「恥」が「誇」に変わったとき
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川﨑 裕子(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は自分の生まれ育った環境が嫌いだった。子どもの頃から一刻も早くここを出たいと思っていた。
とにかく超ド田舎だ。車なしでは、どこへも行けない。子どもの頃は、ひたすら徒歩か自転車だ。子どもの足で行ける範囲に目ぼしいお店も公園もない。
幼稚園も小学校も我が家が一番遠かった。いまだに実家から小学校まで信号が一つもない。おそらく永遠に信号は現れないだろう。それでも、小学校までは似た者同士が集まっていたのでまだよかった。
中学校から暗黒の歴史が始まった。まずはその距離だ。とにかく遠い。片道6キロメートルに大きな坂が8箇所もある道のりだ。ザーザー雨の日でもカッパを着て自転車で通った。苦しくて、横を通り過ぎる車を恨めしく見ていた。
中学、高校と、漏れなく馬鹿にされ続けた。私が生まれたところは、〇〇区や〇〇市ではない。「村って何?」「村人!」「そんな世界が現存するの?」いろんなことを言われてきた。
田舎は悪いもの、恥ずかしいもの、つまらないもの。
何にも誇りに思えることはない。
無意識のうちに自分自身でネガティブなイメージを植えつけていた。
だから、大学はどうしても東京に出たかった。憧れの東京に住めて本当に楽しかった。なのに、なんとなく帰りたくなり、地元にUターン就職してしまった。
社会人になって車を持てるようになった。お金もそれなりにあって、行きたいところに行けるようになった。子どもの頃の不自由さは感じなかった。でも、なんとなく、「自分の田舎はヤダ」と思っていた。都会はオシャレで何でもあるという気持ちは消えなかった。
そんな私の想いが通じる機会がやって来た。夫の仕事の関係で、東京に引っ越すことになったのだ。
都会は本当に人がいっぱいいる。たくさんいるだけでなく、とにかく素敵な人が多い。お店の選択肢もいっぱいある。テレビで紹介している場所に行こうと思えばすぐに行ける。電車の時刻表とにらめっこする必要がない。路線バスも縦横無尽に走っている。とにかく便利過ぎる。
そう、都会は楽しい。きれいなもの、面白いものがたくさんある。
だが、今は故郷に想いを馳せることも多くなった。
住み慣れた土地を離れて、もうすぐ3年が経とうとしている。
生まれ育った故郷に対する気持ちも変化してきた。
変化は、天狼院書店のライティング・ゼミを受けて起こり始めた。この4か月間、書いて書いて書きまくった。「書くこと」は「自分と向き合うこと」でもあった。
「母のこと」「父のこと」「夫のこと」「子育てのこと」など、たくさん書いてきた。以前の私は、「ないもの」ばかりに目を向けていた、と気づかされた。真摯に書くことによって、「あるもの」にも目を向けられるようになってきた。
私にとって、毎週ライティングをするということは、自分の大切な思い出と向き合うことでもあった。当時は辛いと思えたことも、書いていると不思議と清々しい気持ちになってきた。感謝の念が湧いてきた。
そして、書くことで、自分はなんと恵まれた環境で育ったのだろうと気づいたのだ。
私の田舎では、周りの大人たちが温かく見守ってくれた。親だけでなく、地域で子育てしていた。近所で夜ご飯を食べてきてしまうこともあった。全盲の大叔母が私の子守りをしてくれた。親戚のお姉ちゃんの結婚準備を手伝った。やがて生まれた赤ちゃんとたくさん遊んだ。本当に彩り豊かな経験をしてきたと思う。
海も山もあった。シマリスや野うさぎも見かけた。凍った田んぼでアイススケートもできた。ああ、あの田んぼを囲む山桜の何と美しいことよ。
私の生まれ育った田舎には何もないと思っていた。
でも、あったのだ。
面白いものも、美しいものも。
たくさん、たくさん。
今回、ライティング・ゼミに参加することによって、私はすごく豊かな環境で育ったと気づくことができた。今まで、「恥」だと思っていたものが、「誇」に変わった。パラダイムシフトが起きたのだ。
過去の事実は変えられない。
だが、過去に起きたことの意味は変えられる。
「ないもの」ではなく、「あるもの」に注目する。
ライティングを通して、学び得たことだ。
時に「書く」という作業は苦しく、面倒に感じることもある。でも、書き終わるとすごく力が湧いて元気になれることも確かだ。
ネガティブに感じたことも、その後どう捉え、生きるかによって意味は変わってくる。私はこれからも、「あるもの」を大事に生きていきたい。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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