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バリキャリ女の劣等感


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「私、何やっているんだろう? 私の人生、これでいいの? もっとやりたい事をやったらいいんじゃない?」
そう思うとすーっと気が楽になった。そしてその日で「妊活」をやめたのだった。
 
私は人から見たら「バリキャリ」の部類だ。ほとんどの時間を仕事に費やしてきた仕事人間だ。そんな私だが、ずっと昔は「家庭的なお母さん」になりたくて仕方がない時期があった。
 
私は共働きの家庭に育った。母は、私が生まれてから仕事はセーブしていたが、それでもやはり忙しく、私は子供の頃から周りの友人の家庭とは違う雰囲気を感じていた。それが母への反発心に繋がったのだろう。私は結婚したら仕事はやめて、早く子供を持ち、母とは違う人生を歩むんだと思っていた。
 
そして、実際に結婚を機に会社を辞め、家庭におさまった。さぁ、次は子供だ。同じ時期に結婚した友人たちが次々とお母さんになっていくのを見て、自分も早く仲間入りしたかった。でも結婚して1年経っても妊娠しない。
 
私自身、両親が結婚してから6年経ってようやくできた子供であったので、ひょっとすると私は子供ができにくい体質なのではないか? 周囲も私自身もそう思うようになった。それで、病院で検査を受けることにしたのだ。
 
検査の結果は特に異常なかった。異常無しなら安心するところだが、そうは思えなかった。原因がわかれば次のアクションが起こせる。でも特段原因がないとなれば、今と同じままだ。だから、いくつか病院を渡り歩いた末、不妊専門外来のある病院で、タイミングをコントロールすることで妊娠の確率を上げる治療を開始した。ほぼ毎日病院に通い、注射を打ち、卵胞の様子を見る。当時仕事はしていなかったので、通院は難しいことではなかった。でも半日以上が潰れる。そして注射をした後は、何となく体がだるい。ただ、妊娠に向けて行動しているということが気持ちを支えていた。しかし、一向に妊娠する気配がないまま時が過ぎていった。
 
月の半分の時間は通院に費やし、「今月はうまくいくといいな」と期待しながら過ごした後、「あぁ、今月もやっぱりダメだった」と悲嘆する……それの繰り返しを何度経験したことだろう。いつのまにか私の人生の目標はただ一つ、「妊娠すること」だけになっていた。何となく怖くて激しい運動も避けるようになった。良いと言われることは何でもやってみた。でも、毎月期待は裏切られ、心が折れそうな日々だった。子育て中の友人達とは、時間も話題も合わなくなり、疎遠になっていった。
 
そんなある日。その日は車を点検に出していたため、珍しく電車で病院へ行くことにした。そして、駅で電車を待っている時のことだった。颯爽としたスーツ姿のOL、楽しそうに談笑する大学生達、何か楽器のような大きな荷物を抱えた若者。私と同じ年頃の彼女達を見て、私は急に自分だけ置いてけぼりになっているような孤独感を感じた。家と病院を往復する毎日、頭の中は常に「妊娠」の二文字に占拠されている生活。「一体私の人生は何なのだろう? これをいつまで繰り返すのだろう? 私はまだ27歳、まだまだ色々な挑戦や経験ができるじゃないか」
 
そして、その日を最後に治療を止めた。もう期待と失望を繰り返す日々を過ごさなくても良い、そう思うと一気に体が軽くなるような解放感を感じた。
 
私は、あの日の自分の選択を後悔していない。その後の自分の人生を振り返ると、子供ができなくて正解だったとも思う。ただ、子供がいないということは、人間として未完成のような、ある種の劣等感がある。子供を産み、育てた経験が無いというのは、大きなビハインドがあるように感じるものだ。例えば女性のキャリア支援に関わりたいと思っても、育児と仕事の両立という難関を乗り越えていない者に何が分かるのか? と思われるに違いない。私は「今の世の中が求める働く女性のロールモデル」にはなり得ない。
 
でも、それが私だ。私は育児の喜び、楽しさ、大変さは分からない。でも、存分に仕事に打ち込んだ時の充実感、夜遅くまで残業して仲間と一緒に突発のトラブルを解決した時の喜びや連帯感、大きなプレッシャーにさらされた時の辛さを知っている。転職活動中、仕事をしていなかった4年間の「空白」を理由に、採用を断られた時の悔しさも知っている。そんな私にしかできないことが世の中にはきっと有るはずだ。
 
昔、私は周りの皆と同じように結婚し、皆と同じように「お母さん」になりたかった。いつも、人と自分を比べてきた。そして、人に有って自分に無いものにこだわっていた。無いものを得るために努力もしてきた。結果が出なければ悲しかった。でも、これからは無いものにこだわるのは止めよう。今有るものを大事にしていこうと思う。そして皆と同じでなくてもよい。どちらが優れているとか劣っているとかではないのだ。ただ違いがあるだけなのだから。
 
 
 
 
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2019-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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