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メディアグランプリ

中国政府の成果発表会


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事: 大毛 順子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
メルビンに初めて会ったのは、2017年の中国、広東省深圳市の福田(フ―ティエン)だ。
わたしはそれまで、深圳の企業で働く中国人の方々が、香港人同様、西洋の呼び名を持っていることさえ、知らないでいた。
 
今回の新型コロナが発生する直前まで三年間、技術者であるわたしの夫は、中国の深圳市に単身赴任していた。夫の勤めるオフィスは、その福田にあった。まだ三十歳位のメルビンは、同じオフィスで働く夫を、自分のメンターと呼んで、慕ってくれていた。
 
わたしは自分の有休が許す限り、深圳の主人の元へ通った。
そんなわたしにメルビンは、仕事を辞めて深圳に引っ越してくるべきだと、何度も説得を試みた。男の一人住まいは気の毒だ、夫婦は一緒に住むべきだというメルビンの意見は、わたしの耳には「昭和の父」が説教しているようで、苦々しくも、可愛らしく響いた。
 
メルビンは英語が上手で、いろんな話をしてくれた。びっくりするほど人懐こい性格で、人に良くしてあげたいという気持ちがとても強かった。
 
そんな心優しい彼も、この競争が厳しい中国という国で、しかも深圳という、正に「生き馬の目を抜く」という表現がぴったりするような、人口が特に多い最先端都市で、地方から出てきて、たくましく生きている一人だ。
 
ある時、好奇心から、メルビンに尋ねてみた。
「あなたが子どもの頃と、今の生活って、全体的にずいぶん違うよね?」
 
この質問は大ヒットしてしまい、彼は丸い目をさらにまるく見開いて、興奮して言った。
「すごい違いだよ! 僕が子どものころは、家にバスルームなんてなかった! もちろん車だって、誰も持っていなかった! もう、大変な変わりようだよ!」
 
メルビンは都会で就職して、ホンダ車を買ったのだそうだ。どうやらシビックのような小型の車らしいが、今はもう同じ型が手に入らないので、買ったときよりも高い値段がついているという。
 
ああ、本当に、日本の常識なんて、完全に忘れた方がいい。
 
そんな、2018年の大晦日の夕方だった。
夫のマンションに、わたしが来たのを聞きつけたメルビンが、遊びに来てくれた。
しばらく食べたり飲んだりした後、メルビンは時計を見て、
「大晦日の夜は、中国では、みんな必ずこれを見るんだ」と言って、テレビのチャンネルを替えた。
 
それはまさしく、中国版「紅白歌合戦」だった。
 
しかし、中国の感覚は日本とは大きく違う。歌合戦の合間に、豪華プレゼントの応募受付を、やたら高いテンションで進めている。
面白いことに、会場を異様に盛り上げてる豪華プレゼントとは、その頃中国の国内で不買運動が展開されていたiPhoneの最新版だった。
 
「あれ、iPhoneは、買わないんじゃないの?」と、意地悪な質問をメルビンにしてみた。
 
「iPhoneは、もう買わないよ。なぜなら、中国であれよりもっといい製品を作るようになったから、僕たちには、もう必要ないんだ」という、中国人的、超優等生な答えが返ってきた。
 
この紅白歌合戦の、すごかったところは、パクリ疑惑や数々の豪華プレゼントなどではない。
 
この国民的番組を中断して、習近平氏ご本人による、中国政府の「今年の成果発表会」が突然始まったのだ。
 
わたしは思わず、「あれ? 歌番組まわしちゃったの?」と聞いてしまった。
 
「まわさないよ。歌番組の途中だよ。これはね、中国政府が、今年こんなにいいことをしました、これほど国のためになる良いことをして、こんなに成果があって、国民の生活をこれほど豊かにしました、ということを、番組の合間の決まった時間に、全国民に向けて政府が発表をするんだ。この番組をみんなが見ているから、ここで毎年の大事な恒例行事をするんだ」
 
「へえ!」
 
これは日本に置き換えたら、「NHK紅白歌合戦」をいったん9時で中断して、自民党総裁が
「今年、自民党はこれだけの成果をあげました、国民のみなさんのためになることをこんなに成し遂げました、自民党は頑張っています、だから来年も支持してね」とプレゼンするのと同じ……
 
いやいや、日本政府もこのぐらい強く国民にアピールした方がいいんじゃないのか?
 
確かに、この発表会を見ていると、「こんなに国民に尽くしてくれている政府に感謝しないといけないね」という気持ちにさせられる。
 
例えば、深圳の街には、一定間隔で監視カメラが備えてあって、これも「防犯にどれだけ貢献しているか」と考えたら、市民は感謝しかないだろう。ひったくりにあっても、連続する防犯カメラの映像で、必ず犯人をお縄にできるに違いない。
 
各戸に、割としょっちゅう公安がやってきて、住人のチェックをするのも、彼らの重要な役目のひとつだ。
公安が来訪したとき留守にしていると、玄関ドアに出頭命令の紙が貼られ、指示通りに出頭するよう義務付けられている。外国人も例外ではない。こうして、厳しく治安を維持する役目が果たされているからこその安全と平和なのだろう。
 
日本人にはわからない「何か」がある。
 
メルビンは最近結婚して子どもが生まれたそうだ。
わたしはいつか、日本の我が家に彼らをゆっくり招きたいと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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