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旅することは映画をつくることに似ているという話


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記事:北林健児(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ライフジャケットをつけてコバルトブルーの水面に体を沈めると、透明な水の向こうに原色をまとった魚達がゆらめいている。
 
まるで、自分自身も熱帯魚の一匹になって、巨大な水槽のなかにいるようだ。こんな体験ははじめてだ。
 
8月上旬の今、私は、沖縄のプライベートビーチでシュノーケリングを楽しんでいる。
 
舞台は変わり、東京に戻ってきた私は、鮮やかな旅の一場面を思い出しながら、「旅することは、映画をつくることに似ている」と感じていた。
 
そもそも沖縄にきたのは仕事の都合だったが、せっかくなので滞在をのばして休暇を満喫することにしたのだった。
 
ただ、沖縄旅行を決めた時点で一つ課題があった。現地での移動にはレンタカーが必須だが、私はこの十数年ペーパードライバーだ。そこで東京でペーパードライバー講習を事前に受け、この旅に備えた。
 
そこまでの準備を私に決心させたのは、もっと「旅人の気持ちを理解したい」というテーマがあったからだ。
 
私はこの7年ほど、訪日外国人を相手に、彼らをガイド先の観光地で撮影するフォトガイドを手がけてきた。
 
しかし、自分自身はこの十数年海外に出たこともなく、国内旅行をする趣味もない。
 
ガイドするお客さんから、
「シラカワゴウ ニ イク」
と言われてもそれが世界遺産だという関心もなく、
 
「クマノコドウ ヲ アルク」
と言われても、熊の子供と歩くの?と頭の中にはハテナマーク。
 
東京をガイドするなら自信と経験が十分あるものの、それ以外の地域については全くの無知・無関心だったのだ。
 
それではガイドとして何かが欠けている、と気付くようになった。
 
私のお客さんの多くは、欧米豪からくる30ー50代の、IT・会計・法律といったプロフェッショナル職につく白人だ。彼らは都内の一流ホテルに泊まり、日本国内での文化体験を重視する傾向にある。
 
そんなお客さんと接していると、自分自身でも、高級ホテルを楽しんだ経験を共有したいと思うようになっていた。
 
折しもコロナ禍。1月からキャンセルが入り始め、世界中の国々が鎖国政策をすすめるなか観光需要は蒸発した。私は、これからのガイドのあり方を根本から再考する必要に迫られていた。
 
一筋の光明は、国から持続化給付金の100万円が入金したことだった。こういうお金はしっかりと使って経済を回すことに寄与すべきである。そんな大義名分も、沖縄でのこれまでにないリッチな旅行を私に決心させたのだった。
 
この機会を生かして、将来の訪日外国人のお客さんに向けて、フォトガイドの宣材写真を撮影したい。そんな思いで、モデルとなる女性を雇い、この旅に同行してもらった。
 
その彼女にせがまれてシュノーケリングにもぐったのが冒頭の場面だ。
 
夕方になればみたこともない赤色に染まっていく、海のかなたの空。浜辺にうちつける波の音。地元の子供達が、打ち寄せる波にむかって飛び石を投げて競っている。おもむろに歩みより、いつのまにか子供たちと一緒になってはしゃいでいる彼女。
 
もともともっていたクレジットカードのおかげで、ホテルは部屋をオーシャビューにアップグレードしてくれた。夜になると、ベランダからはこの季節限定の花火を見ることができた。
 
はじめて沖縄に来たという彼女にとっては満点の滞在だったにちがいない。
 
お酒の入ったグラスを片手に談笑すれば、恋でも生まれそうなシチュエーションである。というか、これが一本の映画だったら、確実にロマンスが生まれる展開だろう。
 
そうだ、これこそ旅するひとたち、即ち私のお客さんたちがいつも味わっている感情なのだ、と気づいた瞬間だった。
 
綺麗な景色に身を置き、談笑しながらそこでの経験と感情を、互いに共有すること。それを私のお客さんである多くのカップル客は楽しんでいる。
 
一方ガイドとしての私は、そんな彼らにとっての、現地の友人のような距離感でいること。それが基本的な立場だ。
 
たとえばガイドブックでは知りえないような飲んべえ横丁で利き酒セットを楽しんだりすると、彼らの満足度はうなぎのぼりに上がる。
 
そういう瞬間のつみかさねが、お客さんである二人の絆を強めるのだ。そのこともガイドとして感覚的にはわかっていた。
 
しかし、彼らの立場を頭で理解することと、体で経験することは全く異なる。私は今回の旅を通じて、ガイドとしてではなく、旅人の立場から「旅すること」を再定義できた気がした。
 
談笑のセットとなる行き先を決め、その舞台となる旅先で写真をとり、経験した物語を帰国後に友人に語ること。旅の一連の作業は、映画をつくることに似ている。
 
旅することは映画をつくることに似ているのだ。
 
このことに気がついた私は、今後、お客さんたちにとっての旅すなわち「映画づくり」に必要なものは何かをじっくり考えていこうと思う。
 
インバウンド業界がもとどおりの訪日外国人数をとりもどすまでには、幸か不幸かまだまだ時間があるのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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