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画家が娘に教えたこと


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画家が娘に教えたこと
記事:鳥井 春菜(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の両親は、父も母も画家だ。
二人は自宅で絵画教室を営みながら、数年に一度個展をして自分たちの作品を販売している。そうして稼いだお金で、娘三人を育ててくれた。
画家の両親に育ててもらえてよかったと思うのは、人生を進んでいくための大切なことを教えてくれたからだ。
 
その絵画教室は、自宅の敷地内の小さなプレハブで開かれていた。
三歳の頃から教室に通っていた私は、そこであらゆるものを作った。絵の具やクレパスで絵を描くことはもちろん、お皿に特殊な絵具で絵付けをしたり、絵本を作ったり、ハンカチに染め物をしたり、ステンドグラスを作ったり……飽きることがなかった。
娘三人分の作品は年を追うごとに溜まっていき、自宅の階段やタンスの上、生活のあらゆる場面に作品が散りばめられていた。
 
そんな中、小学生の高学年くらいのことだったと思う。
その頃の私は、自分の作品にいつも不満だった。
 
「違う、なんか違う。こういうのが作りたいんじゃないのに……」
 
自分の中の理想と出来上がったもののギャップ。
頭の中では「こうしたい」という像がちゃんとあるのに、それを形にできずにイラ立っていた。
思えば当時、教室の中にとても丁寧にものを作る子がいて、その細かな作業が施された作品を見るうちに、自分もそういうものを作りたいと憧れていたのだ。
それができない自分の絵に納得できなかったし、不格好に思えて悲しかった。
 
ある日コスモスの絵を描いた時にも、その想いはポロリとこぼれた。
自宅で完成したての作品が飾られている側で、私は母にもらした。
「それ、あんまり気に入ってないんだよね」
母はすかさず言った。
「えーっ!どうして!?すっごくかわいいのに」
……だって、本当はもっと線が細くてキレイな感じにしたくて、こんなに絵の具をベタッとしたくなかったんだもん。
 
もう一つ、似たような思い出がある。
小学校からの帰り道、私にはある習慣があった。それは、花好きの母を喜ばせるために空き地で花を摘んでくること。
だけど、ある日の花束がどうにも納得できない。
色のバランスも高さも、何もかもがダメ。すごく不格好。一緒に花を摘んでいる妹の花束のほうが、ずっとよく見える。
いっそこのまま捨ててしまおうと何度も思ったが、なんとか家まで持って帰った。
母は、いつも通り喜んでくれた。
「……本当は、途中で捨てちゃおうかと思ってたんだ」
思わず、そう告白した。
「もったいない!!こんなに素敵なのに!!」
驚いたように答える母に、私は幼心に「自分がダメだと思っても、人は喜んでくれることがあるんだな」とじんわり心が解きほぐされていき、「これからはどんなに下手くそだと思っても絶対に捨てずに持って帰ろう」と決めた。
 
二つの思い出は、思い返せばどちらも絵画教室の方針と重なっていた。
『絵に上手い下手はない。その子のいいところを、引き出してあげることが大切』
情熱的な父は、よくそんなふうに語っていた。その想いは母も同じで、それこそが二人の絵画教室の方針だったのだと思う。
 
誰しも持っているものが違う。
他人と同じでなくても、自分の中にある素敵なものがもっともっと伸びていけばいい。
あの教室で教えられていたのは、そんなことだったと思う。
私はそんな価値観を教室ではもちろん、日々の生活の中でも全身で浴びていた。
そうだ。他人へ憧れを抱くことは悪いことではないし、原動力にもなる。だけど、同じようにできなかったとしても悲観する必要はない。なぜなら、自分には自分のよさがあり、それを認めてあげることも、とても大切なことなのだから。
理想と現実のギャップで自分が嫌になってしまうような子どもだった私が、ある程度の自己肯定感をもって育ってこられたのはこの教えのおかげかもしれない。
 
社会人になった今、思うことがある。
社会に出ると、自分の見識の狭さや考えの甘さに直面する人は多いと思う。
「どうして上手くいかないんだろう?私はダメなやつなのかな……」
私自身、そう思うことがあった。それでも、いつもなんとか気持ちを立て直すことができたのは、根っこのところでは「自分には自分のよさがある」ということが染み付いていたからかもしれない。
今できていないことはちゃんと受け止めなければならないし、反省点は改善するべきだろう。でも、だからといって自分がダメな人間というわけではないのだ。いいところだって、ちゃんとある。
落ち込んで、自信がなくなって挫折してしまう。それこそが一番悲しく悔しいことだ。
躓いたときに、他人と同じようにできることが全てではないし、自分は自分のやり方でいい、と思えたら少し気持ちが楽になるかもしれない。
 
今、当時は気に入らなかったコスモスの絵を見てみると案外上手く描けている。
確かに繊細さはないが、のびのびと元気な筆使いは空に向かって真っすぐ伸びて咲くコスモスの生命力を感じる。あの時には分からなかった、この絵の中の素直さやおおらかさがいいなと思えるようになった。母はあの頃からずっと、その絵を飾ってくれている。
 
私にもし、子どもができたら、同じこと教えてあげたい。
「好きなようにやってごらん。あなたのいいところを伸ばせばいいんだから。」
そうして、他人とか常識とかに縛られずに、自由にのびのび挑戦してほしい。
だけど、子育てはまだもう少し先のこと。
今はまだ、ギャップに悩んだりプレッシャーで固まったりせずに一歩を踏み出して行けるよう、私自身が教えてもらったことを唱えて突き進んでいきたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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