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気持ち悪いの先には可愛いが待っている


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記事:松永 恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
2018年夏、ちょっと常軌を逸したある玩具が発売された。
カプセルトイ、いわゆるガチャガチャから『だんごむし』が発売されたのである。
 
販売が発表された時は、SNS等でちょっとした騒ぎになった。
コインを入れてハンドルを回すと、丸まったダンゴムシがそのままゴロンと出てくる。しかもサイズは全長14cm、実物の1000%。2年の歳月をかけて開発されたという話題性もあって、発表当日のtwitterに「だんごむし」がトレンド入りした。
発売と同時に全国で売り切れが続出、私も発売日に探し回ったが、結局手に入れられなかった。
 
やっと実物を手に入れられたのは2019年の夏。仕事仲間達とふと立ち寄ったドン・キホーテで見つけた。突如、狂ったようにダンゴムシのガチャガチャを回す私に、仕事仲間達はかなり引いていたように思う。
半年近くも探し回った玩具『だんごむし』と対面でき、感極まった私の感想は「なんて可愛い……!」だった。丸くコロンとしたフォルム、円らな目。裏返して細い脚を広げると、風の谷のナウシカに出てくる王蟲(オーム)を思わせる。なんと愛おしいのだろう……と溜息が出た。
 
この時点で、既にご不快な思いをされた方がいたら大変申し訳ない。ダンゴムシを気持ち悪いと捉える方もいらっしゃると思う。事実、玩具『だんごむし』を見せたほぼ全員が、女性も男性も含め「気持ち悪い」という感想だった。
 
けれど私は「はて、おかしい」と思った。誰も「可愛い」に共感してくれない。
思い立って友人・職場にアンケートを取った。男女十数人に見せて、気持ち悪がられ、何ならちょっと見せないで欲しいと言われたころ、やっと1人共感者を見つけた。23歳の女性である。
 
自分より20は年下の女子に詳しく聞いてみると、そもそも彼女は「ダイオウグソクムシ」が好きだった。
「ダイオウグソクムシ」、Wikipediaには「海生甲殻類の1種で、メキシコ湾や、西大西洋周辺の深海200~1000メートルほどの深さの海底砂泥地に生息。外見はダンゴムシのようだが、分類ではフナムシに近い」とある。
素養があったとしかいいようがない。彼女の中ではダンゴムシが可愛いという下地が出来ていた。
 
でもなぜ、私と23歳の彼女はダンゴムシを「可愛い」と思えたのか。何か共通点があったのではないか。そこで仮説を2つ立ててみた。
 
1つ目は、生まれた土地、環境によって耐性があったのではという説。
ダンゴムシは都会でもよく見るが、私や彼女は地方出身だ。地方では草むしりや畑の手伝い等、土に触れる機会が多く、地面からゴロゴロとダンゴムシが出てくる。家の中でも見かけるから、当たり前の存在に恐怖や気持ち悪さを感じなくなる。コロンと丸くなるダンゴムシに、愛嬌すら感じてくる。日常でよく見る愛嬌のある生物、として既に耐性が出来ていたのではないか。
 
2つ目は、知的好奇心が恐怖を上回った説。
初めてこの玩具『だんごむし』を見せた時に、大勢の女性は「気持ち悪いー!」と叫び声を上げたが、23歳の彼女は驚きつつ、スタスタと近づいてきてもっと良く見ようとした。男性の中にも気持ち悪いと言いつつ、手に取って丸めたり裏返したりと一通り触っていた人がいた。
それは好奇心が気持ち悪さに勝ったからではないだろうか。
 
どちらの説もありそうだ。女性と男性の感じ方はまた違うのかもしれないが、対称に対して深く知り、親しみや慣れを感じると、ときどき気持ち悪いが「可愛い」へと進化する例がある。俗に言う「キモ可愛い」である。
 
大変失礼ながら例を上げさせていただくと、タレントの出川哲郎さんはかつて、リアクション芸人として、女性が眉を潜めそうな芸を数多く披露し、嫌いなタレント1位として殿堂入りしていた。
しかし、彼は笑いのためにその芸風を全く変えることがなく、近年はその謙虚や素朴な性格が周知され、愛されキャラに変化。「キモ可愛い」として女性からも人気を得ている。
印象が変化し、嫌っていたからこそのギャップができ、「好き」「可愛い」へ変化したのではないだろうか。
そう考えると、私も元々ダンゴムシを気持ち悪いとは思っていたが、知ること、慣れ親しんだことにより、好ましい印象へと変化していったような気がする。そして、この玩具の開発の背景も調べて、知ったからであったからかもしれない。
 
少しこの玩具の開発者について説明したい。
開発担当、株式会社バンダイの誉田恒之氏は、そもそも虫が大の苦手だったそうだ。けれどダンゴムシの体の構造を真剣に研究し、「ダンゴムシの甲殻が、ひとつずつ幅が違うこと」を発見。最終的には「生物学的に研究した結果、自然界が作った設計図の素晴らしさを感じられた」とまでおっしゃっている。
深く知りつくすことでダンゴムシに造形美や曲線美などを感じ、アートとして感嘆するまでに気持ちが変化したのである。
この話を知って、少しこの玩具に興味が出てきた方もいるのではないだろうか。
 
気持ち悪いの先には可愛い、が待っている。
今まで気持ち悪いと思っていたものも、背景を知り理解を深め、興味を持つことで驚きや発見もある。
見方を変えることで、いつの間にか愛着が出て「可愛い」へと感情が変化しているかもしれない。
 
ちなみにガチャガチャの『だんごむし』は、販売元「株式会社バンダイ」によると、2019年6月時点で100万個を売り上げている。今日も全国のご家庭に100万匹のダンゴムシ(※注:玩具)が生息している。
 
 
 
 

出典:『ORICON NEWS』 2019/7/24記事 https://www.oricon.co.jp/special/53358/
 

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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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