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中年男性が“あいみょん”にハマるわけ


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記事:かもめ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
あいみょんのライブに行ってきた。
女子高生を中心とした若い女性であふれかえっているのだろうと思いきや、私と同じ、中年男性もチラホラ。以外と幅広い年齢のファンがいるようだ。
 
なぜ、中年男性にウケるのか。
ギター片手に歌う姿が、昭和のフォークソングを連想させるから、などと言われることがあるようだが、私の分析は違う。
あいみょんは、小さな頃から、父親のCDコレクションを好んで聴いていたらしく、その影響があるのだと思う。あいみょん自身、インタビューなどで浜田省吾、吉田拓郎、尾崎豊など、私と同世代の男性が青春時代に好んで聴いていたアーティストの名前をあげている。おそらく、父親が好んでいた音楽の傾向を無意識のうちに受け継いでいるのだろう。
ちなみに、あいみょんの理想の男性は、お父さんだそうだ。
きっと、私と同世代に違いない。
 
私も20代の頃は、お給料から結構な額を音楽に投入してきた。CDショップに入れば、駄菓子を買うようにCDを10枚まとめ買いするような生活をしていた。
それが、年と共にいつしか音楽から離れ、心の底から震えるような曲に出会うことがなくなっていった。同級生の友人に聞くと、皆だいたい同じだったので、年のせいかなと思っていた。
そんな中出会ったのが、何気なくラジオから流れてきた「生きていたんだよな」という曲。これが、デビューシングルだという。当時21歳のあいみょん。
おじさんになってから、こんなに若い子の作る曲に感動するなんて驚きであった。
 
「生きていたんだよな」は、飛び降り自殺をした女子高生をモチーフにした曲である。
良識のある層からは、自殺を礼賛しているなどという、ある意味予想通りの批判もあったという。
確かに、自殺した女子高生を美化しているようにもみえるのだが、素直に聴けば、必死で生きていた女子高生に対する精一杯のレクイエムであることがわかる。自殺の礼賛などではなく、むしろ、生に対する最大限の肯定なのだ。
 
私は、この曲を聴いたとき、黒沢明の「生きる」という映画を思い出した。
事なかれ主義で無気力な毎日を送っていたお役所勤めの男性が、ガンで余命いくばくもないことがわかってから、真剣に生きることを模索する、という映画である。
生まれてから死ぬまで、生物として生きていることは皆同じだ。
しかし、惰性で日々過ごしている人と命がけで真剣に生きている人とでは、「生きる」意味がまるで違う。
本当の意味で「生きる」というのはこういうことなのだ。
「生きる」と「生きていたんだよな」は、同じことを語っているように思う。
 
いつの間にか、私は、あいみょん中毒になっていた。
 
あいみょんの歌は、刺激的というか、あえて挑戦的な表現をしているようなところがある。
「貴方解剖純愛歌~死ね~」は、タイトルからして過激であるが、歌詞はもっと過激である。
両目をくり抜くとか、心臓をえぐり取るだとか……
ライブだと、「死ね~」というサビの部分を皆で大合唱することになる。
猟奇的と評されるのも、当然か。
しかし、あいみょんの歌い方、メロディ、歌詞全体を聴くと、「死ね~」というのは、愛しているという意味にしかとれない。普通の女の子が、大好きな男の子を想うどうしようもない気持ちを歌った歌なのだ。
わかる人にだけわかれば良い、という挑戦なのかもしれないが、あいみょんはメジャーであり、流行に敏感な女子高生に圧倒的にウケている。
 
あいみょんが幼い頃、クレヨンしんちゃんを観ていたとき、岡本太郎作の太陽の塔が出てきた。大阪万博のシンボルである。
これを見て、あいみょんは、「なんだこれは」と気になって仕方なかったという。
岡本太郎は、「芸術は爆発だ!」というCMが有名だが、生前、「なんだこれは」と思わせるものが芸術なのであり、そういったものを作りたいと語っていたという。
あいみょんは、岡本太郎に傾倒し、いつか大阪の万博会場でライブをやりたいと語っているらしい。
そして時が経ち、あいみょんは、クレヨンしんちゃんの映画の主題歌に「ハルノヒ」という曲を提供した。
すべてにおいて素晴らしい曲なのだが、例えば、「大切を増やしていこう」というサビの部分。
「大切」も「増やす」も、小学1年生でもわかる言葉である。
映画を観るのは、もちろん子どもたちがメインだ。
「大切」という言葉で、子どもたちは何を思い浮かべるのか。
大切な人、大切な物、大切な想い出……
そんな大切な何かをフワッとくるんで、それを、もっともっと増やしていこう、と歌っている。
川端康成の雪国の冒頭、「夜の底が白くなった」はあまりにも有名なフレーズだが、あいみょんの歌にも、誰でも知っている簡単な言葉で、心の引き出しを開けてくれるフレーズが溢れている。
あいみょんの歌には、深い文学性、芸術性があるのだ。
 
そして一方では、良識ある大人が聞くに堪えない過激な言葉を連呼し、挑発する。
あいみょんは、フォークシンガーではない。時代を挑発するロックンローラーなのだ。
 
 
 
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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