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孫に会えたおばあちゃんは穏やかに亡くなった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Hiroki(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「孫の顔が見たいわねぇ」
入所中の85歳のおばあちゃんはそうつぶやいた。
 
私は、高齢者向けのグループホームで働いている。
認知症があって、自分だけや家族と暮らすのが難しい方々がスタッフの手伝いのもとで共同で暮らす施設だ。
 
利用者の家族も遊びにくるし、季節のイベントも開かれる。
そんなふうに平和に皆が暮らしていたが、今年に入って少し変わった。
 
今年のはじめくらいからだろうか、新型のウイルス感染症が流行しているようだ。
高齢者はいろいろな感染症が重症になりやすいが、このウイルスも例外ではなく高齢者は重症化しやすいらしい。
 
だから対策のため、私の施設でも他の施設と同じように外出や家族との面会ができなくなった。
 
「そろそろ桜の季節かねぇ」
おばあちゃんはそう話す。
 
今はもう6月だから、桜の季節ではない。
 
しかし、そう思うのも無理もない。
おばあちゃんは春からずっと外に出ていない。
季節のイベントも全て無くなり、空調の効いた室内でずっと過ごしている。
 
昔、おばあちゃんはやり手の営業マンで、2人の子供を育てながらバリバリ働いていたようだ。
グループホームに入ってからも活動的で、いつも外出や家族と会うことを楽しみにしていた。
 
特に、近くに住んでいる長女の娘が毎週のように遊びに来てくれていて、その子に会うのを楽しみにしていた。
今年大学に入学するとか言っていたから、今頃は大学1年生だろう。
 
電話がかかってきて、無事に合格したとは言っていたが、大学生になった孫の姿はまだ見ていない。
 
「まだ外には出られんか、入学式には行ってあげたいんだけどね」
 
そう話すおばあちゃんの時間は、3月で止まってしまっているようだった。
認知症はあるけど、季節がわからなくなるほどの人じゃなかったのだが。
 
季節がわからないだけではなく、刺激が無いせいか、元気もなくなり食事の量も少しずつ減っていたように思う。
会話も減り、スタッフは皆心配していた。
 
6月後半になると、例の感染症の騒ぎが少しおさまったのか、人込みや外食には行かないという条件で外出が許可された。
 
早速、おばあちゃんの家族に伝えると、気分転換に家に来てもらいたいということで、7月のはじめに娘の家に外出することとなった。
 
当日実際に娘と孫が来るとおばあちゃんの様子は変わり、久々ににこにこしていた。
元気にスタッフにも手を振ってくれて、出発した。
 
娘の家に1泊してきたおばあちゃんは、翌日の夕方には戻ってきた。
 
戻ってきてからは、今までよりも元気で、孫が大学に行ってサークルに入った話とか、授業の話とか、娘の作ったカレーを食べた話とかをしていた。
食事もたくさん食べるようになった。
 
そういえば、「外も暑そうだねぇ」と季節も認識したようだった。
 
しかし、そこから2週間が経ったころ、おばあちゃんは高熱を出した。
 
病院に行って入院したが、1週間くらいで亡くなってしまった。
僕も見せてもらったが、とても安らかな顔で眠っていた。
病院でも感染対策をしたうえで、家族とも会えたようだ。
 
原因は誤嚥性肺炎というもので、食べ物が呼吸をするための空気の入る気管のほうに間違えて入ってしまって肺炎が起こるものらしい。
食べ物を飲み込む力が弱っている高齢者には多く、亡くなる方も多いようだ。
 
「もしかして、ずっと外出できなくて弱っちゃったせいなのかな?」
そんな考えがふっとよぎる。
 
でも、もし外出したら例のウイルスに感染していたかもしれない。
例のウイルスじゃなくても、インフルエンザとかにかかってもっと早く亡くなってしまったかもしれない。
 
でも、確かに元気が出て、飲み込みが悪くなることもなくもっと生きられたかもしれない。
 
いろいろ考えたってどうするのが良かったかなんてわからない。
 
ただ、外出から戻ってきた後のおばあちゃんは、楽しそうに過ごしていた。
亡くなったときの顔もとても穏やかだった。
 
それは確かだし、大切なのはそこなのだと思う。
 
「人はいずれ死ぬ」
わかっていても、なかなか我々は実感としては受け入れられない。
 
もう少し具体的に言うと、85歳の人だと1年での死亡率は、女性で5%程度、男性で8%程度ある。
つまり、病気があるとかないとかに関わらず、ただ85歳というだけで1年以内に亡くなる可能性は、女性で5%くらい、男性で8%くらいある。
 
楼全、その可能性を0にすることはできない。
たとえ、外出を禁止して感染症を防いだとしても。
 
だから、あのおばあちゃんのように穏やかな顔で眠れる人を増やせたらいいな、と僕は思う。
 
8月になって、また例のウイルス感染症が流行ってきたようだ。
うちの施設もまた面会や外出が禁止になってしまった。
 
でも、これでいいのだろうか?
と僕は思う。
 
この騒ぎが1年続くとして、85歳の人が100人いたら、適切に対策をしたとしても6~7人は寿命で亡くなってしまう。
 
その人たちには、家族にも会えず、弱っていき暗い顔で亡くなるのではなく、あのおばあちゃんのようであって欲しいと思う。
 
「高齢者はハイリスクだから感染症が収まるまで自粛してろ」
「今は高齢の人に会うのはやめておきましょう」
 
そうやって外野から言うのは簡単だ。
でも、高齢者にとって「感染症が収まるまで」というのは、もしかしたら「自分の寿命が尽きるまで」よりも長いかもしれない。
 
僕も改めて、ゼロリスクをやみくもに目指すのではなく、適切な対策をしながら、利用者と家族にとっての幸せとは何かを考えていければ思う。
 
そして、もしあなたに高齢の大切な人がいるのなら、よく話し合って会うかどうかを決めて欲しい。
 
会って感染症になっても後悔するし、会わないうちに亡くなってしまっても後悔する。
 
答えのない問題だからこそ、事前によく考えて、そして、できるだけ後悔しないように。
そしてどういう結果になっても、結果論で自分を責めてしまわないように。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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