メディアグランプリ

なぜ、店でビールを飲むと家電が売れるのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:櫻木 隆志(ライティング・ゼミ特講)
 
 
新潟市にある小さな街の電器店の話である。
自分でビールサーバーを手作りしてしまうほどのビール好きで、特に自他ともに認めるクラフトビールマニアの社長と、元モデルの奥様という2代目夫婦が営む店である。
 
その店のキャッチコピーは「売る気がない電器店」
 
その店では、まさに「売る気がない」イベントが行われる。電器店の店頭をバル化して、昼間からお客さんと一緒にクラフトビールを飲む「昼間っからセンベロ祭り」というイベントをしたり、店の前に全長20メートルの巨大なそうめん流しを作って地域の子供たちを呼ぶイベントをしたりしている。
 
そんな電器店が、非常に人気の店になっている。
「売る気がない」のに、非常によく売れる店になっている。
 
そんな店の話である。
 
ちなみに私は、全国の「街の電器屋さん」をサポートするために、セミナーを行ったりブランディングのお手伝いをしたりしている。その社長は、2年程前に東京で行ったセミナーに来てくれた。30代半ばの彼の風貌は、ニット帽にサングラス。「おいおい、ここはセミナー会場だぞ。そもそも室内だぞ。」と内心思ったが、その風貌がツッコませない雰囲気を醸し出していた。一つ言えることは、とても電器屋さんの経営者には見えないということだ。聞けば、来る日も来る日もスノーボードに明け暮れていたという「元スノボ少年」ということだった。まさにそんな感じの風貌であった。
 
セミナーの目的はブランディングであった。そのためのキャッチコピーづくりの場面で、たくさんの質問に答えてもらった。
 
・仕事をしていて一番うれしいのはどんな時か?
・お客さんに言われて一番うれしいのはどんな時か?
・自店はお客さんにとってどんな存在でありたいか?
 
などなど、かなり心の深いところに問いかけるような質問である。このような質問に答えてもらうことで、その人の根っこにある想いが出てくるからだ。
 
私はその時参加されていたメンバーの中で、新潟から来ていたその社長が一番心配だった。スノボ少年のようないでたちでセミナーに来るような人である。きっと質問の答えも小学生のようなものじゃなかろうかと思われた。
 
しかし予想はみごとに裏切られた。
 
彼が書き出していた答えには、次のような言葉が並んでいた。
「安心」「あたたかい心」「夢」「幸せ」「笑顔」「家族」「ありがとう」……
 
人は見かけによらないのだ。
 
そして、多くの質問に答えてもらった上で、自店を表す1行のコピーを考えてもらったのだが、彼が書いた一文は次のようなものだった。
 
「心が豊かになる人をつくりたい」
 
私はセミナー会場を歩きながら、参加者が書いたコピーを見て回っていた。彼のコピーもサラッと見て次の人に視線を向かわせようとしたが、私の視線はバックせざるを得なかった。彼のコピーを二度見した。いや、三度見した。外見はスノボ少年のような彼だが、内面ではそんなことを考えていたのである。
 
その後、彼とじっくりと話をした。本当はどんな想いで商売をしているのかを聞いた。見た目に惑わされることなく、彼の中の本当の声、心の声に耳を傾けた。そんな中で出てきたのが、次の一言だった。
 
「僕、商品を売る気がないんです」
 
つまり、彼はお客さんの心を豊かにしたくて電器屋さんをやっているのである。彼にとっては、テレビや冷蔵庫、洗濯機やエアコンを売るのは、そのための手段なのである。
 
私たちはそんな彼の内面がお客さんに伝わるように、彼の店の「取扱説明書」を作った。
 
その表紙には大々的に
「実はうちの店、商品を売る気がないんです」
と掲げた。そしてこのように続けた。
 
この店の使命は、
「関わる全ての人の心豊かな人生のお手伝い」
そんなことを大まじめに考えている2代目夫婦のお店です。
 
電器屋さんなのに、商売をしているのに、
「売る気がない」などと宣言していいのだろうか?
 
そんな不安は小さくなかった。しかし、彼の心の一番中心にある想いを伝えるには、そのコピーがベストだと考えた。そしてその取扱説明書が完成し、店の40周年イベントの時にすべての顧客へ配った。
 
彼の姿勢はお客さんに受け入れられた。
 
「こんなこと書いて大丈夫なの~?」
と言いながら、お客さんの方からすすんで注文をしてくれるようになった。
 
メーカーとの関係や、グループ・系列の店の関係で、モノを売るための活動をしないわけではないが、基本的に彼は自分からモノを売っていない。本当にそのお客さんのためになると思われるものだけを売るようにしている。
 
そして「販促」的なイベントは極力減らして、冒頭で紹介したような「売る気がないイベント」をするようになった。
 
お店で一緒にビールを飲むイベント。巨大そうめん流しのイベント。彼の趣味のバイクを飾って眺めるイベント。彼の奥さんが小学生の頃から集めてきた「ブタちゃんグッズ」を店内のあちこちに隠してそれを探す「宝探しイベント」。
 
どれも見事に「売る気がない」。しかし、商売の調子がいいのである。業績は伸び続けているのである。新規客も増え続けているのである。
 
彼は、初めて利用してくれたお客さんに、こう聞くようにしている。
「どうしてウチの店を選ばれたのですか?」
 
すると、このような答えが返ってくるそうだ。
 
「だって、ビールの人だよね」
 
「だって、そうめんの人だよね」
 
「ビールの人」って何?
 
お歳暮のころに現れる「ハムの人」なら聞いたことがあるが…。
 
全くもって意味不明である。
「ビールのイベントをした人だから、その人からテレビを買う」という因果関係は、「風が吹けば桶屋が儲かる」以上に分からない。しかし、ビールのイベントをしてから1年以上経った今でも、そう言って彼の店のお客になる人が絶えないのである。お客さんの笑顔が絶えないのである。そして誰よりも、彼自身が本当に楽しそうなのである。
 
戦後復興期から高度成長期の頃の日本においては、電器屋さんの使命は電化製品を売ることだった。しかし今の時代は、そのような使命の店の存在意義は薄れている。令和の時代は、令和の時代なりの「存在意義」を明確にして打ち出すことが大切なのだろう。
 
そして令和の時代に繁盛するための秘訣は、営業力やマーケティングではなく、差別化やポジショニングでもないのかもしれない。
 
その鍵は、その人の内面の深いところにあるのかもしれない。
その人の心の中心にある「想い」の中にあるのかもしれない。
 
元スノボ少年で、今は「ビールの人」と言われる彼が経営する電器店は、お客さんを笑顔にして、地域を元気にしている。こういう店が増えれば、令和の時代は今より少し幸せな時代になるはずだ。
 
 
 
 
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http://tenro-in.com/zemi/102023
 

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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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