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メディアグランプリ

Mとの遭遇 〜愛と熱狂の一日~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事: 近藤 泰志 (ライティングゼミ平日コース)
 
「お待たせいたしました。お待たせしすぎたのかもしれません」
 
その男性は独特のかん高い声と共に黒のスーツをビシッとオシャレに着込んで登場した。
会場は彼の登場に待っていましたと割れんばかりの大拍手。
鳴りやむことのない拍手の中、彼は会場前方のマイクを手に取って皆にこう挨拶をした。
 
「村西とおるでございます。本日はようこそお越しくださいました」
 
そう、登場したのはあの村西とおる監督、その人だ。
僕は今、枚方市のTSUTAYAで村西監督のトークショーに参加している。
僕の数メートル先に、憧れの村西監督がいる……なんて素晴らしいのだろう。
 
僕を含めた参加者は監督が次に発する言葉を今か今かと待っていると、それを察したのか監督は饒舌にこう語りだした。
 
「本日お集りの殿方、そしてお嬢様方、誠にありがとうございます。みなさんとこうしてお逢いすることができたこと、これはまさにナイスですね……と言わずにはおれません」
 
会場は大興奮だ。
 
「ナイスですね」の6文字で参加者のハートを鷲掴みにできる人なんて世界中探してもきっと村西監督だけしかいないだろう。監督の口から直接この「ナイスですね」を聴けただけで、満足だ。僕は今日この場にいれることを神に感謝した。
 
しかし、そんな僕の幸福感をさらに上書きしてくれるかのように、トークショーは始まった。
まずは、現在世界中で大ヒットしている監督の半生を描いたドラマ『全裸監督』の裏話から話しくれた。
 
監督はとある事件をアメリカで起こしたのだが、その独特のキャラクターを現地の裁判官に気に入られて裁判で判決の時にこう言われたのだそうだ。
 
「ミスター村西、君はとてもいい奴だ。日本に帰国しないでいつまでもアメリカにいてくれないか?」
 
「どのぐらいですか?」
 
「そうだな、懲役370年でどうだろうか?」
 
皆、大爆笑だ。
 
いつまでも笑っている皆を見ながら、監督はにこやかにこう話しを続けた。
 
「僕はあの時ほど、死刑というのがどれだけありがたいことかと思ったときはありませんでしたよ。だって1回死刑になれば日本に帰れます。ところがです、懲役370年ということは3回死刑になっても帰国できないわけですよ。もう我ながらなんという人生だとわが身を呪いました」
 
楽しそうに話されているが、会場にいた中で監督以外誰一人として懲役370年は食らったことないだろう。この人はとんでもない絶望と数えきれないほどの失望の中で今日まで生きてこられたのだろうなと僕は思った。
 
その後も監督は色々な話をノンストップで1時間してくださったが、そのほとんどが放送禁止の内容ばかりですべてを紹介していたら監督ではなく僕が通報されて捕まってしまう可能性大なので、ここは上記のエピソードを紹介することだけで勘弁して頂きたい。
 
トークショーが終わり、サイン会と握手撮影会が始まった。
 
監督は一人一人の参加者に丁寧に対応をされながら、著書にサインを書き、記念撮影に応じてくださった。50人近くいただろうか、順番を待っている人たちも誰一人待たされることに不満を感じている様子は微塵もない。むしろ監督との至福の時間を今か今かと子供のような顔をして待ちわびている。とても幸せな時間が会場を包んでいた。
 
そして待つこと30分、ついに僕の順番がやってきた。
 
手渡した著書に丁寧にサインを書いてくださる監督と僕は少しお話をさせていただくという幸運な機会を得ることが出来た。
 
「今日は、ほんとうにありがとうございました。僕はどんな形でもよいので監督にこうしてお目にかかることを30年前から望んでいました。そして今日、叶いました。今日は僕の人生で最良の1日です」
 
「30年前からですか。親戚でもなんでもないのに……私のような極悪人に逢いたいなんて言ってくださって、本当にありがとうございます」
 
「監督が50億の借金を背負われた時、僕は失礼ながら監督はもう遠くに行ってしまうのではないかと思っておりました。しかしこうしてお逢いできました。いつか逢える……と諦めずに思ってきて本当に良かった」
 
「ありがとうございます。あきらめなければどん底からでも這い上がれるんですよ」
 
「はい、ありがとうございました」
 
丁寧に著書にサインを書き、立ち上がった監督は僕の肩に手をまわして記念撮影に応じてくださった。そういえば監督はもう数十回も立ったり座ったりを繰り返している。そして僕の後にも数十人が順番を待っている。御年71歳。こんな丁寧な対応を参加者全員に嫌な顔一つせずにしてくださるのだ。何をするにも真摯で一生懸命な人なのだ。
 
記念撮影を終え、最後に握手をしていただいた。いくつもの絶望を味わいながらも不死鳥のごとく蘇った監督の手はとても暖かかった。
 
トークショーが終わり、サイン入りの著書を大切に胸に抱えながら僕は先ほどの監督との至福の時間を思い返しながら書店を後にした。
 
「人生って……ナイスですね」
 
僕はそう言って微笑んだ。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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