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別姓とアイデンティティ


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記事:飯沼佐代子(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「どうして夫婦別姓なんですか?」
別姓だと説明すると、時に聞かれることがある。答えは単純で、私たち夫婦が結婚する時、どちらも自分の名字を変えたいとは思っていなかったからだ。
 
法律的には、どちらの姓を選んでもよい事になっている。にも関わらず、私たちが結婚した15年ほど前の時点では女性の側の姓を選んでいるカップルはたったの8パーセント程度、その多くがいわゆる「婿養子」であり、後継ぎのいない女性の家をお婿さんになる人が継ぐという形だった。
 
つまり「どちらの姓を選んでもよい」にも関わらず、9割以上のカップルは男性の姓を選択していた。男女平等という基本原則の下で教育を受け、高校、大学と進学した多くの女性の友人たちの中で、結婚と同時に男性の姓に変わることに疑問を持つ人はそう多くは無いようだった。
 
私自身は、「自分の名前が大好き」という訳でもなかったが、子どものころから名字や名字をもじったあだ名で呼ばれることが多く、「さよこ」というやや古風な下の名前で呼ばれることがあまりなかったこともあり、自分の名字が変わることには大きな違和感を感じていた。
 
また、大学時代の友人からフェミニスト思想の影響を受けたこともあり、「なぜどちらの姓でも選べるのに、ほとんどの夫婦が男性の姓を名乗るのか」ということに納得がいかなかった。男性の姓を無条件に選んでいく背景には、家父長制といった古く重く女性の自由や尊厳を縛る考え方があるのではないかと感じていた。
 
結婚した相手は、地方出身の長男だったが、既に結婚した弟がいて、その家の名字はそこに引き継がれていた。私はというと、特に受け継ぐものもない東京近郊市街地のサラリーマン家庭の3人目の子どもで、兄と姉がおり、やはり家や名字を継ぐ必要は無かった。
 
結婚相手には、以前から結婚しても名前を変えたくないことは伝えてあり、それは理解してもらっていた。相手の両親は、どう思うか。それが一番難しい点だと思っていた。しかし、義理の両親は特にそのことについて異論をはさむことはなく、内心はどう思っていたのかわからないが、私の考えを受け入れてくれた。
 
法的にはまだ認められていない夫婦別姓を選択する場合、ふたつの方法がある。
一つ目は、事実婚。婚姻届けを出さず、法的には結婚しないという方法。二つ目は入籍して戸籍上はどちらかの姓になるものの、通称として旧姓を使い続ける方法。
 
私たちの場合、当初は事実婚を考えていたが結婚直後に夫がアメリカに1年間の研修に行くことになり、ビザの関係で入籍しておいた方が良いということになったため、結果的に入籍して通称別姓とすることになった。
 
その際、男性側の姓ではなく、女性側の姓を使ってもらうことにした。その理由は冒頭に書いた、9割以上の夫婦が男性の姓を選んでいることに対する私のささやかな抵抗だった。ほんの僅かでも、女性の側の姓を使う例を増やしたいと思った。
 
夫はその後、通称別姓で自分の姓を使い続けたが、パスポート、免許証、保険証など公式の生類は全て私の姓を使わざるを得なくなり、申し訳ない気持ちはあった。
その後生まれた娘も、夫と同様に本名で私の姓、通称では夫の姓を名乗っている。保育園、小・中学校でも、二つの名前があることで特に不便だったことは特になかった。大きくなって、自分の好きな方の姓を選べばよい、そう考えて両方の姓を使えるようにしてきた。
 
結婚当時、もしかすると近く選択的夫婦別姓法が通るかもしれないという淡い期待があった。選択的夫婦別姓というのは、それぞれの夫婦が同姓か別姓かを選ぶことができるというものだ。しかし結局、その後15年以上たっても、選択的夫婦別姓は制度化されていない。
 
保守的な人たちの中には、「家族の一体感が損なわれる」という意見もあるが、最近の世論調査では69パーセントの人が選択的夫婦別姓に賛成と答えているという。もしかすると、今度こそ選択的夫婦別姓が認められる日が来るかもしれない。
 
私たちはというと、娘が中学生になり、通称で使ってきた父方の姓を本名としたいと考えていることや、夫のパスポート切り替えの時期が近づいてきたことをきっかけに、ペーパー離婚をすることを検討している。
 
ペーパー離婚によって事実婚関係に変わり、通称別姓ではなく、それぞれが旧姓を本名として使い続けることができる。
私たちは籍には特にこだわりがなく、入籍してもしなくても良いと思っているが、それぞれの名前を使い続けたいと思っている。家族の中に複数の名字があってもいいし、どんな選択をしても自由だ。
自分の姓を使い続けたいという女性が、もっと自由に選べるようになることは、男性側の意識もきっと少し変えて行くだろう。
 
男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数が153ヵ国中121位で先進国としては最低という日本の状況を、ほんの少し変えて行くのにちょっぴり貢献できるのかもしれない。
 
 
 
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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