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メディアグランプリ

私が「鹿児島の人」として拒絶された話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森山祥子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「東京の人って冷たいよね」
と、経営するゲストハウスに来る海外のお客さんによく言われる。
「鹿児島の人はすごくフレンドリーだ、それにひきかえ……」
と。
一見しただけでは、あるいは、そうなのかもしれない。
しかしどうも皆、本物の東京を目にしながら、それ以前に見聞きしてきた「東京の人」のイメージに引きずられている気がしてならない。
 
「鹿児島の人」のイメージもまあまあひどくて、旅先の居酒屋で、
「どこからきたの」
「鹿児島です」
「あらあら遠いとこから。じゃあお酒強いでしょ」
と、頼んでもいない地酒が出てきたりする。
でも私の知る限り、お酒を嗜む鹿児島人の多くは、日本酒にはあまり強くない(好きだけど)。
たぶん、血管に芋焼酎が流れているせいだ。A型の人間にB型の血は入らない。
サービスやご献杯を断るのも……、と注がれるまま飲んでしまうと、土地の人の期待を裏切り、あっと言う間に「ギブアップ」となる。
 
実は、「鹿児島の人」だと名乗ったら、激しく拒絶されたことがある。
 
旅先で、地元のおばあさんに声をかけられた。大ぶりなリュックをからってよそ者丸出しだった私が気にかかったらしい。
初対面なのを忘れるくらい、にこやかで親しげな人だった。若い人が興味を持って足を運んでくれて嬉しいと、土地の見どころをいくつも教えてくれた。それはぱきぱきと饒舌で、楽しげで、とめどなく、情感たっぷりで、地元愛がびしびしと伝わってきた。
ところが、
「あなたどこから来たの?」
と訊かれた私が
「鹿児島からです」
と答えた途端、おばあさんは小さな悲鳴をあげ、言葉を失くしてしまった。
うっかりしていた。というより、軽視していた。歴史と因縁については齧って来たというのに。
会津若松に育ったおばあさんにとり、鹿児島の人間は、
「女子供にも容赦なく狼藉を働き」
「会津藩士を文字通り切り捨てにし」
「その埋葬を禁じさえした」
戊辰戦争の敵方の末裔なのだ。
こちらも言葉が見つからずにいると、おばあさんは、動揺して私と目を合わせるのもままならないのに、
「最近の若い人たちはもうあんまり気にしないのかもねえ」
と無理に笑ってみせた。
それでやっと私の方も、鹿児島の人間だからこそ、戊辰戦争を反対側から見てみたいと思って来たのだと話した。きっと、鹿児島の学校で教わったのとは、見え方聞こえ方が全然違うと思うから、と。
あとの話はあまり弾まなかった。曇ってますね、今日は降るかなあとか、そんな当たりさわりのないことばかり。視線もうまく合わない。あんなに身を乗り出すように喋っていたのに。
ふいにリュックにチョコレートがあったのを思い出し、取り出しておばあさんにすすめてみた。
コンビニで買った、紙箱入りのアーモンドチョコレート。おばあさんがこちらを見た。困らせてしまったかと不安になったけれど、ややあってその表情が、少しだけほぐれたのがわかった。ありがとう、とはにかむように言い、ゆっくりとひと粒とり、口に運んだのを見届けて、私もついでにひと粒つまんだ。
初対面の旅人とおばあさんが、早朝の道端で、向かい合ってチョコを食べる。さすがに何となく、笑いあうしかなかった。
すると今度はおばあさんの方が、思い出したように手提げを探り、
「そう言えば、このあいだお土産にもらったの、最後の1個が……」
言いながら差し出されたのは、ひよこまんじゅうだった。ちっぽけなチョコのお返しとしては贅沢すぎる気がしたけれど、素直に頂戴し、いつになく丁寧にお礼を言った。心を許してくれてありがとう、というつもりで。
別れ際には笑顔を交わせた。
手を振りながら、「気をつけてね」と、おばあさんは言ってくれた。
 
学校の教え方とか、気風の問題だとは思わない。
これまでおばあさんに、本物の鹿児島人と触れ合う機会がなかった、問題はその不運だけだ。
もっと早く、私のようなごく普通の鹿児島人と言葉を交わしていたら。
話に聞かされてきた鬼のような「薩摩人」のイメージを、もっと早くに拭い去ってやれたかもしれないのに。
 
出会いの面白さに魅了されたから、これまで旅を重ねてきた。
それが今度は、出会いの意味深さも知ることになった。
 
ほんのひとときでかまわないのだ。
駅に居合わせたり、行列で前後になったり、ツアーで一緒になったりした時、ちょっと言葉を交わすだけ。そんな出会いひとつで、例えば海外の人にも、「東京の人」が別段冷たくもないことがわかるはずだ。そのあと彼らが東京を歩くことがあれば、すれ違う人の顔にも、もっと血が通って見えることだろう。
 
だから、もっとたくさんの人に、あらゆる土地の上を行き交ってほしい。
百聞が一見に如かないなら、こちらから見せに行けばいい。
誰かが遺した悪いイメージも、あなたの笑顔ひとつで上書きできるかもしれない。
私ばかりが旅をしている場合じゃない。
 
旅をしよう。生まれた土地ごと愛されるために。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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