メディアグランプリ

2人の母が教えてくれた、言葉の持つ力


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記事:yocca.(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
ここ1年、ずっと心に引っかかっている言葉があった。
それは、母から言われた「怖い」という一言。
 
私の2人の息子のうち、幼稚園に通う次男には複数の食物アレルギーがある。特に乳製品アレルギーは症状が重く、少量口にしただけで呼吸が苦しくなるなどの症状が出てしまうため、現在は完全に乳製品を除去した食生活を送っている。
 
牛乳やチーズ、生クリーム、ヨーグルト、バター…… 乳製品といえば、すぐにこのような食材を想像する人も多いと思うが、「ハム」や「ベーコン」に乳製品が含まれていることがある、というのはご存知だろうか? また、「せんべい」といった一見乳製品とは無縁そうなお菓子でさえ、乳製品入りのものが存在する。そのため、どんな食品も原材料表示のチェックは欠かせないのだ。
 
食品のアレルゲンチェックが毎日のこととなると、それが生活の一部として当たり前になる。しかし、アレルギーを気にしなくてよい人にとってはそうはいかない。お盆と年末年始にしか次男と顔を合わせない母(次男にとっては祖母)もその一人だった。
 
それは1年前。久しぶりに帰省したとき、母は孫との再会を喜び、家にあったおせんべいを次男にあげようとした。しかし、それは乳製品入り。慌てた私はすごい剣幕でおせんべいを取り上げた。
母は「ええ~っ?おせんべいもだめなの?」と、いまいちピンとこない様子。
 
私が「パッケージに乳製品を使用している表示があるよ。ちゃんと確認してね!」と教えても、普段表示を確認する必要がない母にとっては難しい。また、表示が小さく読みにくいし、個人経営の飲食店で販売している商品には表示すらないこともある。慣れない人が完全にアレルゲンを除去するのは大変なことだと思う。
 
しかし、アレルギー持ちの人にとって誤食は命に関わること。このようなトラブルが何回か続いたこともあり、「次男の口に入れるものは私が全て確認する」と母に話した。
 
母はもちろん了承してくれた。しかし、話の最後に半ば怒り気味な様子で
「もう、なんだか怖いわ。何か食べさせたくてもあなたに色々と言われるし。〇〇(次男)ちゃんの食事は用意しないから、あなた作りなさい!」
と言葉を投げかけてきたのである。
 
私が食事を用意することは何の問題もない。むしろ、それまで母に負担をかけて申し訳なかった気持ちもある。
しかし、「怖い」という言葉に私は驚きショックを受けた。
母の口の悪さは今にはじまったことではないのだが、この言葉は私が「はいはーい」と言ってサラリとかわすには、あまりにも重すぎた。
 
「怖い」という気持ちは、とてもよくわかる。
正直、私も毎日が怖いのだ。次男にアレルギーの症状が出たときは最悪の事態を想定して慌てるし、食べさせたことのない食材を使って料理するときは、毎回極度に緊張する。
 
でも母に「怖い」と言われて私はとにかく悲しかった。
なぜだろう……?
1年近くの間、もやもやとこの気持ちを引きずっていた。
 
引きずる気持ちを拾い上げてくれたのは、最近はじめたTwitterだった。
どうしても飲み込めないこの言葉を、Twitterで何となくつぶやいた。すると、ある人が「心配してくれての発言でしょうが、「怖い」って言われると見捨てられた気持ちになりますよね」と声をかけてくれたのだ。
その声が、心の引っかかりを解く鍵となり、導いていく。
 
母から「怖い」という言葉を投げかけられて、私はこう解釈していた。
「母は次男のアレルギーのことを理解するつもりはない」、
「母は次男に何かあっても、助けるつもりもない」、と。
次男と私は、母から「突き放された」と感じていたのだ。
 
「怖い」という言葉には「不安」という意味合いが含まれる。
母の「怖い」という言葉は、実際は「次男のアレルギー」に対しての不安を言っていたのだと思う。母は事件後に私たちを突き放すような言動はとっていないことからも、そう考えられる。
でも私は、母が「アレルギー持ちの次男の存在そのもの」を怖いと思っている、と感じとってしまった。
 
私の言葉に対する感度が高すぎたのか、それとも母が言葉に無頓着すぎるのか……。
どちらにしても、傷つけるつもりなく口にした言葉でも、相手が傷つくことがある。そして、ごく短い単語一つで、人は簡単に失望できることができる。
しかも悪気のない言葉は、悪意ある言葉とは違って静かに心に忍び寄り、じわりと心に傷をつけるのだ。
1年前に母に言われた「怖い」という一言は、このことを嫌というほど味わう出来事となった。
 
実は、1年前のこの事件には、後日談がある。
 
母とのやりとりの数日後、私に
「アレルギーってこんなに難しくて大変なのね。ママも〇〇ちゃんもよく頑張っているよ!里帰り中の食事は作ってもらうけど、商品名を知らせてくれたら買っておくから。それくらいは協力させてね!」
と言葉をかけてくれた人がいた。
 
それは義母だった。
 
アレルギーに対する不安な気持ちや対応できないことをハッキリと伝えつつも、「アレルギーとともに過ごす生活を応援しているし、できることは協力する」という、寄り添う気持ちにあふれるメッセージだった。この義母の優しい言葉は、私の心を温め癒してくれた。実母に対する悲しみは消えなかったけれど、その後前を向くことができたのは、義母の言葉のおかげである。
 
苦しい状況は同じでも、言葉ひとつで傷つけられたり勇気づけられたり…… 言葉って、本当に難儀なもの。だからこそ、相手の気持ちに寄り添う思いやりのある言葉をかけられるような人に、私はなりたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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