メディアグランプリ

良いプレゼンに必要なのは「パセリ」だった


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記事:井上敬介(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「できたぞ……!」
 
仕事の合間を縫って、時には家にも持って帰りながら、3週間ほどかけて出来上がったプレゼン資料を見返して、僕は軽く興奮していた。
 
必要なデータを揃っているし、それを見やすい形にレイアウトすることも出来ていたし、
聞き手が受け取りやすいよう、しゃべる言葉なども台本に起こしている。
 
以前のプレゼンの結果が散々だった時、会社の出来る先輩に「お前はもっと論理的に物事を伝えるスキルを身につけなさいよ」と言われたことがきっかけで、「ロジカルシンキング」の勉強も一生懸命した。
 
そのおかげもあって、自分で言うのもなんだが、なかなかに理路整然とした、良い資料ができたと思う。
 
自分の中でもなかなかの手ごたえがあった。
新卒で入社して2年、ここまで頑張ったことはなかった。
 
「もうこのプレゼンは、通っちゃうかもな……」
 
そんな思いが頭をかすめたが、そこでいったん立ち止まり、念には念を。
先ほど登場した先輩にチェックしてもらうことにした。
 
「先輩、今度のプレゼン、僕自信があるんですけど、ちょっと見てもらえませんか?」
 
「お、やる気満々だね。どれ、見せてみて」
 
先輩はプレゼンのチェックを快諾してくれ、そこで作りこんできた資料を披露した。
 
が。
 
「うーん……」
 
浮かない表情の先輩。
 
あれ? 何かまずいところあったっけ?
 
「先輩、どうかしましたか?」
 
「うん、大筋は良いと思うんだけど、なんていうのかなあ……」
 
「何か思ったことがあったら、ズバッと言ってください。僕は大丈夫なので」
 
「……んー、なんていうか、遊びがないんだよね」
 
遊び???
 
?が3つくらい頭に浮かんだ。
 
「どういうことでしょう」
 
「以前に比べたら確実にロジカルに伝えられてるんだけど、聞いてる側からすると、なんだか疲れちゃうんだよね」
 
おいおいおい!
 
こちとら「もっと論理的に」って言われたから、そこをきっちり詰めてきたんじゃないか!
それがなんだこのヤロー!
 
なんてことは言えるはずもなく、
 
「もうちょっとかみ砕いて教えてもらえませんか」
 
と聞いた。
 
先輩はとうとうとしゃべり始めた。
 
「うん。 なんていうかプレゼンって、ロジカルに分かりやすく伝えることと同じくらい、聞き手の興味関心をキープさせることが大事になってくるんだよ。
 
そういう時に必要なのが、遊びなんだよね。
学校とかでも、授業が上手い先生ってたまに雑談を入れたりしてたでしょ? ああいうの。
本筋からちょっとだけ外れる、無駄な話っていうかさ。
 
そういうのがあると、プレゼンのリズムがちょっと変わって、聞いてる側に『あれ、なんか変わった?』って刺激がいくんだよね。 そうすると、興味が持続するんだよ」
 
なんだか分かるような気がする。
 
学生時代、教科書をただ読み上げるような先生の授業は、恐ろしく退屈だった。
逆に、授業の途中で生徒に話を振ったり、一見どうでもいい話をして空気を柔らかくしてくれる先生の授業は飽きることなく聞いていれたけど、そういうことなのか。
 
先輩は続ける。
 
「一見無駄なものがちょっと入ってる方が、収まりがいいんだよね。 なんでもさ。
例えばさ……お店で鶏のから揚げとか、ポテトとか頼むと、パセリがついてるじゃん」
 
「パセリ? ああ、ついてますね」
 
「あれ、食べる?」
 
「いや、ほとんど食べないです」
 
「なんなら最初から入れなきゃいいのにって思わない?」
 
「確かに、パセリがあってもなくても、自分は別に何とも思わないかもしれません」
 
「そうだよね。でも……パセリって乗ってるじゃん。 あれって何か意味があると思う?」
 
「うーん、そう言われると……
揚げ物だけだとお皿に彩りがなくなるから、それを補ったり、とかですか?」
 
「うんうん! それもあるよな! 他には?」
 
「……口直し的に使えたり?」
 
「そうそう。 あんまり食べられてない、無駄なものに見えるパセリにも、そういう役割があるわけだよ。
 
プレゼンの内容も同じ。
伝えたい内容がちゃんと伝わるのって、から揚げとか、ポテトが乗ってるだけなんだよね。
 
食べるかどうかはわからないけど、パセリも添えてあげた方が、なんとなく美味しく見えるんだよ」
 
そんなアドバイスを残して、先輩は「あとはまあ頑張れ!」と行ってしまった。
 
先輩の話を聞いてから改めて資料を見返してみると、確かに自分が今回作った資料は「こうだからこう、だから、こうすべき」みたいな、伝えたい内容がしっかりと載っている、悪く言うと、ただそれだけの資料になっていたように見えた。
 
だから、それから数時間かけて「パセリ」を足した。
本筋を補完するような例え話とか、ちょっとした余談のようなものだ。
 
そこからまた台本を作りなおし、しゃべる練習をしているときに気が付いた。
 
あ、パセリがあると話しやすいかも……。
余談などが入ることで、話すテンポが変わり、そこで一呼吸おけるようになるのだ。
多分、この方が聞いている側も、聞きやすいかもしれない。
意外なパセリの効能に驚いた。
 
それから2週間後、僕はそのパセリを入れたプレゼンを行い……
初めて提案が採用されたのだった。
 
パセリ、すごい!
 
心の中でガッツポーズをしながら、先輩に
「パセリ、すごかったです。 プレゼン通りました! ありがとうございました」
とLINEを送ったら、
 
「パセリ?? とりあえず、おめでとう!」
と返信が来た。
 
先輩にとってはあのたとえ話も「ただのパセリ」だったのかもしれない。
それでも僕はそんな「パセリ」に感謝している。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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