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吾輩は猫、になりたい人間である。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:櫻井麻緒(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
吾輩は猫である。名前はとっくにある。
 
どこで生れたか、だいたい見当がつく。我が家の庭だと記憶している。
今は、吾輩の他に二人の猫と同居している。二人とは仲が良くも悪くもない。
あやつらが何をしてようが吾輩には関係ない。たまに追いかけっこをするぐらいだ。
 
飼い主は、大学生という人間中で一番怠惰な種族であったそうだ。
この大学生というのは、暇さえ見つけては、寝ている吾輩にちょっかいをだしてくる。
 
……迷惑な話だ。
 
その飼い主は朝が遅い。朝日が既に差し込んでいるベッドの上で、未だに呑気にグーすか寝ている。
 
吾輩は、腹が減った。さんまの缶詰が食べたい。
そのためには、飼い主に起きて用意してもらう必要がある。
 
どうしたものか……。起こすしかない。
 
吾輩は、ベッド脇のクローゼットに飛び乗り、着地地点を見定める。
落下距離、およそ1メートル。これなら、助走はいらない。
 
吾輩は腰を振って勢いをつけ、布団の上に思い切りジャンプした。
 
ボスッッッ
 
見事、飼い主のお腹の上に着陸。
うっすらと目を開けた飼い主の顔に向かって、思いっきり文句を言ってやった。
 
「にゃーーーーーーーぉん(飯くれーーーー)」
 
「あぁ、お腹痛いし、眠い……」
 
私の朝は、不満から始まった。
気持ちよく寝ていたところを、飼い猫に起こされたのだ。
 
わざわざ、寝ている主人のお腹にダイブして起こしてくる猫が、他にこの世にいるだろうか?
 
それも餌ほしさのために。
 
だが、放っておくわけにもいかず。
仕方なく私は今、猫のためにさんまの缶詰を用意してやっている。
 
当の本人は、姿勢よく皿の前に座り行儀よくしている。
そして、「にゃん」っと甘えた猫なで声で鳴いては、上目遣いで私の顔を見つめていた。
 
起こしにきたときは、雄叫びかと思うような声をあげてたくせに。いざ餌を目の前にすると、かわいい顔をしておねだりをしてくる。
 
……調子のいいやつめ。
 
いつのまにか、他の二匹の猫も起きていて、皿の前にいた。
 
夏目漱石の描く猫のように、きっと「吾輩は猫である。飼い主より偉いのだ」と自覚しているんだろうな……と、まだ眠い頭でぼーっとくだらないことを考えながら、餌をやっていた。
 
思えば、私は幼いころから猫と一緒に暮らしてきた。最初は一匹だったのが、今や3匹。
人間に十人十色の性格があるように、猫にも「十猫十色」の性格があった。
 
今日起こしてきた猫は、一番若くて「超」がつく食いしん坊。常に食べることしか考えていない。おかげで、私は今日、眠りを妨げられた。
 
もう一匹は20歳になる、プライドが高くお澄ましなおばあ様な猫。
 
そして最後の一匹は、人懐っこくボケーっとのんびりしている、少しお肉のついた猫。
 
三者三様のキャラクターがあり、飼い主としては三匹の行動を眺めているのが、なんともいえない楽しみである。
 
しかし、それぞれに個性があっても、やはり「猫らしさ」というものに共通性があった。
そして、その「猫らしさ」を私は羨ましいと思うのである。
 
とりあえず、猫はひたすら寝る。日中は飼い主をほったらかしにしてグーすか寝ている。
こんなに気持ちよく寝ると、幸せだろうな、とつくづく思う。
そんな猫に対していたずら心が芽生えてしまうのは、人間の性だろうか。
 
寝ているところにちょっかいを出して、その度に猫に怒られていた。
 
だが、怒ったと思えばよく甘えてくるのも猫の性格。
ついさっきまで機嫌がよろしくないと思いきや、今度はのどをゴロゴロさせながら甘えてくる。
 
そんな姿の猫たちに叶うはずがなく、いつのまにか甘やかしてしまう。
 
私たち人間は猫たちにいいように振り回されているのだ。
どこで、こんな技を覚えたんだか……。
 
そして、甘やかされることに気が済むと、今度はプイっとそっぽを向いて寝に行ってしまう。
もっと猫を愛でていたいこっちの気持ちなど、いざ知らず。
……マイペースの極みだった。
 
だが、猫の特徴はこれだけではない。
 
猫は何事にも全力投球だった。特に興味のあることへの執着心は恐ろしいほどである。
 
虫を見つければ、それがこと切れるまで家中を全力で追い掛け回す。
ねこじゃらしには、飼い主が疲れるまでじゃれる。
高いところに行くには、助走を思い切りつけてハイジャンプ。
そして、猫同士のけんかではお互いに全力疾走。
 
……挙げれば、きりがない。
当の本人たちは全力でやっているのだが、見ている側の人間としては、笑いのツボである。
 
一方、こんな面もある。
飼い主が悲しんでいるとき、あるいは泣いているときはそっと寄り添って慰めてくれた。
 
当の本人たちは、単に餌欲しさに甘えているだけかもしれない。
だが、人間からしてみれば、これほど心が温かくなる瞬間はなかった。
 
そこにいてくれるだけで、最高の癒しである。
 
……こんな性格だから、人間は猫を愛さずにはいられないんだろうな。
 
よく、「猫っぽい性格」はモテるだの、かわいいだのと耳にするが、つくづくその通りだと、猫を飼っていて実感する。
 
もし、こんな性格の人がいたら、私は放っておけない。
そして私も、猫のようになりたいとつくづく思う。
 
もちろんモテるだの、かわいいといった評価を得たくないといったら嘘になる。
 
だがそれよりも、甘え甘えられ、怒り、全力で遊んでマイペースに暮らしつつ、そんな自分の存在が誰かを笑わせ、癒しとなりたい。
 
自分が思い切り人生を謳歌することが、誰かの人生を豊かにする。
それが「猫らしい」生き方であり、性格だと思った。
 
猫と一緒に暮らしながら、「猫らしい」生き方を目指すことが、私の今の目標だ。
 
そんなことを考えていたら、いつの間にか猫たちはさんまの缶詰を食べ終わって、寝に行っていた。
 
やっぱり猫はマイペースだ。
そんな私も、猫たちのようにまた二度寝をしに行った。

≪終わり≫
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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