍聴者がいると、議会の空気がピリッと締まるんです」
毎回、自分が質問に立つ「出番」を予め伝え、数名の市民を傍聴に招待しているという。
「今日は誰が来ているんだ、と議場がザワつくこともありますよ」
笑いならが彼女は続けた。
 
「面白い!」と思った。
「次の出番が決まったら、知らせてください。傍聴に行きます」と彼女に伝えた。
 
機会は、ほどなく訪れた。
メールで日時とともに届いた質問の内容は「産前、産後の支援」について。
彼女は、自分が目指すまちの未来に誠実だった。
 
市役所のエレベーターに乗り8階で下りる。傍聴者席のフロアだ。
受付で名前と住所を書き、注意事項の説明を受けた。
重厚な扉を二つ開けると、目の前に吹き抜けの議場が広がる。眼下には、座っている議員の背中が見え、奥には市長をはじめ市の重役がこちらを向いて座っていた。
 
「まずは、本市における現在の産前、産後の支援についてお尋ねします」
彼女の質問が始まった。
私を含む7名の市民が傍聴席で聴いている。
担当である健康推進部長は必要最低限に淡々と答えた。
彼女は丁寧に質問を重ねた。それは時に「長いな」と思えるほど説明的だった。
しかし、すべては彼女の作戦どおりだと、徐々に気づくことになる。
彼女が質問で引き出した事実は論理的に積み上げられていった。
そして、ぼんやりしていた話の輪郭がハッキリし始めたと思ったその時、彼女が動いた。
 
「モニターをご覧ください」
あるWEBページが、議場のモニターに表示された。
「ご覧の通り、市民病院で産後ケア入院がすでに実施されているということですが、いつからどのように始まったのか、教えてください」
 
この日の彼女の目的は「産後ケア入院」と呼ばれる行政サービスの実施について、その予定を引き出すことだった。近隣市ではすでに実施されていること、その予算額も決して高額ではないことに加え、この質問で一気に間合いを詰める狙いだ。
 
「市民病院では平成三十年度から利用者の要望を受けて、産後ケア入院のサービスを開始しました」
補助なしではあるものの、サービスの提供自体はすでに始まっていて、しかも一定の需要があったことが、答弁で明らかになった。
産後ケア事業を始めない理由が、もうない。
王手までの手筋が、その場にいる全員に、見えた。
私は、興奮して身を乗り出す。
彼女の持ち時間が残り2分を切った。
「それでは最後の質問です。産後ケア事業の実施予定について、教えてください」
「来年度内の実施を目指し、検討を重ねているところでございます」
 
王手は、ぬるっとかわされた。
隣の傍聴者と顔を見合わせ、無言で悔しさを分かち合った。
 
私たちは傍聴者でなく、挑戦への参加者だ。
市の重役は、彼女と他の議員と、私たちに向けて答弁した。
22名の議員の後ろにいつもいる7万市民の顔。その一部を実際の議場で見せたのだ。
投票率で存在を誇示するように、ほんの小さな一部かもしれないが、紛れないもない市政への参加。学校では教わらなかったもう一つの参政権を、生まれて初めて行使した。
 
来年四月、彼女は二期目の選挙にきっと挑戦するだろう。彼女が市議である限り傍聴を、いや「参政」を続けようと思う。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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