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大いなる勘違いが自分の未来を手繰り寄せる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:木内文昭(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「あなたがA大学受かるなんて、まああり得ないよね 」
高校3年生の春に、どこの大学に行きたいのか? という話をサッカー部のマネージャーとしていた。
俺はA大学行きたいんだよね、と答えた途端のカウンターパンチだった。
 
行きたい大学を言ったその瞬間、マネージャーからごく当たり前な感じで否定されて
内心はらわたが煮え繰り返った。けれど、僕は何も言い返せなかった。
 
小中高と同じだった彼女は、その時僕の行きたかったA大学付属の短大に推薦で入学が決まっていた。
これから自分が迎える受験勉強がない、という余裕のある感じが自分とは対照的だったが、
全く努力してこなかった自分は何も言えなかった。
 
僕は部活を引退するまでサッカーばかりしていた。
中学では塾に通いそれなりに勉強はしたが、
高校生になってからの授業は寝ているか、好きな本を読んでいるかのどちらかだった。
 
学校のテスト勉強はあまり準備せず、当然成績は下から数えたほうが早い。
覚えているのは、校内のテストで、320人中286位の成績をとったことだ。
 
40歳をすぎた今でも、たまに夢で見る。
テスト用紙を前にして、全く試験勉強ができてないのに、
なんで勉強しなかったんだろう、と後悔するところでうなされて目が覚める。
 
その時の自分は、まるで野比のび太のようだった。
試験勉強をしないことでテストの点数は悪く、成績は落ちる一方。
そのことが頭ではわかっているのに、つい先延ばしにしてしまう。
テストの度に繰り広げられる後悔が毎回事前に想像できず、
同じ失敗を繰り返すことに慣れ切ってしまっていた。
 
「どうせ現役では受からねーんだから、卒業までサッカーやれば良いのに」
と部活の監督にも言われていた。
その時は自分も今の成績で現役合格は難しいよなと、うっすらとは感じていた。
 
しかし、そのマネージャーのふとした一言で怒りが爆発していた。
もちろんその対象は彼女ではなく、これまで勉強してこなかった自分にだ。
 
明確にその日を境に、ばちっと音がするくらい、自分にスイッチが入った。
 
重たい参考書を抱え、授業が終わってから自習室に向かい、自習室が閉まる時間まで毎日勉強する。
休みの日は近所の図書館に朝から通い、図書館が閉まるまで席を占拠した。
 
手が腱鞘炎になるくらい、ひたすらノートに英単語や英熟語を殴り書きして暗記した。
辞書がボロボロになって表紙がすり切れてしまうほど、辞書をひきまくった。
 
夏を超えるくらいから少しずつ解ることが増え、手応えを感じ始めていた。
それでも、何度か受けたA大学の模擬試験の判定は(一番下のランクである)E判定からびくとも動かなかった。
 
冬の追い込み時期になると1日13時間は毎日勉強した。
塾の冬季講習で、同じ高校の仲間たちと15時になったら誰が声をかけるともなく
休憩所に集まり、少しの間だけバカ話をすることだけが、唯一の楽しみだった。
 
1月、最後の模擬判定もE判定だった。
大いなる勘違いかもしれないが、それでも合格できると信じ、勉強をした。
落ち込んでいる時間は1秒足りともなかった。
試験本番まで、あと1ヶ月。
 
毎日毎日、A大学の過去問題を解く日が続いた。
何度も何度も同じ問題を繰り返し解き、自分の不得意な問題を徹底的に洗い出し、
スラスラ解けるようになるまで繰り返した。
 
2月に入りいよいよ受験シーズンがはじまった。
最初に受けたR大学にはあっさりと落ちた。
受験後数日して僕の手元に薄い封筒が届き、中には合格者の受験番号が並んだ紙が一枚だけ入っていた。
当然その中に僕の受験番号はなく、薄い封筒は不合格を知らせる通知だった。
 
その次に受けたH大学の試験は「出来た」実感があった。
H大学を受験して数日後、分厚い封筒が自宅に届いた。
試験合格の通知と入学の案内が入っていて、
一眼見て合格した感じがわかった。
 
そして本命のA大学、試験当日。
たくさん勉強して、生まれてからこんなに勉強したことない、
と嘘偽りなく思えるほど準備して迎えた運命の日は朝から緊張していた。
 
現実は残酷だった。
朝から気合を入れて臨んだ試験は、緊張のあまり「出来た」実感が全く持てなかった。
僕はものすごく、落ち込んでいた。
試験場を後にしてうなだれて歩いていた僕を、試験の帰りにばったり会った高校の友人が慰めてくれるほどだった。
 
数日後にA大学の合格発表があった。
試験の手応えが全くなかった僕は、合格発表の掲示を見に行く気が全く起きずその日も自宅にいた。
 
僕には翌日、M大学の受験が最後に控えていた。
自宅で翌日の試験勉強をしていた時、A大学から速達が届く。
 
2階の自分の部屋で勉強していた僕は、受け取ってくれた母に「薄い?分厚い?」とだけ聞いた。
受かった場合は分厚い入学案内などが入った封筒が届くから、
封筒の厚さで合否がわかるからだ。
 
母は「薄いよ」とA大学からの封書を持ってきてくれた。
それを見た瞬間「落ちた」と思った。
あんなに勉強したのに、努力は報われないんだな。
A大学からの封書を空けるまでもなく、僕はそのままゴミ箱に投げ捨てた。
 
明日の受験勉強をしなければならなかったが、どうしても身が入らない。
一つ大学には受かってはいたけど、その大学しか受からなかった場合は
1年浪人したいと、昨晩親に宣言したばかりだった。
 
明日受験する大学の過去問を前にぼんやりしていると、
ふと、さっき空けずに捨てた封筒が目に入った。
まあ、封を空けずに捨てるのもなんだよな。
 
合格した大学は分厚い封筒がくるのがわかっていたから、
落ちたことを確認するためだけに、封を空けた。
そこには合格者の受験番号が羅列されていた。
僕は自然と自分の受験番号を目で追っていた。
 
「あれ? 」
 
どこかで見覚えのある番号があった。
薄い封書は不合格を知らせる通知のはずなのに。
 
心臓が壊れるかと思うくらい、大きな音を立てていた。
「あれ、あれ? 」
震える手で、A大学の受験票を探して、自分の受験番号を確認した。
間違いない。
 
自分の受験番号が、そこにあった。
「受かってる!」
思わず叫んだ。
 
母が僕の部屋に飛び込んできた。
見間違えではないことを、母と何度も確認した。
思春期を過ぎてから初めて、母と抱き合って小躍りした。
僕はA大学に合格したのだ。
模擬試験の結果はE判定以外一度も出なかったけど、それでも自分は合格するという
大いなる勘違いが現実となったのだ。
 
2、3日してから、A大学から分厚い封筒が届いた。
A大学は合格者の受験番号を速達で送ったのち、
合格者に合格通知などを送ることになっていたようだった。
 
合格したら最初に分厚い封書が届く、という勘違いが大学合格の喜びを増幅させた。
高校の監督や担任にも報告して、少しだけざわっとした。
僕が現役でA大学に受かるとは本当に誰も思ってなかったようだった。
 
あの時、心ない一言を言われとても悔しい思いをしたけれど、
スイッチを入れてくれたマネージャーにとても感謝している。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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