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プチトマトパニック


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プチトマトパニック
 
記事:串間ひとみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
この夏うちのベランダのプランターでちょっとした事件が起きた。
 
ゴールデンウィークのさなかコロナ自粛でどこにも行けず、世の多くの人がはまった断捨離に私もはまっていた。結局ほぼ捨てられなかったので、断捨離というよりも模様替えもしくは整理整頓といった方が正しいものであったのだが。その片付けのさなか、数年前にもらったひまわりの種を見つけ、果たしてその効力を未だに携えているのかどうかは定かではなかったが、そのまま捨ててしまうのも忍びないと思い、当時何も植わっていなかったベランダのプランターに植えてみることにした。
 
固くなった土をスコップでほぐし、適当な間隔で穴を掘ってその種を植え、最後にたっぷりの水をかけた。種の袋には、しばらくは毎日たっぷりの水をやること、というようなことが書いてあったので、できうる限り忠実に実行していた。それからしばらくは変化が見られなかったが、ある日を境に緑色の芽と思しきものがぴょこぴょこ出始めた。ただ、植物に対して小学校の花壇と理科の授業程度の知識しかない私にとって、朝顔の成長がすべてだった。花は双葉ができ、そこから本葉ができていくという流れ。しかしその芽と思しきものは、双葉の様相とはまるで違う、ともすると雑草と見間違いそうな見た目だった。私がそこにひまわりの種を植えたということを知らなければ。
 
ひまわりって双葉じゃないんだ。
 
私はその芽がひまわりのものであると信じて疑わず、毎日せっせと水をやっていた。日を追うごとに成長し、どんどん葉を増やしていく様は、およそひまわりとはかけ離れたものになっていったが、仕事の忙しさもあり、そんな疑問もとりあえず頭の隅に追いやっていた。
 
しかし、ついに決定的な瞬間がやってきた。蕾らしきものができたのだ。さすがの私も
 
「これ何なの?」
 
と、置き去りにしていた疑問を直視せずにはいられなくなった。そこから関係ありそうな過去の記憶をたどり、ようやく1つの答えに行き着いた。
 
何年も前に、私はこのプランターできゅうりとミニトマトを栽培していた。いや栽培しようと試みたと言った方が正しいのかもしれない。プランターでの野菜作りに興味があることを話した農家の2代目君が、親切にもそれらの野菜の苗を植えてプランターごと持ってきてくれたのだ。私なりに大事に育てたつもりだったが、ある日家に帰ったら驚くほど様変わりしていて、端的に言えば一目で枯れたのだと分かる状態だったのだ。結局どちらも実がなることなく終わり、その後プランターはたまにスーパーで根っこ付きで買ったバジルが植えられたりもしたが基本放置状態で、もちろんその間1度たりとて、きゅうりもミニトマトもその存在を現すようなことはなかった。
 
数年前に見た姿にそっくりなため、どちらかではないかとあたりをつけ、特徴的な部分をスマホのカメラに収め、職場で詳しそうな人に聞いてみると、
 
「トマトじゃない?」
 
とのことだった。
 
何はともあれ一度は挫折した野菜作りができるかもしれない! と、水やりに余念がなかった。そして花が咲き、1つだけではあるがトマトの形状をした小さな実をつけたのだ。前回は実に至らなかったので、偶然の産物とはいえ、私は大いに喜んだ。
 
ところがである。またもや異変が起こった。突然そのトマトと思しき植物の下の方から葉が茶色くなり始めたのだ。
せっかくここまできてまた枯れちゃうの?
 
薄々お気づきだと思うが、私の「植物の世話をする=水をやる」なのだ。
 
「トマトは水あんまりあげない方がいいとよ。むしろ乾燥気味な方がいいね」
 
職場の人からのアドバイスに
それ早めに聞きたかった。いやむしろ数年前農家の2代目君のアドバイスにもあったのではないか?
 
そんなことが頭の中でぐるぐる回り、その日からピタリと水をやることを止めた。それでもトマトの茶色い葉の分布は緑色の葉を日に日に凌駕し、実がついているとこより下は、生きていることさえ信じがたいような様子になった。唯一の実は青いまま、そこより上についていた蕾もあったが、もはや時間の問題のように思われた……が、しばらくして実が色付き始めたのである。そしてあっという間に赤くなり、まさにトマトになったのだ。トマトを育てたことがある人にとっては当たり前の変化なのかもしれないが、私には奇跡のように見えた。
 
ひまわり(と思っていたもの)がトマトになり、枯れたと思ったら実が色付いた。私にちょっとしたパニックを起こさせたこの出来事は、プランターという小さな世界の中でも、思ってもみないことが起こること、ましてや私たちの日々の生活の中で、何も起こらない訳がないと思わせてくれた事件だった。
 
このトマト、もしかしたらひまわりからトマトができるという新種だったのかもしれないし、ミニではないトマトだったのかもしれないし、セミのように数年眠って今年突然起きたのかもしれない、そんな思いもよらない出来事を想像するとちょっと面白い。日々の生活の中にはそんな小さな面白いことが、きっとたくさん転がっているのだ。そんな面白いことを見つけられるともっと毎日が楽しそうだ。
 
そんな素敵な気づきをくれたトマト君だが、あまりの愛おしさに未だに食べる勇気が持てず、そのままプランター暮らしを続けている。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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