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常識というアナログ時計


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常識というアナログ時計
記事:ゆーすけ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
人は多かれ少なかれ、常識に則って生きている。よく、「常識にとわれないで生きろ!」だとか「常識を打ち破れ!」というが、常識自体はそんなに悪いものではない。例えば、同じコミュニティーに属する人間が共通した常識を持っていれば、社会生活は非常にスムーズに進む。「そんなこと普通しないだろ……」ということを極力避けることができるし、「たぶん相手はこうしてくれるだろうな」という予想が立てやすく、あまりストレスを感じることなく過ごすことができる。
しかし、違う常識を持った相手(とりわけ、外国人などの異文化出身の相手)と接するときは注意しなければならない。相手と常識が違う場合、自分の常識を押し通そうとすると失敗する。
 
私は数年前、三か月間だけアメリカで語学留学をしていた。留学中は現地の語学学校に通ったのだが、そこでは、南米人、アラブ人、アジア人など世界中から生徒が集まり、英語を学んでいた。
私には留学期間中、特に親しい友人が二人いた。ブラジル人のリカルド、それからアルゼンチン人のアレックスである。
とある週末、アルゼンチン人のアレックスがホームパーティ―を開くことになり、私とリカルドを招待してくれた。もちろん、私たちは参加の返事をし、私とリカルドは一緒にアレックスのアパートメントまで行くことにした。
そのパーティーは午後八時開始だったため、私はその十分前には到着するスケジュールを立て、リカルドに提案した。すると、リカルドは、
「ちょっと早すぎじゃないか? だって午後八時開始だろ。もっとゆっくりでいいんじゃない?」と言った。
私たちは当日バスに乗って行くことにしていたが、次のバスは約三十分後となり、午後八時から大幅に遅れてしまう。私はそのことをリカルドに説明し、自分が立てたスケジュール通り行くことを再度主張した。すると、リカルドは、
「いや、それくらい大丈夫だよ。どうせ誰も時間通りに来ないんだから」と言った。
「そんなことないでしょ。とにかく、このスケジュールで行こう!」
「そうか? まあ、ゆーすけがそこまで言うんだったら、そうしようか」
こうして、(あまり納得していなかったが)最終的にリカルドが折れ、私が立てたスケジュールで行くことになった。
パーティー当日、私とリカルドはリカーショップでお土産(ビールとおつまみ)を買い、バスに乗って、アレックスのアパートメントへと向かった。私が立てたスケジュール通り、午後8時前に到着し、アレックスの部屋の呼び鈴を鳴らした。しかし何も反応がない。おかしいな? と思い、再度鳴らすと、がさごそと物音がして、寝ぼけまなこのアレックスが出てきた。
「ああ、もう来たのか。ごめん、少し寝てたよ」
「あれ? 午後八時からじゃなかったっけ?」と私は尋ねた。
「いや、確かにそうだけど……」と、アレックスはちょっと困惑した顔をして、それから、
「こんなに早く来るとは思わなかったから」と付け加えた。
その日、私とリカルドがダントツの一番乗りだった。私たちはビールを飲みながら暇をつぶしていたが、八時半になっても他の友人たちは来なかった。その頃には話題も少なくなり、私たちはかなり手持ち無沙汰な時間を過ごしていた。
ようやく他の友人たちが来はじめたのは九時近くになってからで、それからばらばらと集まり始め、最終的に全員揃ったのは十時過ぎだった。私たちはその日、夜通しアレックスの部屋で飲み明かし、楽しい時間を過ごしたが、リカルドは私に対して、始終「ほら、言わんこっちゃない」というような、少し不満げな様子だった。後から来た友人たちと「何時ごろ来たの?」という話題になる度に、リカルドは「いやぁね、実はこんなに早く来たんだよ。これというのもゆーすけが……」というように、得意気に答えていた。
それ以来、留学中に何かの集まりにお呼ばれするときは(それが南米人主催の集まりである場合は特に)、できるだけゆとりをもって、“遅く行くように”心がけた。実際、予定時間の三十分から一時間後を狙って行くのがベストであり、最初は違和感を覚えたが、だんだん慣れていって、「あ、そういうもんなんだな」と思えるようになった。
 
常識というのは、各個人が持つアナログ時計のようなものだと思う。自分の常識が通じる範囲であれば、そのまま使えば問題ないが、通じない範囲で使うのであれば、調整する必要がある。海外旅行でアナログ時計を現地時間に合わせるように。そうすることで、常識が違う相手とのコミュニケーションも乗り越えられるし、それこそが違いを認める、容認するということではないだろうか。この経験を通じてそんなことを私は感じた。
 
語学留学が終わり、帰りの飛行機に乗っているとき、私は自分の常識をもう一度巻き直した。もちろん、日本では午後八時集合で九時に着いたら大遅刻だからである。
 
 
 
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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