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メディアグランプリ

アマビエが描かれたパッケージのお菓子を差し入れたら「なにこれ?」と言われた事件


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:過客(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
君はアマビエを知っているか。
 
知っている人は、次の改行まで読み飛ばしていただいて問題ない。念のため説明をすると、アマビエとは、今年三月辺りから突然有名になった妖怪の名前だ。人魚のような風貌をしていて、ウロコに覆われた体に魚の尻尾、髪は地につくほど長く、鳥のくちばしのようなものを持ったユーモラスな外見だ。人魚に似たその見た目通り、海より現れたアマビエは、出くわした人に「疫病が流行れば私の姿を描いて人々に見せよ」と、告げたという。これが丁度、新型コロナウイルスという疫病の流行に見舞われた三月の日本の状況にぴったりハマった。数多くのイラストレーターがアマビエの姿を描いてSNSに投稿、一大ブームを巻き起こしたのだ。今やアマビエは「疫病退散の妖怪(神様)」のように扱われ、感染拡大防止のシンボルキャラクターとなっている。
 
恐らく、この記事を読んでいる人の多くは、アマビエのことを常識レベルで知っていると思う。上記の説明も、読み飛ばした人がほとんどなのではないだろうか。
というところで本題に入る。七月、私の職場でこのアマビエにまつわる衝撃的な事件が起きた。
 
忘れもしない今年七月の半ば、京都三大祭の一つ、祇園祭が執り行われている頃だ。客先で打ち合わせを終えて、京都のオフィスに戻る途中、私は土産屋に立ち寄った。
感染予防対策で、今年の祇園祭は神社でごく少数の関係者のみが神事を行うことになり、屋台も出ずお囃子も聞こえず、当然観光客もいない。
閑散とした土産屋で、観光産業応援も兼ねて、私は小物をいくつかと八ツ橋を手に取った。その八ツ橋は特別パッケージで、アマビエが描かれていのだ。さすがアマビエ、すっかりマスコットキャラとして定着したなあ、なんて思いながら帰社し、隣の席の同僚に八ツ橋を差し入れした。「アマビエのパッケージだからつい買っちゃったよ」と。
すると同僚は、とんでもないことを口にしたのだ。
 
「アマビエって何?」
 
それは私にとって「新型コロナウイルスって何?」と聞かれるのと同じぐらい、知っていて当たり前なことだったので、飛び上がるほど驚いた。「えっ、知らん? 有名やと思うねんけど……」「いやいや、知らんし、初めて聞いたわ……」お互い自信を失ったままのやり取りを行った後、同僚はさらに隣の席の上司に声をかけた。これ知ってますか? 三十代後半の上司は、箱をじっくりと見つめてから、ああ、と言った。
 
「聖護院の八ツ橋だよね?」
 
もはやアマビエは認識すらされなかった(上司もアマビエを知らなかった)。
 
そこから話題は周囲の人間に飛び火した。上司と同じ年代の男性が、「アマビエ知らないとかありえなくないですか?」と目を丸くし、「どうやって七月までアマビエを知らずにいられたのか」とのコメントは二十代女性、「何やこれ、知らん……」と首を傾げるベテラン営業マン、「あ~、あれですよね。アマエビ」と答えたお茶目な三十代男性。尋ねた人の半分が知っていて、半分が知らないという結果になった。
 
これは驚くべきことだ。
SNSで盛り上がったネタが、世間一般では全く知られていない、なんてことはよくあるが、アマビエは違う。始めこそSNSをきっかけに有名になったアマビエが、今は様々な企業がパッケージデザインに取り入れているし、ビッグネームで言うとサンリオがハローキティとのコラボグッズを売り出している。
LINEでは、人気クリエイターがアマビエをネタにしたスタンプを販売しているし、そしてなにより、厚生労働省が新型コロナウイルスの感染防止啓発のイメージキャラクターに、アマビエを採用している。
単に「アマビエはネットユーザーにしか伝わらない内輪ネタだった」とは考えにくいのだ。
 
何故ここまで、アマビエを「知っていて当たり前」な人と、「全く知らない」人に分かれたのか、その理由は私には分からなかった。ただ、この「アマビエ知らない人思ったより多すぎ事件」から、はっきり分かることがある。それは、「当たり前だと思っていたことは、ごくごく身近なところで簡単に覆される」ということだ。
 
公的機関にイメージキャラクターとして採用され、土産屋のお菓子のパッケージに載っていても、アマビエを知らない人は大勢いた。
これは情報格差が広がっているとか、世俗に興味がない人が増えたとか、そのような大層な問題ではない。
ただ、自分の常識は思い込みかもしれない、異なるコミュニティでは全く通用しなくなるかもしれない、ということは、常に意識するべきなのだ。もちろんそこで、そんなことも知らないなんて、と切り捨てることはあってはならない。
 
ここで少しだけ話を元に戻したい。私は同僚に、アマビエが描かれたパッケージの八ツ橋を差し入れした。さて、どんな八ツ橋を想像しただろうか? 柔らかい餅のようなお菓子か、それとも、せんべいのような硬いパリパリとしたお菓子か? 一部の人は(そしてもし同じ質問を数年前の私がされたら)、きっと驚くに違いない。「硬い八ツ橋なんてあるの?」と。
 
アマビエも八ツ橋も同じだ。どちらも自分の常識を疑うことを教えてくれる。多様化していく世界で、当たり前はやすやすと変わっていく。それを自覚し、受け入れ、当たり前を常に疑い続けるのが、今この現代で生きるために必要不可欠なことなのだろう。
 
ちなみに「聖護院の八ツ橋だよね?」と言った上司は、京都生まれの京都育ちだが、大人になるまでそもそも八ツ橋のことを知らなかったらしい。京都に住んでいたら、わざわざ京都の土産を買わないとのことである。やはり「当たり前」なんてものは世界に存在しないのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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