メディアグランプリ

空を跳ぶ人形劇

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松崎めぐみ(ライティング・ゼミ秋の9日間集中コース)
 
 
「いや、意味が分からない……」
その人形劇を始めて見た私の感想だ。
 
人形たちは剣を握り、矢を放ち戦っている。楽器を弾いている。そのスピードはもはや目が追い付かない。
そのうえ、空を跳びまわり、涙を流し、ときにはキセルを吸って白い煙を吐き出すのだ。
いったいこれはどうなっている? 私がその人形劇を友人に見せても、みな驚きの反応を見せる。
 
それは台湾から渡ってきた人形だった。
 
人形劇と言えば、NHKでやっていた、ひょっこりひょうたん島や三国志などを思い浮かべる人もいるだろう。私もリアル世代ではないが、少しだけならばそれらを見たことがある。腕の部分に細い棒が見えていて、人が下にもぐって捜査しているんだろうな……というのが一目でわかる作りになっているだろう。
だから会話劇が映えるのだ。ゆっくりと繊細に動く手の動き、首の動きに人はその人形の感情を読み取り、娯楽として楽しむ。
 
私の中で人形劇とはそれらの者を指すものであり、NHKが古くに放送してから、長い時間新しい人形劇というものを見ていなかったから、私の認識も古いまま止まっていた。
 
もしかしたら、新しい人形劇を日本に取り入れようとした虚淵玄(うろぶちげん)さんも同じ気持ちだったのかもしれない。
虚淵さんは日本のアニメ界で多くのヒット作で知られるクリエイターである。「魔法少女 まどかマギカ」や「fate/zero」などの有名作品に携わり、ファンの中では虚淵さんの名前を聞くだけで、どんな新作でも期待できるという絶大な人気を誇っている。
 
その虚淵さんがアニメの仕事で台湾にいったときに出会ったのが台湾の人形劇「布袋劇(ほていげき)」だった。台湾ではアニメと同様に布袋劇は一大コンテンツとなっているらしい。アニメイベントの会場でその映像を見た虚淵さんは「ぜひこの人形劇を日本人にも紹介したい」と思い、制作会社に連絡を取ったという。一方で布袋劇の制作会社も虚淵さんならば、と日本と台湾合作に新プロジェクトが結成された。
 
それでも、簡単にすべてのことが進んだわけではない。布袋劇は長い歴史があり、台湾の人にとって譲れない点がいくつもあった。一方で、虚淵さんは布袋劇を全く知らない日本人やこれから知るであろう人たちに向けて、今までの布袋劇を見ていなくても楽しめる人形劇を作りたいと主張した。結果、布袋劇の伝統を押さえつつ、日本のアニメファンが興味を引くようなデザインや脚本を作り、日本人向けの新たな作品「Thunderbolt Fantasy 東離剣幽」は生み出された。
 
そんな事情は知らず、私たち日本のファンは虚淵玄さんが新作を人形劇でやるという情報だけで、その作品の第1話を鑑賞した。
 
一言でいえば常識の全ては覆された。
 
まず、その人形は外から見れば、本当に美しい人形だった。とにかく布を何枚も重ね、多くの刺繍が施された美しい衣装に身をまとった人形はそれだけで芸術作品だった。白い肌に赤い唇。とにかくきらびやかだった。台湾からやってきた人形はとても美しく、それだけで多くの人が人形に興味を持つきっかけとなった。
だが、実際放送されてから、その人形たちは私たちの度肝を抜いた。
 
何重にも重ねられた裾をひるがえし、人形が雨の中を走ったのだ。あまりにも美しい人形が泥道を走っていく。そして追い詰められた人形は反撃のために剣を抜いた。
それからはまさに圧倒的なスピード感のある戦闘シーンだった。剣と剣がぶつかり合う。異形の敵が襲い掛かる。それをひらりと交わし、剣で敵を払う。
中には巨大な力を持つ敵に狙われ、大事なものを守るために必殺技を繰り出すが、力及ばず志半ばで倒れるものもいた。
その彼は死ぬ直前で唇から血を流していた。そして、無残にも爆発して死んでしまった。
 
そこでCMが入り、おそらく多くの視聴者が私と同じようにあっけにとられたに違いない。私など、口を開けたまま、その映像に見入っていた。
「いや、意味が分からない……」
あまりの衝撃と情報量の多さに私は何を見せられていたのかわからなかった。けれど一つだけ確信した。
 
これは新しい人形劇だ。
少なくともこのような人形劇は今まで日本にはなかった。細やかな動き、立派なセット。ここまでなら今まであった人形劇の延長として考えられる。けれど、目で追いきれぬほどのスピードで立ち回りを魅せる人形劇が今まであっただろうか? 宙返りし、跳ね回る。これほど躍動感のある人形が今まであっただろうか。
しかも、腕に棒はついていない。動かしている人間の痕跡は完全に消え入る。映像作品に見入っている私たちの目には人形が演じているようにしか見えないのである。
 
この人形だからできる脚本、無理難題の演出にこたえる制作会社。2つの異文化がそれぞれを認め合い、理解しあったからこそ生まれた新しい人形劇は、日本で多くの人を魅了している。テレビ放送は3回目が決定し、10月25日に2つ目の劇場版が発表された。
どうか、YouTubeなどで公開されているPVを一目見てほしい。
 
布袋劇「Thunderbolt Fantasy」通称サンファン。
今まであなたの中にあった人形劇の概念が覆されるだろう。
 
 
 
 
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2019-10-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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