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メディアグランプリ

穏和な人が怒るとき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井上祥邦(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「井上さんに絶対怒られると思ってました」
 
目の前には赤い紙があった。
じつは修正のための赤字でびっしり埋めつくされた原稿だ。
女性の新人ディレクターは、泣きそうになりながら私にその声をかけた。
 
グラフィックデザイナー歴20年の私は、
あるクライアントの広報誌制作を、取引先である制作会社と一緒に制作した。
彼女は、その制作会社のディレクターだ。
入社して1年未満。経験も浅く、私と仕事をするのも初めてだった。
 
今回、そのクライアントが、大幅な修正指示をだしてきた。
最終段階だったにも関わらず、当初のコンセプトをひっくり返したのだ。
珍しいケースで彼女は動揺していた。
 
詳しく話を聞くと、担当者レベルでは、イメージ共有ができていた。
若い社員がターゲットの広報誌なので、文字は少なくスッキリしたデザインにという意図だった。
デザイナーの私はその意を汲んで、ホワイトスペースを生かした若者向けのデザインに仕上げて進行していた。
 
しかし、最後の上司チェックが入り方針が変わってしまった。
その上司は空いているスペースが嫌いなのだという。
せっかくのスペースを殺すような追加テキストやコラムが盛り込まれた赤字原稿が返ってきたのだ。
 
彼女が言うには、チェックする上司がクセが強いと聞いていた。しかし、ここまでとはヒドイと思わなかったそうだ。
 
私は、たまに遭うこういう事態に慣れていた。
だから全然動揺していなかった。
「このタイミングでスゴイね〜。久しぶりに真っ赤な原稿でシビれるわ〜」と笑いながら反応した。
 
彼女は怒られる覚悟だったようで、ホッとした様子で大きな深呼吸をしていた。
 
その後、修正についてどのように対応するか打ち合わせをした。
彼女はまだ上司の文句をブツブツ言っていた。
 
会話の途中で、彼女が、
「他のデザイナーだったら怒ってますよ。井上さんは何でこの状況で冷静に対応ができるんですか」
と質問された。
 
「仮に怒ったとしても、キミに怒っても仕方ないよね」
私はこう返答した。
ついでになぜ冷静に対応できるのか、私の「アンガーマネジメント」を彼女に話した。
 
私が怒らない性格になったのは、デザイナーとして独立してからだ。
独立すると「仕事」を受注しないと、仕事がない。
まず仕事を受注するために、自分の意識が常に「謙虚」な心境に変化した。
 
相手を自分より一段上に置いて、人と接するようになったのだ。
謙虚な姿勢で、敬意を持って人と接すると、相手の長所が見えてくる。
相手のことを長所だけでイメージするので、ネガティブな部分を感じなくなるのだ。
 
そして相手を理解すると、思いやりができるようになる。
無茶なリクエストがあっても、その人のためと思って対応できるようになるのだ。
なぜその要求をするのか、そこには何かしら理由があり、そのプロセスを考えられるようになった。
 
今回のケースは、その上司と直接会ったことがなかった。
彼女からウワサ話だけで「スペースが嫌いということは、真面目な性格なのかな」と上司の長所を勝手にイメージしていた。
 
だから、相手の意図を想像しながら柔軟に対応できた。
「鶴の一声」でひっくり返っても、なぜその判断をしたのか、その理由を考えると冷静になれるからだ。
 
悲しいことだが、こういう事態はよくあるものだ。
だから良くも悪くも関係者に過度な期待をすることはなくなった。
どんなことが起きても、必要以上にガッカリしたり、ネガティブな感情は抱かないためだ。
当人同士がどんなに良好な関係があっても、外部の力によって予期しない出来事はありえると覚悟するようになった。
 
打ち合わせについても、意見が分かれることは多い。
私は固定概念を捨てて、他の意見に対して寛容になるように心がけている。
「自分の考えはこうだ!」「常識はこうだ!」という自己主張が強いと、それ以外の意見を否定するように考えてしまうからだ。
謙虚な姿勢だから、相手の意図を尊重できるのだと思う。
 
最近は思い通りにいかないことをむしろ楽しめるようにもなった。
長年ハードな仕事を経験したおかげで免疫力がついたのだろう。
 
「怒り」の大部分は、概ね他人に向けて起こる感情だと私は考えている。
他人の行動が、自分の意図と反する結果を招くときだ。
 
よく「イラっとしたら6秒待つ」とあるが、これはすでに「怒るという感情」が他人に向かっているので、少なからず我慢を強いる。
 
私のアンガーマネジメントは、その根本を解決する方法だ。
つまり他人に対して生まれる「怒り」という感情を、できる限り感じないようにするメンタルコントロールなのだ、と彼女に伝えて話をまとめた。
 
一通り聞き終えてから彼女は、
「なるほど〜、だから井上さんって怒らないんですね」
と言われた。
 
「いや、私だって怒るときがあるよ。
私が怒るときは、子どもが悪さをしたときだけ!」
と、照れ笑いをしながら応えた。
 
彼女は、だいぶリラックスをしたようで、顔色も良くなっていた。
そしてこう言った。
「本日はどうもありがとうございました!
今後は事前に手を打って、ひっくり返されないように気をつけます」
 
赤字原稿を持ってきた時は、彼女は少しオドオドしていた。
しかし打ち合わせを終えてから、すこしばかり頼もしい顔つきになって事務所から去っていったのだった。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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