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主婦の悟り――料理も芸術なのだ

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主婦の悟り――料理も芸術なのだ
 
記事:Tenco(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
我が家は夫と子供と私の3人家族。私は5人家族で育ったので実家のような家族構成よりはずっとずっとマシであることは自覚しているが、それでもやはりこのコロナ禍での自粛生活は、家事労働においても負担が増えた。
 
なかでも私が主婦として一番負担に感じているのは、毎日3食を料理すること。
栄養および味のバランスを念頭に、夫と子供の好き嫌いも考慮して献立を考え、さらに閉塞的な気分を和らげようと普段よりも手の込んだものや見た目の楽しそうなもの、季節を感じられる旬のものを積極的に作った。
 
通常生活では3食作り続ける生活は夏や冬などの長期休みぐらいだが、ちゃんと終わりがくることがわかっているから頑張れる。これには世の主婦の皆さんには深く賛同してもらえると思う。しかし今回のコロナ禍では自粛が解除されてもいまだ終わりが見えない。
 
私自身食べることが好きだし、料理は家事の中では一番好きだったはずなのだが、それでも長期間3食の献立をひねり出し続けていると、だんだん献立を考えるのが苦痛になってきた。作りたいものが思いつかなくなってきたのだ。
 
さらに、我が夫は食事を喜んでいるのかどうかがわからない。子どものほうは好きなものが出れば「やったー!」と喜ぶし、口に合えば「おいしいー!」と言ってくれるが、夫は結婚当初から何を出してもあまり反応がない。いわく、「言葉にはしないがちゃんと食べているのが『おいしい』の表現」なのだそうだが。ちなみに私の料理の腕は、並みである(と思いたい)。
通常生活よりも家族に喜ばれたいという思いをかなり強くして作っている食事に反応がないことで、私の食事作りにおける消耗に日々拍車がかかっていった。
 
そんな時にちょっとした夫婦喧嘩がおこった。きっかけは些細なことですでに記憶から消えているのだが、腹いせに私は食事作りをボイコットすることにした。
自粛期間でなければ「食事作らないから外で食べてきて!」と言いたいところだったが、それはさすがに出来かねる。というか、しないで欲しい。仕方がないので、スーパーで買ってきたお惣菜のみを並べて夕食にした。
 
念のために言っておくと、お惣菜オンリーの食事が手抜きとか悪いとか言うつもりはまったくない。
ただ、なるべく食事を手作りすることに自己満足と自己表現と、ある意味プライドを感じていた私にとって、このボイコットはなかなかの冒険だったのである。
ここらで家族には手作りの食事のありがたみを実感してもらおうじゃないか?
 
さて、結果はいかに。
もちろん言葉による反応はない。が、夫はなんと、むしろ喜んでいる風に見えた。非日常的なのがいいのか、子どももなんだかはしゃいでいる。
悔しいので翌日も買ってきて済ませた。今度はスーパーからコンビニのお惣菜に変えた。しかしこれまた夫はなんとなく満足気である。実際、昨今のコンビニのお惣菜は美味しい。開発者の方々には頭が下がる。
3日目。釈然としないまま、またお惣菜を買ってきたのだが、ここに1品だけ手作りを加えてみた。
すると……これが自分でも思った以上に楽しかった!私はやっぱり料理が好きなんだなと思った。
 
そうだ、料理を家族だけのために作っていると思うから、反応がないとモヤモヤするのだ。
これからは食事作りという仕事における私の立ち位置を変えよう。
家族のためというより“私のために”料理をしよう。楽しみの一つとして、好きなこととして料理をしよう。栄養バランスを考えるのも、心をこめて作るのも、“私が”したいからするのだ。
これからは本当の意味での自己表現として料理をするんだ!
 
と、ここまで意気込んだときに、突然、鈴木大拙の言葉を思い出したのである。
いわく、『われわれは皆、“生きることの芸術家”として生まれている』
 
今年は鈴木大拙(だいせつ)の生誕150年、戦前・戦後を通して禅を日本と世界に広めた方だ。もちろん私は浅学にしてその功績を詳しく語れるわけではない。本を読んでも、実感を持って禅を理解することは難しかった。
けれどもこの時、その大拙の言葉が一瞬で腹に落ちたのだった。
 
日々の営みのひとつの「料理」も大拙の言う「芸術」のひとつなのではないか?
いや、「料理」というカテゴリーもかなり漠然としている。料理の中の、今日の夕食、明日の昼食、一食ごとに、私は芸術をこしらえているのではないだろうか。
また、他者の反応に芸術と呼べるか否かの判断基準を置くのも、大拙の伝えたいこととは違うと思った。
その判断基準とは、ひとえに私だ。私の立ち位置だ。たとえ自己犠牲的な行動であれ、そこ
に私自身の主体性があるかどうかをいつも自分に確かめればいいのだ。
 
かくしてこれから私が生きる道のりには、こしらえた「芸術」や「芸術もどき」がこまごまと並んでいるはずだ。
少なくとも大拙の言葉が腹落ちしたあの日以降の料理の数々だけは、この世を去るときに一級品の芸術として愛でたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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