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「ダニ」が教えてくれた熱中できる趣味の見つけ方


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「ダニ」が教えてくれた熱中できる趣味の見つけ方
記事:畑澤直希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
趣味は何か。と聞かれて困ったことはないだろうか。かくいう私は、今まで質素な生活をしてきたせいか、お金の使い先がないことに気づく。日々の生活の質をあげるには何をしよう。特に趣味もないし、これを機に何か始めようか、と考えていた。
 
その矢先、事件が起きた。この話は、目に見えない不安との戦いを通して得た「熱中」に関する人生訓である。
 
「ちょっと布団で寝られそうにないから、部屋がきれいになったらまたくるね」
 
彼女と半同棲生活をはじめて8ヶ月、今まで何不自由なく過ごしてきた。このままなんとなく過ごしていれば、ずっと一緒に過ごすことになるのだろうと思っていた。
 
きっかけは、彼女が家に泊まった時、足が痒くて寝られないと言われた時である。
 
とても嫌な予感がした。家の掃除は割と丁寧にしている。6畳一間の部屋には、毎週ルンバが縦横無尽に走っている。部屋のフィルターというフィルターの埃も取っている。
 
「ふとももが痒い……」
 
彼女の足に赤く腫れた斑点が2つ並んでいた。もう、おおよそ理解しているのだが、念のためインターネットで症状を調べてみる。
 
「赤い斑点、並んで2つ、痒い」
 
検索ワードをクリックすると、画面上に出てきた文字は、ダニであった。このたった2文字のこざかしい虫のせいで、無期限のお泊まり禁止宣言。これは大変由々しき事態である。
 
その日から、私とダニの終わらない闘いが始まった。
 
こうしてはいられないと、ダニの生態を調べてみようと行動に移す。どうやら高温多湿の環境が好みらしい。そういえば、今年はジメジメとした日が続いていたような気がする。それが原因か。この実害を取り払い解決しようと心に決めた。
 
「繁殖に適した条件は温度が20℃〜30℃、湿度が60%〜80%……」
 
サイトを見ると、この条件がダニの好きな環境らしい。だが、そもそも湿度60%〜80%を避けた環境ってどうやってつくればいいのだろうか。手探りでサイトを調べると、どうやら除湿機を使えば解決するとのこと。仕方ない、と買ってみる。
 
また、ついでにダニ除けスプレーと布団専用のクリーナーなど、周辺装備もあるらしく、いつの間にかたくさんの装備を買っていた。気づけばダニについての知識も相当ついた。全く歓迎されなかったものの、飲み会の時に人に語れるレベルにはなっていた。
 
そして、ダニ除けのために毎晩布団にクリーナーをかけることが日課になっていた。布団クリーナーの音を聞くと気持ちがいいというか、無心になってベッドの隅から隅までクリーニングする行為自体が瞑想に近いものになりつつあった。
 
今年で30歳になるが、趣味という趣味がなかった。周りの友人は、20代の後半くらいから自分の趣味にお金を投資していた。サーフィンに時間を費やしたり、好きなアイドルのコンサート行ったり、自分のやりたいこととお金の投資先が一致している姿は、みんな本当に幸せそうであり、羨ましかった。
 
そんな矢先、家にダニが出た。夢中になって駆除をしようとし続けた結果、いつの間にか、このダニ掃除が日々のルーティンとなり、仕事を忘れ自分に向き合う機会といっても過言ではない、日常にかかせない時間となった。
 
「僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる」
 
高村光太郎の詩集、「道程」の一節である。これまで、趣味はなにかと聞かれた時、特にないことがコンプレックスだった。探しても、探しても、見つからなかった。けれど、夢中になってダニを除去しようと思っていたら、いつの間にか「ダニの駆除」という趣味が出来上がっていた。全く意図せず、である。
 
意識して趣味を探していても手に入らなかったけれど、何気ない日常を過ごす中で、夢中になれるものが見つかることがあるのだな、と感慨深い気持ちになった。こんな小さき虫に熱中するなんて。きっと彼女がいなければ、こんな虫に見向きもしなかったのに。ふと我に帰り後ろを振り向くと、なんとなく道ができているような気がした。その瞬間に初めて、高校時代に教科書で読んだこの「道程」の解釈を自分の中で咀嚼し、昇華することができた気がした。
 
今では毎日布団クリーナーをかけ、ダニ避けのスプレーをかける。その繰り返しがダニを駆除するだけでなく、自分のストレスをなくすルーティンとなるとは夢にも思わなかった。そんなことを続けていたら、どうやら私の行動を評価してくれたらしく、彼女も戻ってきてくれた。
 
「おれ、ダニの駆除が趣味になったかもしれない」
と、彼女に言ってみる。
 
「それ、私の前以外では言わない方がいいよ」
と返ってくる。
 
そうなのか?と我に返りそうな自分の雑念を振り払うかのように、今日も無心で布団の隅々をクリーナーで撫で回す。気づけば、網戸から入ってくる夜風は寒く、秋の気配がする。小賢しい2文字の虫も徐々に出なくなってくるのだろう。それはそれで寂しいな思ったけれど、クリーナーの騒音が口から出かかったその言葉をかき消す。フィルターには、達成感が詰まっていく。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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