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その海は、 “おかん”


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記事:鳥井 春菜(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
わが故郷の海は、ちょっと“おかん”みたいなところがある。
「おかん」といっても、生命の源であるとか包容力があるということを指しているのではない。では何かと言えば、実家の母親が帰省した子どもに「あんた、これ持っていきなさい、それも持って帰りなさい」となんやらかんやら持たせて帰そうとするように、この海は、不思議なものでいつも必ず、私にお土産をもたせてくれるのだ。
海は、お土産をくれる。それは、長年通い続けた私が確信していることだ。
 
私の地元は福津市という海のある町で、子供の頃からよく海へ行った。
例えば、帰り道にちょっと足を伸ばして海へ沈む夕日を見に。あるいは、休日に海沿いのカフェで昼食をとりに。夏の海水浴は早朝や夕方の人が少ない時間を狙うのが地元民の特権だ。
そんな過去の思い出の中、海は会いに行けばいつでも私にお土産を持たせて帰した。
それは至極シンプルなもの。例えば、空が絵の具で塗ったみたいに真っ青だったことや、魚が跳ねる瞬間に立ち会ったこと、アンモナイトみたいな珍しい貝殻を見つけたこと。それから、ピンク色のクラゲを見たこと、河口を泳ぐエイに遭遇したこと、砂を手ですくってサラサラ落とすと砂金がキラキラ光ってキレイだと発見したことなど。
「今日は、これだったな」と思うものを持って、私はいつも家路につく。どれも、ほんの些細なこと。でもどれも、その瞬間に鮮烈に心に迫るものなのだ。だから私は毎度「今日は、これだったな」とはっきり分かる。
 
今年も地元に帰って、海へ泳ぎに行ってきた。
朝6時から10時までみっちり4時間いたのだから、両手いっぱいのお土産を持たされた。此度の収穫をあげてみよう。
・色々な形の雲が東西南北の空に自由に広がっていたこと
・竜巻みたいな螺旋状の雲を見て、こんな風が吹いたんだなと想像したこと
・キビナゴを見つけて、こんな浅瀬に生息してるんだ!と驚いたこと
・海に浮かんで見上げた白い月が昼間まで消えず、こんな日もあるんだなぁと思ったこと
・カニを捕まえて砂に潜るところ観察し、下の方の足を器用に使っているのを見たこと
・浅瀬で貝掘りをして、お吸い物にするのに持って帰ったこと(物理的お土産)
・でっかい魚が足元を泳いでいたので、麦わら帽子で捕まえようとして、無理だったこと
 
人によっては取るに足りないことだろう。今の時代、雲もカニもキビナゴも、ネット検索すればすぐにヒットする。それでも私はこうしたものを目の前にして「こいつは、お土産だな」と判別する。私だって現代人なので、カニがどんな風に砂に潜るかなんて、調べりゃ動画もありそうだし、どうしてこんなことで感動して「お土産認定」しているのだろうかと思う。だけど、“今この瞬間に目の前にある”ということはそれほどに強い。このタイミングで私がここにいたから出会えたのだという特別さがあるし、そのものをただ知っていることと実物と対峙することはまた違う。今流行りの「コト消費」なんて言ってしまうと陳腐なのだけど、私はきっとそれらと「出会うこと」「見つけること」に感動しているのだと思う。
海に行けば、何かに出会える。何が当たるかは分からないけれど、きっと何かもらえる。子供の頃から繰り返された経験はそんな教訓として残り、今では私は海に行くたびにどこか期待している。「今日は何だろう?」と。
きっと、私は海に向かっているときにはもう求めていて、すでに探している。出会うためのスイッチが押されている。確かに、海には様々な発見があることは事実だけど、私の方でもそれを見逃さないようなセンサーが入っているのだと思う。
だから小さな出会いも、やっぱり驚きや感動になり、「お土産」になるのだ。
 
とすれば、日常の中でも同じなのかもしれない、とふと思い至った。
海では発揮しているセンサーを切ってしまっているだけで、日常の中でも「お土産」は案外たくさんあったりするのかもしれない。
思い返してみれば、ちょっとした発見や感動は日々、私の横をするりとすり抜けているような気がする。例えば、この前乗ったバスの車掌さんの声が爽やかで、話し方は流れるようでとても耳心地が良かった。喫茶店でカツサンドを頼んだら「パチパチパチ」と油の音が聞こえてきて、揚げたてなんだと嬉しくなった。それから、とても素直なタイミングで他人から言われた「ありがとう」に驚いて、自分だったらここでは言わなかったろうなと顧みながら感動した。
そうしたことは、日常の中で流れていき、3歩進んだときにはもうほとんど忘れられている。お土産として拾い上げられることなく、その一瞬の中に置き去りにされる。ちゃんと持って帰れば、宝箱に入るものかもしれないのに。
「体験」には、やっぱり絶大な価値があると思う。だけど、それは大それた体験でなくてもいい。今、この瞬間に巡り合わせで私の目の前に現れたものは、結構感動的だったりしていて、それを持って帰れるかどうかは自分のセンサー次第なのかもしれない。
 
「海はいつでも私にお土産をもたせてくれる」
そう思うのは、きっと海という場所が幼少期の私のお土産センサーを鍛えてくれたからだ。海にはお土産チャンスがたくさんあって、実践しながらどんなに些細なことの中に驚きや感動をあるかをじっくり学べた。だけど、もっとセンサーに磨きをかけることができるなら……
「世界は、いつも私にお土産をもたせてくれる」
もし夜にベッドに潜り込んだ時、そう思えるようになったらとても素敵だ。
お土産を拾っていけることは、自分の中の宝箱が埋まっていくことだと思うから。
 
 
 
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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